
2020年1月、シアターコクーンの芸術監督に就任した大人計画の松尾スズキ。刺激的なオリジナル作・演出作品を発表し続けている松尾が、『パ・ラパパンパン』で自作以外の戯曲演出に挑戦し、松たか子が松尾の舞台に初出演する。
脚本は、2016年に松尾が主演したNHK木曜時代劇『ちかえもん』で第34回向田邦子賞を受賞した脚本家・藤本有紀。兵庫県伊丹市出身で、07年の『ちりとてちん』に続き、脚本を担当するNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』がスタートしたばかりの時の人だ。松尾が「藤本さんの脚本を演出するのは念願の夢」とラブコールを送った藤本との初タッグ作品は、本格ミステリーを書く羽目になったティーン向け小説家を軸に、現実と物語が交錯するファンタジックなミステリーコメディ。
出演は主演の松たか子をはじめ、神木隆之介、小日向文世ら、大人計画のメンバーと共に、まるでドラマのような豪華キャストが顔をそろえる。チケットは先行予約の売れ行きが上々で、追加公演も決定。
現在稽古中の松尾と松が2人で大阪公演のためにリモート会見を実施した。「大阪の方は一度受け入れてくれると、とことん楽しんでくれる方たちだと思う」と話す松尾と、「劇場という場所の空気がとても好き」と言う松が作品への思いや見どころ、意気込みなどを語った。
【あらすじ】
鳴かず飛ばずのティーン向け小説家・来栖てまり(松たか子)は、雰囲気に流されて書き方もわからないのに「本格ミステリーを書く!」と宣言してしまい困惑中。担当編集者・浅見鏡太郎(神木隆之介)はあきれながらも構想を手伝うことに。無理やりひねり出したのは19世紀のイギリスのクリスマス・イブを舞台に、『クリスマス・キャロル』の世界に登場する極悪非道の貸金業者・スクルージ(小日向文世)が殺されるというミステリー。書き終えて安堵に包まれた瞬間、「犯人が違う!」と気付く。書き直そうとあわてて編集者に連絡を取ろうとした時、現実でも事件が起きる…。
【藤本有紀との出会い】
「何年か前に『ちかえもん』という時代劇を書いていただき、それに出演させていただいた時に、いままでのドラマに感じたことのない衝撃の自由さとセリフのおもしろさがすごく斬新だったんですよね。それでお友達になってもらって何回か食事するうちに、お芝居の台本も書いたことがあると言われたので、自分がもし新作を書いてもらうとしたらこの人だなという思いが固まって来て。それで『やりませんか』と言ってから4年ぐらい経って、今です」(松尾)
【どのようにオファーを?】
「自分も作劇をしますけど、わりとカオスに寄りがちというか。いわゆるエンターテインメント的な、きちんと布石を置いて最後に返しをして、きれいに終わるみたいな、そういう話は書けたことがないので、そんな話を一度やってみたかったんですよね。映画やドラマにも展開できるような作品を書けた試しがないので、そういうメディアミックス的なことも出来たらいいなという思いもあって。僕はもともとアガサ・クリスティのような感じの、豪華客船や特急列車が出てきたりするミステリーが好きなんです。なので、藤本さんに僕が書けたことがないミステリーを、しかもエンターテインメントでコメディで、というお願いをしました」(松尾)
【脚本を読んだ感想は?】
「ドラマの脚本家さんなので、鮮烈なミステリー劇、ひょっとしたら1幕ものぐらいのが上がって来るのかなと思ったら、すごく混とんとしていて現実世界と小説の世界の登場人物が行きつ乱れつみたいな。そういう中にでもトリックや伏線とかがあり、最後には回収されていくという。演劇とドラマが合わさった、不思議な作品になっていますね。だからすごくおもしろい本なんですけど、自分が本を書く時は衣装の転換とか考えて暗転が何度も入らないように書いていくんですけど、藤本さん、その辺ものすごく自由に書いてらっしゃるので、そんなところが今、非常に苦戦しています(笑)」(松尾)
【松尾の舞台に初参加して】
「多分私、大人計画の舞台を最初に観たのは『ウェルカム・ニッポン』(12年)だったと思うんですけど。その時に、おもしろいけど、なんか切なくてキレイだった、という、すごく不思議な気持ちになった記憶があります。松尾さんとは、脚本を書かれた映画に出たり、共演したり、いろいろな微妙に違う立ち位置で出会ってはいたんですが、今回舞台に出させていただけてすごいうれしいです。
大人計画の皆さんは、そのつながりの強さや松尾さんにまっすぐ向いている姿とか、すごく素敵ですね。皆川(猿時)さんは今まで何度かご一緒していて信頼しているので、不安になった時は皆川さんに聞いています。心強いです」(松)
【初参加の松に期待することは?】
「もう、期待は上回ってらっしゃるんですけれども。もともと松さんとご一緒したくて、前から何度もオファーしていたんですけれども、断られ断られ(笑)。なぜか今回、別の人の本でやると、なんとなくやる気が起きたのか(笑)」(松尾) 「違いますよ!(笑)。タイミングが合わなくて」(松) 「僕は松さんの歌声が大好きで、初めからそれありきでお願いしております」(松尾)
【主人公・てまりについて】
「もしかしたら、クリスマス・キャロル殺人事件というのは彼女の容量を上回った想像力で作ったお話なのかもしれないけど、基本的に彼女は自分の身の丈と向き合いながら生きてきたような人に感じています。それがふとクリスマスの魔法なのか、奇跡のような思わぬ広がりを見せる。どんな人にもささやかな奇跡は起こるのかなっていう、そんな彼女の2日間だと思います」(松)
