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上西雄大監督の最新作「西成ゴローの四億円」が京都国際映画祭で上映。社会問題と向き合う人間模様を描き続ける理由とは

  • 2021年10月15日
  • Walkerplus

海外の映画祭にて数々の賞を受賞した、上西雄大監督・主演の最新作「西成ゴローの四億円」が、開催中の「京都国際映画祭」にて10月16日(土)によしもと祇園花月でプレミア上映される。当日は「上西雄大特集」と題して、赤井英和とタッグを組んだ「ねばぎば 新世界」、児童虐待を正面から描いた「ひとくず」のディレクターズカット版も一挙上映。各作品、上西監督はじめ、赤井英和、津田寛治、木下ほうからによる舞台挨拶も決定している。
「西成ゴローの四億円」は、大阪の西成に住む記憶を失った所持金0円の日雇い労働者・土師悟朗(ゴロー)を主人公にしたマネークライムエンタテインメント作品。“人殺しのゴロー”の異名を持つ彼が、難病を患う娘の手術費のため4億円を稼ぐ生き様を描く。上西監督自身が主人公・ゴローを演じ、最大の敵に奥田瑛二、ゴローの元同僚を津田寛治が演じ、他にも松原智恵子、笹野高史、加藤雅也、木下ほうか、石橋蓮司ら豪華キャストが集結。今回は本作を中心に、上西監督作に通じる人間くささ、そして特集上映をひかえた今の心境を聞いた。

■日本を代表する名優たちと、芝居でぶつかり深く人間を描く
ーー京都国際映画祭での特集上映が行われますが、率直な今の心境はいかがですか?

「特集上映を企画していただけること自体が初めてなので、少し戸惑いながらもどう表現すればいいのかわからないぐらい歓喜しています。なにより今回、上映する『西成ゴローの四億円』の製作総指揮を奥山和由さんにつとめていただいていて。数々の名作を手がけてこられた、憧れの奥山さんと映画を作りながら一緒に走って進めてきたこと自体が、まるで夢の中に足を踏み入れているような感じなんです。そんな中で特集上映の話までいただけたので、現実を飲み込みきれていないぐらい夢心地ですね」

ーー数々の名作を手がけてこられた、奥山和由プロデューサーとはどういったきっかけで共に映画を作ることに?

「僕の『ひとくず』を奥山さんにご覧いただけたと聞いて、一度お会いしたいとお願いしたことがきっかけです。その時には、『西成ゴローの四億円』の前編をすでに撮り終えていたので、映画についてお話をしたらすごく面白がってくださりご一緒させていただけることになりました。僕は昭和の映画を観て育ち、奥山さんの作品からも人生において大切なことを学びながら苦しいことも乗り越えてきたので本当に憧れの存在なんです」

ーー奥山さんと実際に初めてお会いした時の印象はいかがでしたか?

「オーラがすごくて、今までに会ったことないような方でした。ダイレクトに考えていることを伝えてくれるし、僕の考えていることも少しの言葉で飲み込んでくれる人なんです。そんな奥山さんと一緒に映画を作れたことで、後編にあたる『西成ゴローの四億円 死闘編』はさらにスケールアップしています。トレーラーの編集やイメージも見ていただいたことで、僕の作った映画ではあるのですが奥山さんが手がけた『いつかギラギラする日』(1992)のようなテイストになっていて、さぶいぼ(鳥肌)が出るほど感動しました。もう、痺れましたよ。痺れるなんて普段使わないけど、あの時ばかりは痺れました」

ーーそんな「西成ゴローの四億円」が、2021年11月の先行上映、2022年の本公開に先駆けて京都国際映画祭で上映されるのは待ち遠しいですね。

「僕の人生を賭している作品なので、こうして世に出るタイミングをいただけたことはすごくありがたいなと思っております。今回の特集上映は前編の上映となりますが、その後の公開では奥山さんのアイデアで前編と後編を同時に公開します。映画の世界観やキャストがスケールアップした、後編も合わせて楽しんでいただきたいですね」

ーー前編から出演の奥田瑛二さん、津田寛治さん、山崎真実さん、波岡一喜さんらに加えて、後編では笹野高史さんに木下ほうかさん、加藤雅也さん、そして石橋蓮司さんら豪華なキャストが参加されていますね。

