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大倉忠義と成田凌の恋愛映画。「男と男の愛は快楽と情愛」と行定勲監督

  • 2020年9月12日
  • Walkerplus

『ナラタージュ』(2017)や『リバーズ・エッジ』(2018)で揺らぐ恋心を描いてきた行定勲監督の最新作『窮鼠はチーズの夢を見る』。原作は、膨大なセリフと心理描写で女性に圧倒的な支持を得た男性同士のラブストーリー、水城せとな「窮鼠はチーズの夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」(小学館「フラワーコミックスα」刊)で、主演は『100回泣くこと』(2013)に続いて単独主演を務める大倉忠義と『愛がなんだ』(2019)、『カツベン!』(2019)など多彩なキャラクターを演じ切る成田凌という、恋愛映画の新たな世界を感じさせる作品だ。

男性同士の恋愛を邪魔しに現れる女性やゲイの元カレが交差する今作。「これは誰が何と言おうとラブストーリー」と言い切る監督に、作品に込めた思いや撮影秘話を聞いた。

■人が人を好きになること。男と男が愛に没入していくことにこそリアルさを感じた
大学卒業後、探偵として働く今ヶ瀬渉(成田凌)は、ある不倫調査の依頼を受ける。その調査対象は、学生時代から憧れていた先輩・大伴恭一(大倉忠義)だった。不倫現場を押さえた今ヶ瀬は7年ぶりに恭一のもとへ。調査報告を隠したい恭一に対し、今ヶ瀬はホテルへと誘い、恭一はキスを受け入れてしまう…。そこから始まる男と男の心の揺れ動きが、繊細で時に冷徹な愛のやりとりとなって、痛いほどリアルに描かれている今作。誰かを心底愛した経験のある人なら、必ず心に刻まれる作品となるはずだ。

原作が監督の手に渡ったのは約6年前。監督にとって『リバーズ・エッジ』以来のコミック原作となる。

「読む前は名作と呼ばれる漫画だとは知らずに読んだのですが、なによりもこれはとても“今日的”な題材でした。脚本を作り始めた当時、日本では同性結婚が叶わないという社会問題がありながらも、世界的にみるとLGBTQやBLという言葉はきちんと区別ができている。

『リバーズ・エッジ』は90年代の話なので、登場人物がゲイであるということに疎外感を感じている時代でしたが、あれからもう20年以上たっても、まだ社会的には生産性が無いと言われる時代です。それなら、そういう社会的な視点を無視した、個人と個人の愛の話を作ろうと思った。人が人を好きになることに何の罪があり、何を阻害される理由があるのだと。この作品では、ただただ愛に没入する二人のことを描こうと思ったんです」

■愛しか描いていない。だから、誰が何と言おうとこれはラブストーリー
愛に没入する男たちを題材に制作を進める監督に「『社会の目に追い込まれたり親に反対されるとか、もっと切実な出来事が2人を待ち受けていてもいいのでは?』という意見もあったんです。でも、僕はいらないと思った。そういうわかりやすい差別的な視点はいらないと。この作品では、人が人を好きになること、男と男が愛に没入していくことが、愛のリアリティを感じさせるものだった」という。

「だからあえて『今日的』。『今』を見つめているんです。恋って楽しいし、せつないんですよ。この作品では、愛しか描いていない。だから、誰が何と言おうとこれはラブストーリーなんです」

今作は性愛を描いていながらも、R18 ではなくR15指定となった点も監督は重視する。「高校生がこれを観ることができるのはとても良いこと。性愛だからと隠すより、人と人が愛し合うことは当たり前のことなんだと大人がちゃんと示してあげることは大事だと思ってます」

男性同士の性愛描写も多く登場する本作。この場面を撮ることについて、監督は「男性同士が求めあうことは、男女の比じゃない気がしたんです。一線を超えるってセクシーですよね。情愛もある。異性愛者の男性でもきっと想像することはあると思うんです。そこを超えるモチベーションがないだけであって」という。

