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佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2021 『メリー・ウィドウ』徹底解剖!

  • 2021年7月12日
  • Walkerplus

演劇ライターはーこによるWEB連載「はーこのSTAGEプラス」Vol.92をお届け!

兵庫県立芸術文化センター(以下、芸術文化センター)で、佐渡裕芸術監督が毎年夏に贈る人気のプロデュースオペラ。昨年予定していた『ラ・ボエーム』は、コロナ禍のため2022年に延期となったが、今年は徹底した感染対策の上で、レハールのオペレッタ『メリー・ウィドウ』を上演。オペレッタは喜歌劇と訳され、敷居が高いと感じるオペラよりカジュアルで、庶民に愛された娯楽的作品だ。2008年に上演して大きな反響を得、13年の時を経た今、新たなキャストによる改訂新制作版として登場する。

先日、指揮・佐渡裕、演出・広渡勲、ヒロインのハンナ役・並河寿美が登壇。同じくWキャストでハンナ役を演じる高野百合絵がリモートで参加、桂文枝のコメント映像も加えて会見が行われた。そのコメントと共に、劇場を熱気と興奮の渦に巻き込んだ前回公演から作品の見どころ、そして今回の新たな楽しさを紹介しよう。

【あらすじ】
1900年頃のパリ。ある東欧の小国ポンテヴェドロの公使館で、国王の誕生日を祝う華やかな夜会が開かれている。パーティーの中心は、夫の莫大な遺産を相続した美しき未亡人ハンナ・グラヴァリ。もしハンナが外国人と結婚すれば、財産は国外へ流れ、国は破産してしまう。なんとか財産流出を防ごうと、ツェータ男爵はハンナを昔の恋人ダニロと元のさやにおさめようと画策する。昔は結婚まで考えた仲のハンナとダニロだが、再会した2人は意地を張り合うばかり。気をもむツェータ男爵は、妻ヴァランシエンヌの浮気に気がつかない…。

【伝説の『メリー・ウィドウ』】
2005年、兵庫県西宮市に開館した芸術文化センター。その3年目、佐渡裕プロデュ-スの夏のオペラ第3弾で上演したのが、オペレッタ『メリー・ウィドウ』。佐渡は当時、劇場会員向けに発行した”佐渡通信”で自身の思いを伝えている。

「僕は1人でも多くの人に、舞台芸術を心のビタミンとして届けたいといつも考えているんですよ。この劇場で、もっとおもしろいものを楽しみたいと願う人たちに、『佐渡裕は次に何を持って来るんや?』と期待してくださる気持ちに応える舞台を。そこで、これぞ芸術文化センターや!と言える舞台を届けたいと思っています。『メリー・ウィドウ』は、胸に残るメロディがたくさんある素晴らしい音楽に乗せて『これでもか!』というほど、次から次へと楽しい場面が繰り広げられ、息つく暇もないほど。宝塚歌劇とお笑いを親しむ街に生まれた芸術文化センターの地の利を生かして、おしゃれで楽しくてサービス満点、思い切り興奮してもらえる舞台にします。この劇場をもっともっと好きになっていただきますよ!」

佐渡の熱い思いがあふれる言葉通りの舞台だった。華やかだった。ものすごく楽しかった。公演回数は追加公演を含め全12回。観客動員数は約2万人。通常のオペラ界では考えられない数字だ。さらに観客の約8割がオペラ初心者!この快挙に全国のオペラ関係者は誰もが驚嘆し拍手を送った。かくして芸術文化センターの『メリー・ウィドウ』は伝説となった。

【佐渡芸術監督のこだわり】
開館から16年、佐渡は夏のプロデュースオペラで多彩なプログラムに次々と挑んで来た。「その中でも広渡さんと作った08年の『メリー・ウィドウ』は、今思い出しても一番誇らしく、この芸術文化センターならではの世界で唯一の舞台が作れたと自負しています」(佐渡氏)

この劇場で、関西でしか作れないものを。劇場を作る時から「この地域の文化は、宝塚の歌劇場に元がある」と考えていた佐渡は、宝塚のテイストを取り入れようと”銀橋”を作った。銀橋”とは宝塚歌劇でおなじみの舞台仕様で、本舞台からオーケストラピットを囲むように張り出した幅の狭い舞台。踊り、歌う出演者たちが間近に見え、迫力も伝わる。さらに宝塚OG(前回は平みち)の出演も。