「石橋蓮司さんはずっと好きで観きたので、いつか一緒にお仕事をしたいという念願が叶いました。奥田瑛二さんも笹野高史さんも、みなさん役者として芝居でぶつかりたいと思っていた方ばかりなので、役者冥利につきる感動の連続でした。というのも、みなさん台本を渡しても絶対に僕の描いた世界の上をいくんです。それに対して僕も全力でぶつかるし、そうして出来上がったシーンというのは想定していたシナリオよりずっと輝いて、深く人間をみせることができるんですね」

ーー芝居で負けじとぶつかると。

「僕は、芝居を“オールリアクション”だと思っているんですね。自分からアクションするのではなくて、その環境だったり相手からいただいたものをどうリアクションして表現しようかと考えています。“ぶつかる”というとアクション同士がぶつかるようなイメージになりますが、僕の考える演技は発色し合うことで。セリフが決まってはいるけれど、相手がその言葉に乗せてくる感情や色を、そのまま返すのではなく、相手の芝居を受けて僕の中で発色したものを乗せて返すようなイメージです。簡単に言えば、緑色の球が来たら、僕の中で紫色になった球を返して、すると今度は黄色になった球が返ってくるような感じですね。そうして発色し合うことで、本当の人間が生まれてくる」

ーー「西成ゴローの四億円」は、特に劇中でナレーションや説明セリフが少ないと思うのですが、それでも登場人物の個性やバックグラウンドが伝わってくるのは、みなさんの演技から人間味がにじみ出ているからこそなんですね。

「説明セリフがなくても、表情ひとつで『こいつがどういうやつで、何を考えているか』というのを現場でも映画を観た人にも伝えられたら、それこそが役者の最高の仕事だなと思います。ゴローの表情ひとつとっても、その表情にたどり着くには相手から受けたものがないと生まれないし、ゴローとして渡したものが相手の新たな表情を生むと思っています。撮影中は監督としてでも、役者としてでもなくゴローとして相手と対峙してきて、中でも奥田瑛二さんの芝居は本当にそこに存在している“人間”で凄まじかったです。すごく勉強になりました」

ーー人間臭さや生き様が滲むからこそ、劇中の登場人物たちが現実世界のどこかで生きてるように思えてなりませんでした。

「ゴローが卵かけごはんを食べていて、ごはんに箸を刺すシーンがあって。普通、縁起が悪いからしちゃダメなんですけど、あの時は台本にはないけれどゴローとして自然とそうしたんですね。生きることへの執着がない男だから、平気でできてしまう。狙ってはできない、ゴローとして生きて初めて出てくる人間の色です。それこそが役者の表現だし、リアリティに近いものだと思います。僕はそうやって演じてきましたが、みなさん人間のつくり方がそれぞれある。役者としてものすごい領域に到達されている方ばかりだから、現場では感動の連続でした。天才・木下ほうかさんにしかできない役だったり、それを受けた加藤雅也さんも凄まじい。加藤さんなんて、大阪弁をカッコよく話す完成系の人だなと思いましたね」

■西成を舞台に、大阪弁だからこそ出せる人情味
ーー関西弁、というより“大阪弁”ですよね。怒号を浴びせるような怖いセリフもシリアスなシーンも、どこかチャーミンングで笑える瞬間があったりして。これは人情味あふれる大阪弁にこだわられてるからこそなんだろうなと。どん底なのに、どこか笑える。

「ゴローなんて所持金0円ですからね。まさに、そこには大阪弁で会話をすることの冥利があります。標準語にはないニュアンスを出せるんですよね。ゴローが『〇〇したやろ』と言うと、津田寛治さんが『おう』って返す。それに対してゴローが『おう、ちゃうねん』って突っ込む。『おう、じゃねーよ』だとフラットに聞こえたりシリアスになりすぎるところが、“ちゃうねん”という語尾に二人の関係性がにじんでいたりする。『西成ゴローの四億円』には、そういった大阪弁ならではのニュアンスが随所にあふれていると思います」

ーー途中までシリアスなシーンなので笑っていいのかと困惑しましたが、途中であまりにおかしくてもう笑ってしまい。そこからは、緊迫感と愉快な会話劇のテンポと緩急が心地よく、ぐんぐん引き込まれました。

「感じたままに楽しんでいただけたら嬉しいですね。『ひとくず』も虐待をテーマにした作品ではあるんですけど、笑っちゃうようなところがある。人間の思考をたどっていくと、どうしても笑いがついてくるんです。僕がやっている劇団の舞台では、たくさん笑いを盛り込むんですね。泣かせるよりはるかに難しいので、笑わせるためにみんなで稽古を積む。あざといことや変なことをしても人は絶対に笑わないですから。変な顔をする人間の意思や思考、人間性が見えた時に初めて笑うんです。そのためにも、演じるだけでなく人間として作り込まなければいけない」

ーー舞台が大阪の西成となっていますが、これはどういった経緯で?