「多分、この主人公は『書け、書け』と言われたり『書くな、書くな』って言われたり。そういうがんじがらめの中で小説の世界に入り込んで行くという筋立てになってるんですけど。多分、なんかそれはきっと藤本さんが普段感じてる思いとかがすごく集約されてるんだろうなと思う。自分も作家として同じ時代を生きてるわけですから、そこに感情移入するところは過分にあります。『頑張れよ、てまり』と思ってやっています」(松尾)
【コメディで大切にされているコツは?】
「私自身はおもしろいことをおもしろく話せない人間で、本やそれを作る方に引っ張り出してもらってる感じで。私がおもしろいことをやろうと思うと多分失敗するから、とりあえず一生懸命しゃべったり動くということしか。あと、そこにいる人たちをおもしろいなぁと思って日々過ごすことぐらいかな」(松)
「謙遜されてますけど、けっこう動きとかおもしろいんですよね。笑いの”間”は動きによって決まっていったりするもので、すごく大事なんです。止まるところはピシッと止まる、動くところは無駄な動きを入れずに動くということが出来る人は、笑いが出来ているなと思うんです。松さんと言えば声とか歌とか言われますけど、動きがおもしろい。そこらの40代の人とは違います」(松尾)
【見どころ】
「クリスマスも近いことですし、気分的に同調してもらえる部分もあるかな。また、クリスマスという大事な日に悲劇が起きるからこそ、皆で解決していくアドベンチャー感というかね。わずか2日の物語ですけど、そこに作家が作った小説の世界観と、作家のいる現実、両方でミステリーが起きる。それを夢を見つつ、みたいな感じで解決していく、すごく斬新な推理ドラマなんですね。うまくできたらとても楽しい作品になるんじゃないかなと思っています。めちゃくちゃ分厚い台本の中にすごくいっぱい自由が詰まっていて、とてもドラマの作家の人が描いたとは思えないほど、演劇的な自由さがエグイよ。その辺は楽しんでいただきたいなと思いますね」(松尾)
「クリスマス・キャロルをご存知の方もご存じでない方もいらっしゃると思いますけど、楽しいんじゃないかなと思います。あくまでも、一作家を名乗ってる”てまり”が考えた頭の中に出てきた人たちの物語なんだぞ、という。楽しみの詰まった舞台になるんじゃないかなと思います」(松)
【コロナ禍での思い】
「この話が決まったのは随分前の話で、もちろんその時はコロナになるなんて誰もが思ってなかった時期です。今、みんなマスクを付けて稽古していて、正直、微妙な表情がわからないというストレスの中でずっとやってる。そんなストレスは、みんな日常で抱えてると思うんです。慣れては来てると思うけど、どうしても慣れない。そういうなかで、コロナのない世界が舞台上で展開されている。コロナ禍のストレスをひとときでも忘れて、ファンタジックな世界に酔いしれるのもいいんじゃないでしょうかね」(松尾)
「この状況の中で、こんなことをやってる人たちもいるんだぞ、という。こんなにも真剣に稽古し続けて舞台に乗っけようとしてるんだぞ、という誇りは持っていたいと思います。マスクは本当に苦しいですけど、逆に鍛えられるかな、みたいに。全部をプラスに思い込ませて、どこまでいけるだろうと。もちろんお客さんにも、難しいことを考えずにいろいろ忘れて楽しんでもらいたいって。でも、それはいつもと変わらない、結局今まで通りのことをやるしかないかなと。それを楽しんでいただければなと思います」(松)
【お客様へのメッセージ】
「旅公演とかリスクがあるなか、緊急事態宣言も開けて少しは穏やかになって来たんじゃないのかなとは思っておりますが、感染対策もちゃんとしながら、PCR検査もいっぱいやっています。安心して楽しみに来てください。脚本家の藤本さんは関西の方で、けっこう関西のドラマを書く人だから、大阪の人にはなじみがある方かなと思います。朝ドラの人が描いたんだなと思っていただけると大阪の人は楽しいかな」(松尾)
「大阪にまたうかがって、皆さんに会えるのを楽しみにしています。私は今回の劇場が初めてなので、ドキドキしてますけど。大阪の方もお芝居や笑うことが好きな方が多いので、やる側としては劇場の扉が開くことが何よりも幸せで、まず私たちが入り、そしてお客様をお迎えするのを本当に楽しみにしています。『こんなことをやってたのね』っていう、盛りだくさんなお芝居と共にお邪魔すると思いますので、是非、いらしていただければと思います」(松)
●STAGE
COCOON PRODUCTION 2021+大人計画
『パ・ラパパンパン』
前売開始:11/7(日)
日時:12/4(土) 15:00、5(日)・11(土)12:00・17:00、6(月)・9(木)・10(金)・12(日)13:00、8(水)13:00・18:00※7(火)は休演
会場:森ノ宮ピロティホール
演出:松尾スズキ
作:藤本有紀
出演:松たか子、神木隆之介、大東駿介、皆川猿時、早見あかり、小松和重、菅原永二、
村杉蝉之介、宍戸美和公、少路勇介、川嶋由莉、片岡正二郎、オクイシュージ、筒井真理子、坂井真紀、小日向文世
料金:1万1500円
問:キョードーインフォメーション 電話:0570・200・888
公式サイト:https://otonakeikaku.net/stage/1742/
取材・文=高橋晴代
※新型コロナウイルス(COVID-19)感染症拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。
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