そして「もう1点はお笑いの文化」。前回は桂ざこばが出演し、公使館書記・ニエグシュを演じた。オーケストラピットから登場して客いじりをしたり、アドリブを入れたり。さらに、燕尾服姿の平みちとタップダンスまで披露し、観客は大喜びだった。

【見どころ1 ストーリー】
莫大な遺産を相続した未亡人ハンナと元恋人のダニロ男爵の恋のさや当て物語。互いに惹かれているくせに、自分から言い出したくないハンナと、遺産目当てと思われたくないダニロ。くっつきそうでくっつかない2人に観客はやきもき。巨額の富のゴージャス感のなか、大人の恋の騒動が素敵なメロディに乗せてにぎやかに繰り広げられる。もちろん最後は、ハッピーエンド!

【見どころ2 音楽】
どこかで聴いたことのあるような曲が多い。その中で、掛け合いで歌う曲は名曲ぞろいだ。ハンナとダニロの甘い二重唱「メリー・ウィドウ・ワルツ」(「唇は黙していても」の曲名でも知られる)や、意地の張り合い合戦の「間抜けな騎兵の歌」も楽しい。ほかに男7人のにぎやかな七重唱行進曲「女、女、女のマーチ」など、レハールのメロディは観た人を幸せな気持ちにしてくれる。

【見どころ3 ダンス】
『メリー・ウィドウ』と言えば、マキシム風パーティでの踊り子たちによるフレンチ・カンカンが有名。特別編成のダンサーたちが活躍する、生で楽しめるショーは必見だ。優雅なウィンナ・ワルツや東欧の民族舞踊など、多彩な音楽とダンスがドラマを盛り上げる。意地を張り合う2人の気持ちが解けた瞬間、言葉を交わさずに踊るシーンに「ジーンとくるんですよ」と言う佐渡は、グランドフィナーレでダンサーが踊る演奏曲「金と銀のワルツ」がお気に入りだ。

【見どころ4 舞台装置と衣裳】
全3幕の『メリー・ウィドウ』を、休憩をはさんで2部構成で上演。舞台装置は黒白グレーと、マキシムの赤を基調にした色彩。まさにベルエポック時代のパリと現代がコラボ、大人のおしゃれな遊び心が取り入れられた舞台美術は、転換ごとに客席から驚きの声が漏れるほど。このファッショナブルな世界を創り上げたのは、ロンドン生まれのドイツで活躍するデザイナー、サイモン・ホルズワース。

さらに衣装が超ゴージャス!ビーズが揺れるドレス、華やかな被り物。どれもみな上品にキラキラと、圧巻の美しさを放つ。さすがのセンスはイタリアの衣裳デザイナー、スティーヴ・アルメリーギ。お金かかってる。観ればわかる。08年版では、ボディガード役の人がハンナの飼う本物の犬まで連れていた。でも、チケット料金はとてもリーズナブル。

【見どころ5 演出】
「その時代の雰囲気や世相を取り込み、趣向を最大に凝らして見せ場をたくさん作っていくのがオペレッタ。今回はコロナやオリンピックなど、今年の世相を反映しながらコロナ禍だからこその演出で見せ場を作っていきたいと思っています。そして宝塚歌劇と言えば”銀橋”、歌舞伎で言えば花道。近い距離でお客様に肌で感じていただく、そういうところに重点を置いていきたい。また、前回は秘密でしたが…カーテンコールが終わったあとにグランドフィナーレがあります。宝塚歌劇で言う大階段の手法を取り入れましたが、今回も是非そこは華やかに演出させていただければ」(広渡氏)

「広渡さんとは2回目ですから、もっと大胆に、こんなことやったらこの劇場でみんな盛り上がるなという改訂になっていくだろうと期待しています」(佐渡氏)

【見どころ6 キャスト】
前回のハンナ役は佐藤しのぶ。惜しくも19年に亡くなったが、そのあでやかさ、輝くような舞台の存在感は今も強く印象に残る。13年前の同じ舞台にヴァランシエンヌ役で出演していた並河寿美は、キャリアを重ね、今や日本を代表するプリマドンナの1人に。「佐藤しのぶさんと同じ舞台に立たせていただいたことは本当に大きな経験でした。佐藤さんのハンナをリスペクトしつつ、私なりのハンナを演じていきたいと思っています」(並河氏)