この作品では、今ヶ瀬が恋だけを見つめ、恭一は社会と関わり合いながらも関係を深めてしまう役どころ。「だから、恭一の愛は快楽だったんじゃないか。快楽的に男性同士のセックスは『あり』だったんだ、と。そこをきちんと確立しないと、きれいごとになっちゃうなと。男として理解できるのは、そこなんです。快楽だったから関係を続けたということを見せたほうが間違いない。だからセックス描写をしっかり描くことは、必然だったんです」

撮影現場でも「自分が男なので、男の扱いがわかっているから遠慮なく演出できた。だから、現場の一体感があったと思います」と行定監督。

なかでも重要だったのは「成田凌のかわいさ」だったという。今回「異性愛者の僕から見ると、どちらがいい?といわれたらそれは女優たちが演じる愛人やフィアンセでしょう。でも、実際現場に入ってみると『あれ?成田、かわいいな』と。恭一を虜にするほど彼がかわいいこと、そこが重要なんです。それがないとこの映画は成り立たない。特に、背の高い椅子に座っているシーンは本当にいい。まるでやせた小鳥が羽を休めて恭一を上からじっと見つめているような、強い存在感を感じますよね」

「恭一を演じてくれた大倉もすごくよかった。大倉の人柄や雰囲気、クールなのに笑顔がいいところなど、恭一に重なるという思いで、脚本の堀泉杏さんがあて書をしていたんです。ダメもとで打診をし、脚本を読んでもらったらOKをいただけたんです。これで映画が実現した」とキャスティングの裏話を教えてくれた。

■本当に理想的なふたり。後ろ姿が似ていることも重要だった
主演の二人について、監督が一番決め手としたのは「後ろ姿が似た2人にしたかったんです。衣装合わせにも時間をとりました」という。「僕のゲイの友達にゲイカップルを何人か紹介してもらったんですが、彼らはとても後ろ姿が似てた。服の貸し借りもするそうで、そのうちの一人は元々異性愛者だったけど、ゲイの彼と付き合ってから、こんな愛もありなんだなと思った」と理由を明かしてくれた。細かいリサーチに基づいて演出がなされた今作。ぜひ後ろ姿にも目を向けてみてほしい。

■ふたりの恋を阻む「刺客」は恭一をめぐる女性や今ヶ瀬の元カレたち
今ヶ瀬と恭一の恋を阻むのは、恭一の愛人・瑠璃子(小原徳子)やフィアンセになる会社の同僚・たまき(吉田志織)、大学時代の同級生・夏生(さとうほなみ)、今ヶ瀬の元カレなどさまざま。

今ヶ瀬と夏生との女同士の言葉のキャットファイトも必見だが、特に注目は、今ヶ瀬と恭一が、夏生、今ヶ瀬の元カレと食事をするシーン。絶妙な目線の演技がすさまじい。

「背景の会話はすべて消して、目線だけを追いかける演出をしたんです。誰かが誰かの目線を追いかけて、誰かの心情を読み取ろうとしている。本音を目線が語っています」

原作ではモノローグが多いのだが「それを言ってしまうと映画を楽にしてしまう。観る人が表情や目線から、何を思っているんだろうと読み取ってもらった方がこの恋愛劇はおもしろい」とこのシーンに込めた意図を話してくれた。

いろいろな感情に揺り動かされながらも歯車が動き出したら止まらない、深い愛や葛藤、慟哭や至福、恋愛の多彩な心情に飲み込まれた二人の結末をぜひ見届けて。


映画『窮鼠はチーズの夢を見る』は、TOHOシネマズ 梅田 ほか全国ロードショー

取材・文=ライター 田村のりこ

■映画『窮鼠はチーズの夢を見る』
配給:ファントム・フィルム
原作:水城せとな「窮鼠はチーズの夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」(小学館「フラワーコミックスα」刊)
監督:行定勲
脚本:堀泉杏 音楽:半野喜弘

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