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サメやコウモリなど「怖い生きもの」も保護を、推す若手研究者

  • 2024年5月21日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

サメやコウモリなど「怖い生きもの」も保護を、推す若手研究者

 ジャイアントパンダやコアラなど人の心をわしづかみにする動物たちは、愛くるしく、思わず抱きしめたくなるという共通項がある。ぬいぐるみにすれば子どもたちに大人気のおもちゃになる動物たちだ。「でもブロブフィッシュがぬいぐるみになることはありません」と、生物学者でコメディアンのサイモン・ワット氏は皮肉交じりに言う。氏は、見過ごされがちな動物たちの認知度を上げるために、「醜い動物保護協会(Ugly Animal Preservation Society)」というウェブサイトと活動組織を立ち上げた。

「ほとんどの動物はかわいくありません」とワット氏。その上、「怖い」とか「醜い」とかという印象を抱かせるとなると、その動物の保護活動はさらに困難になる。ここでは、自然界全体を保護することに価値があると教えてくれるナショナル ジオグラフィックの「ヤング・エクスプローラー(探求者)」たちとその活動を紹介しよう。

好奇心旺盛で子犬のようなサメ

「サメについて、多くの人は映画『ジョーズ』で知っているだけです」と、サメを研究する生物学者のデボラ・サントス・デ・アゼベド氏は言う。サメに関する誤解を解き、海にとって貴重な存在であることを人々に伝えるのが氏の重要な仕事だ。

 アゼベド氏がサメの研究者であること知ると、大概の人はサメに噛まれたことはあるかと聞くという。

「噛まれそうになったこともありません」と氏は笑いながら答える。そんな質問をされた時は、氏が大好きなニシレモンザメ(Negaprion brevirostris)について、決して人には危害を加えないサメだと説明する絶好のチャンスだ。

「好奇心旺盛でまるでゴールデンレトリバーのようなサメです。人間に近づくことをまったく恐れず、しょっちゅうぶつかってきます。『おい、元気か?』などという感じでね」とアゼベド氏は言う。

 フロリダで暮らす移民で、家族の中で初めて大学に通ったアゼベド氏にとって、研究者への道は平たんではなかった。ニシレモンザメが出産するバハマを定期的に訪れるのは経済的に無理だった。

 しかし氏はサメ保護団体である「American Shark Conservancy」の仕事をする機会に恵まれ、地元でニシレモンザメの調査と研究を始めた。国際自然保護連合(IUCN)が危急種(vulnerable)に指定するニシレモンザメはフロリダとフロリダ周辺の海に暮らしている。

 アゼベド氏は現在、ナショナル ジオグラフィックのヤング・エクスプローラーとして市民科学プロジェクトに参加し、一般の人々と共にニシレモンザメが生き残るためには何が必要かを研究している。

 またこのプロジェクトは氏と同じ世代の若者に海に入ってもらい、サメへの恐怖心をなくしてもらうチャンスでもある。

「プールにしか入ったことのない人たちにサメと一緒に泳いでもらいました」

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「ライオンライト」でライオンと家畜を守る

 ケニアで暮らすマサイ族の少年として、リチャード・トゥレレ氏がサイ、ライオン、チータなどから家畜を守る大人たちの手伝いを始めたのは9歳の時だった。トゥレレ氏の父を含め多くの住民は、殺したり傷つけたりして肉食獣を追い払っていた。

 しかしトゥレレ氏は、数が減りIUCNが危急種に指定するライオン(Panthera leo)を傷つけたくなかった。そこで灯油ランプからかかしに至るまで、さまざまな物でライオンをおびえさせようとしたが、ライオンはそれらが無害であることにすぐ気づいてしまう。唯一効果があったのは、夜間懐中電灯を持ってする定期的なパトロールぐらいだった。

 それがヒントとなり、トゥレレ氏は家庭で使われなくなった家電製品を分解し、LED電球を車の方向指示器につなぎ、最初のライオンライトを作った。最新のライオンライトは、太陽光発電でスマートフォンサイズのライトパネルがランダムに点滅する仕組みになっている。ライトが点灯するパターンがいつも変わるため、ライオンは人がいると勘違いし、近寄らない。

「いつも電線を持って歩き回っている私を、最初は誰もが変わった子どもだと見ていたようです。でも今は、ライオンライトが家畜を守るのに有効だと、皆が認めています」とトゥレレ氏は言う。

 2020年にナショナル ジオグラフィックのヤング・エクスプローラーに選ばれたトゥレレ氏は、近頃アフリカン・リーダーシップ大学を卒業した。現在は仲間を集め、チームでライオンライトと動物保護の重要性を啓発する活動をケニア内外で行っている。

「活動が地元だけでなく、アフリカ全土に広がっていくことに驚いています」とトゥレレ氏は言う。

コウモリを使って害虫駆除、どんな農薬も及ばない

 カロル・シエラ・ドゥラン氏がコウモリに関心を抱いたのは、コロンビアの高校の食堂でポスターを目にしたのがきっかけだった。「17歳だった私は、コウモリがどんな顔をしているか、それまで知らなかったことに気付いたのです」

 ドゥラン氏は当初、コウモリについて何も知らないのは自分だけだと思っていた。しかしその後、科学者であってもコウモリについて基本的な知識を持っている人は少ないと知り、コウモリに夢中になる。

「コウモリを研究していると自己紹介すると、不思議な顔をされます。世の中にはたくさんの動物がいるというのに、よりよってなぜ風変りな夜行性の動物を選んだのだと言わんばかりにね」と、ドゥラン氏は語る。「でもコウモリについて説明すると、その表情は一変します。面白いですよ」

 コウモリは大量の昆虫を食べる。そのことを伝えると農家が関心を抱くことにドゥラン氏は気づいた。コウモリを使えば自然に任せた害虫駆除ができ、しかもその効果は最も高価な農薬も及ばないとドゥラン氏は説明したのだ。

 メキシコ国立自治大学での修士論文と、ナショナル ジオグラフィックのプロジェクトのために、ドゥラン氏はピーターサシオコウモリ(Balantiopteryx plicata)などメキシコの水田に飛来するコウモリを調査するとともに、コウモリがいることで生態系から得られる恵み(生態系サービス)の経済価値を算出した。

 現在、博士課程に在籍中のドゥラン氏は、コウモリの健康を促進する農業のあり方を研究中だ。

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