Wキャストの高野百合絵は学生時代から甲子園球場での国歌独唱も経験する次代のスターで、今回シリーズ初登場。「憧れの舞台でワクワクしています。と同時に、歌手としてのスタートの地でご縁のある西宮での大役に緊張しています。でも、舞台に立ったら思い切って遠慮を捨て、堂々と演じ切りたいと思っています」と意気込みを語る。相手役のダニロを演じる今注目の黒田祐貴は、偶然にも前回に同役を務めたバリトン・黒田博の子息。宝塚歌劇団元トップスター・香寿たつきも領事の妻・シルヴィアーヌ役で全日出演だ。

ニエグシュ役は今回、上方落語の重鎮・桂文枝が演じ、全日出演。佐渡とは大みそかのコンサートで何度も共演済みだ。「佐渡さんと久しぶりにやらせていただくことを大変楽しみにしております。ニエグシュ役は狂言回しのような役割、みんなで歌うところや踊るところもあるので、しっかり練習してできる限りのことをやりたいと思っています」(桂氏)

「文枝師匠は今回歌も披露したいと。では、香寿さんと2人で歌いながらダンスをする、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースのカップルのような雰囲気が出せたら」(広渡氏)

【佐渡芸術監督からのメッセージ】
「前回の2万人のお客様に満足することなく、『メリー・ウィドウ』の素晴らしさ、おもしろさをもっともっと伝えていきたい。コロナ禍の今だからこそ、みんなが笑ったり手拍子をしたり、感動したり。そういうものをたくさん届けられるように、最善の努力をして本番を迎えたいと思います。どうかたくさんの方に僕らの思いが伝わりますように」

【徹底した感染対策で】
昨年より佐渡監督の号令のもと、感染対策に力を入れて来た芸文センター。飛沫がどのように飛散し排出されるかの気流実験を大中小ホール、楽屋、リハーサル室で既に済ませた。また、マスクやアクリルボードの使用はもちろん、マイクロ飛沫には肩掛けファンで対応し、PCR検査もこまめに行うなど、2名の医師をアドバイザーに迎え、的確に対処できるよう対策に取り組んでいる。安心安全に公演を楽しんでほしいという劇場の姿勢がここに。

【オペラを観たことのない人へ】
芸術文化センターで、第1回目から佐渡裕芸術監督プロデュースオペラを観続けて来た。その中で『メリー・ウィドウ』は、終わった瞬間に「あぁ、再演してほしい」と思った舞台だった。お客さんたちは、皆高揚した笑顔で劇場を後にし、終演後の佐渡さんのサイン会には長蛇の列ができていた。私は当日「ミュージカルは好きだがオペラは…」と言う友人を誘って行ったが、よく笑い、「楽しかった~」と笑顔だった。

この作品は特別だ、とも思う。オペレッタの扱いやすさに関西文化のエッセンスをうまく取り込み、ビジュアルもゴージャス感も最高級のエンタメに仕立て上げた。さらに、この規模の舞台をほかの劇場で観ようとしたらチケットに手が出ないかも。なので、オペラデビューには、是非この作品をオススメしたい。

歌い手は、2000人超の劇場でオーケストラの演奏と共にマイクなしで生の歌声を響かせる。「ちょっとボイトレ(ボイストレーニング)頑張りましたぁ~」と、マイク付けて歌ってるイケメンくんたちとは違う迫力の歌声をどうぞ!

STAGE
佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2021
喜歌劇「メリー・ウィドウ」

日時:7/16(金)、17(土)、18(日)、20(火)、21(水)、22(祝)、24(土)、25(日)
各日14:00開演 ※公演日によってキャストの組み合わせが変わる
会場:兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール
音楽:フランツ・レハール
台本:ヴィクトル・レオン、レオ・シュタイン
指揮:佐渡裕
演出:広渡勲
出演:7/16・18・21・24 ハンナ/高野百合絵 ダニロ/黒田祐貴ほか
7/17・20・22・25 ハンナ/並河寿美 ダニロ/大山大輔ほか
全日出演/香寿たつき、桂文枝ほか
料金:A席 1万2000円、B席 9000円、C席 7000円、D席 5000円、E席 3000円
問い合わせ:芸術文化センターチケットオフィス 電話:0798-68-0255
公式サイト:http://www.gcenter-hyogo.jp

取材・文=高橋晴代

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