「テーマに貧困や経済格差というものがありますが、僕は西成がどういう町かと言うのを描きたかったというよりも、『バッドマン』の舞台となるゴッサムシティのような架空の町として描いています。本作で描いているような事件が実際に起きるわけないので、あくまでもフィクションの町として舞台に。だけどあまりにファンタジーだと、現実離れするので大阪の中でもなんでもありなイメージのある西成で撮影を行いました」

ーー実際に町での撮影はいかがでしたか?

「なかなか撮影が難しいんですけど、主題歌を手がけている歌手の西成の神様が実際に西成に住んでいる方とあって、町に住む方々に呼びかけてくださりみなさんに快く協力していただけました。あいりん労働福祉センターで撮影しているシーンなんかも、本当なら人が集まってきて大変なんですけど通行人や車を止めたり協力してくださって。ちょっと止め方が荒っぽかったりしてヒヤッとすることもあったんですけど(笑)、さすが人情の町なだけあってみなさんの協力のおかげでスムーズに撮影することができました」

■厳しい人生を乗り越えるためには、絆や情愛が必要
ーー上西監督の作品は、これまでも困窮や暴力など様々な社会問題が根底にあり傷ついた方を描かれていますよね。

「僕は、作品を残していきたいわけでなく、人間を描きたくて映画をつくっているんですね。世の中には完璧な人も100%幸福な人もいないはずで、僕の過去もそうですが誰しもが問題や悩み事を抱えていて。その問題とどう対峙しているかによって人間の魅力が生まれるし、問題や側では人間色が強く出る。そう思うと、人間味のある人を中心に作ろうと思えば、傷ついた人たちを描きたくなるんです。そこに打ち勝つことにこそ人生の勝利ですが、自力では抜け出せなかったりする」

ーー問題に打ち勝っていくために、家族や仲間との絆が鍵として描かれていますね。

「人生は厳しいし思うようにいかないけど、乗り越えていくためには家族や仲間の絆だったり、情愛が必要だと思っているので。現実社会でも、お互いの思っていることを会ってしっかりと伝えられたら円満になるのに、ズレて誤解を生んで、会えないままうまくいかず過ごしたり、修復できなくんなることがあると思います。だからこそ映画では、お互いの思いが噛み合った時に、問題解決に繋がって前に進んでいくことを描きたい。現実では難しいことも、奇跡や希望として描くことができるのは映画のなによりの魅力なので」

ーーまずは今週末の京都国際映画祭、そして今後の劇場公開でもぜひ直に人間味あふれる映画を体験していただきたいですね。

「どれも観ていただきたい大切な作品ばかりです。『ひとくず』は、実際に家庭内での暴力を経験した僕から生まれたからこそ意味のあった作品だと思うので、今回ディレクターズカット版を上映いただけのはとてもありがたいなと。1年以上もロングランを続けられていて、2万人以上の動員をいただきましたが、まだまだ旅の途中で安易には終わらせられない。『ねばぎば 新世界』もシリーズ化して、赤井英和さんと僕のバディもじじいふたりが大暴れするまで続けたいですし、『西成ゴローの四億円』も人生を賭して死ぬまで撮り続けたい作品です。それぞれ旅はまだ始まったばかりで終わりが見えませんが、この旅路をぜひ見届けていただきたいなと思います」

ーー新型コロナ禍の劇場に要請されていた制限も緩和され、少しずつ穏やかな日常が戻りつつあるので、ぜひ劇場で見届けていただきたい作品ばかりです。

「『ひとくず』がそうなんですけど、コロナが落ち着いたら観たいという方もたくさんいらっしゃいます。だからこそ、コロナが明ける日までは走り続けなければいかないなと思っています。そんな中、今回こうして3作品も上映していただけて、観ていただける機会をつくっていただけたことに歓喜しております。昔は、毎週土曜にオールナイト上映がされていて、子供の頃に家を抜け出して友達と観に行ったもんですよ。劇場の数も減って、あの時のようにはいかないかと思いますが、早く自由に映画を楽しめる日が戻ることを願っています」

ーーその時には、ぜひ上西監督作品でオールナイト上映を開催してほしいなと思います。

「そんな嬉しいことはないですね。いつか必ず、実現したいです!」

取材・文=大西健斗

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