
著者のアルバイト・仕事経験を綴った面白おかしいコミックエッセイ『勤労ロードショー 今日も財布がさみしくて』。著者のまぼ(@yoitan_diary)さんは、Xで11.5万人のフォロワーがいる人気漫画家です。
仕事で出会った相手によっては、嫌な思いをさせられたり、また一方で思わぬ感動があったり…。学生時代のまぼさんも、仕事の現場で様々な思いを経験します。
今回はそんなまぼさんに、大学時代から社会人になるまでのアルバイト経験から得たものや、仕事についての考えを伺いました。まずは作品のあらすじを紹介します。
美大生ならではの葛藤。やっぱりお金がいる!
『勤労ロードショー 今日も財布がさみしくて』より / (C)まぼ/KADOKAWA
当時、美大生だったまぼさんは、課題制作に取り組んでいる最中。作品の完成イメージはあるものの、お金がないので材料を買えません。そこで、他の学生が捨てた材料をかき集めて作品をつくろうとします。しかし「作りたいものを作るのではなく、作れるものを作る……。これって美大生として終わってないか?」と感じ、材料費調達のために新たなアルバイトを探します。
『勤労ロードショー 今日も財布がさみしくて』より / (C)まぼ/KADOKAWA
友達に紹介してもらったのは、サイネージ屋の仕事。クイズ番組のセットに置かれるような大きなモニターを運んだり、画面を組んだりする仕事です。時給1,100円という好条件と、クリエイティブなイメージに惹かれたまぼさんは、サイネージ屋のアルバイトを始めます。
『勤労ロードショー 今日も財布がさみしくて』より / (C)まぼ/KADOKAWA
学生バイトがおこなう「ケーブル巻き」の仕事を教わりますが、不器用なまぼさんはうまく巻くことができません。憧れていたクリエイティブへの道のりは長い……と感じます。
『勤労ロードショー 今日も財布がさみしくて』より / (C)まぼ/KADOKAWA
そんなサイネージ屋のアルバイト先で出会った、先輩のチョコ谷ツヨシ。いきなり頭をポンポンしてきたり、ケーブル巻きができないまぼさんを天然扱いしたりします。
『勤労ロードショー 今日も財布がさみしくて』より / (C)まぼ/KADOKAWA
まぼさんは、ツヨシに「これから仕事の連絡するだろ。メアド教えて」と言われ、仕方なくメールアドレスを交換します。後日、ギターの弾き語り動画が3曲分送られてきたうえに、なんと不倫を持ちかけられました。ツヨシが無理だと感じたまぼさんは、泣く泣くサイネージ屋のバイトを辞めることに……。
『勤労ロードショー 今日も財布がさみしくて』より / (C)まぼ/KADOKAWA
その後ひょんなことから、まぼさんは美大生に「就活に使えそうなところで働いたほうがいい」とアドバイスを受けます。
『勤労ロードショー 今日も財布がさみしくて』より / (C)まぼ/KADOKAWA
求人コーナーで見つけたのは、小学生向けの図工教室の仕事。子どもは苦手なものの、この職歴を履歴書に書いたら好印象になるかも、と感じてチャレンジします。
『勤労ロードショー 今日も財布がさみしくて』より / (C)まぼ/KADOKAWA
初めての図工の先生のアルバイトで、イメージに反していい子たちに囲まれ、困惑するまぼさん。子どもたちと過ごした時間は、予想以上に楽しいものでした。
『勤労ロードショー 今日も財布がさみしくて』より / (C)まぼ/KADOKAWA
図工の時間に作ったガーランドが完成! みんなでつくった作品と、子どもたちが喜ぶ様子を見て、まぼさんは創作のすばらしさに感動します。
子どもへの苦手意識があったものの、結果として子どもたちと充実した時間を過ごしたまぼさん。このあとはいよいよ就職活動編に入っていくのですが……。
著者・まぼさんインタビュー!
――大学で人からもらった廃材を使って作品をつくろうとした際に「作りたいものを作るんじゃなくて作れるものを作る……これって美大生として終わってないか?」という一言があります。このときの心情を教えていただけますか。
まぼさん:私以外にも、ねずみ小僧のように廃材を漁る苦学生はいました。でも、どうしても表現に限界がある気がしたんです。手持ちの材料ありきで設計をするって、社会に出てからはそういった条件の仕事に出会うことも多々ありますよね。でも、高い学費を払って入った大学ですから、まずは自分の理想や方向性を見つけるためにも、「ありものでどうにかする」は違うよなと、学生ながらに考えていました。
――クリエイティブな仕事を目指していたまぼさんにとって、サイネージ屋としてテレビ番組制作に関わる仕事は憧れの職場だったと思います。このお仕事をやってみて感じたこと、現場で印象に残っていることを教えて下さい。
まぼさん:正直「テレビ局に入ってみたい」というミーハー心があって、このバイトを始めました。ですが、私だけテレビ局にあまりまわされなくて、大きな展示会場に行くことが多かったです。きっと戦力外だったのでしょうね……。展示会場では、各ブースで同業者がてきぱきと空間を作り上げていく”現場感” がかっこいいなと感じました。ここにいる人は、みんなものづくりが好きな人たちなんだな、と思うと胸が熱くなりましたね。
『勤労ロードショー 今日も財布がさみしくて』より / (C)まぼ/KADOKAWA
――先輩スタッフとして登場した、チョコ谷ツヨシもかなりクセの強い人物ですね。既婚者に不倫をもちかけられて職場に居づらくなる……というのは「あるある」とはいえ、ツラいエピソードでした。同じような経験のある読者も少なくないと思いますが、今まさにそのような状況にある方に、まぼさんはどのような言葉をかけたいですか?
まぼさん:「逃げろ!!」です。せっかくの青春を他者の遊びに使ってはいけない。不倫をもちかけるなんて、ろくな大人じゃないですよ。
『勤労ロードショー 今日も財布がさみしくて』より / (C)まぼ/KADOKAWA
――「子どもは苦手だけど就職に役立ちそう」という理由で応募した子どもの図工教室のアルバイトですが、最終的には創作の素晴らしさを感じて感動しています。このエピソードを読んで、とても心が温かくなりました。まぼさんにとって、この仕事から得たものは何でしたか?
まぼさん:私自身も小学校のころから図工の時間が大好きで、子どもたちが手を動かしている姿は元気をもらえます。得たものは色々ありますが、一番よかったのは「子どもって意外とかわいいじゃん」と思えたことですかね(笑)。
『勤労ロードショー 今日も財布がさみしくて』より / (C)まぼ/KADOKAWA
――最後に、読者の皆様にメッセージをお願いします!
まぼさん:この本に興味を持ってくださってありがとうございます。今回の一冊を描いたことは私にとって挑戦でした。でも、読者の方から「めっちゃわかります」「私の苦労も成仏しました」といった感想をいただいて、本当に描いてよかったなと思っております。
世の中にはいろんな働き方があって、それぞれのモチベーションもライフステージや環境によって変化していきますよね。苦しい環境にしがみついたり、「こうと決めたことを貫かなければ!」とハードな人生を選んだりするのも、ひとつの経験だと思います。でも、綿毛のように軽く、色んな職場を転々としながら、自分という人間の輪郭を知る人生も楽しいですよ。
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色々な職場を転々とするのもいい、とおっしゃるまぼさん。大変な仕事を無理して続ける必要はないという、温かなメッセージが感じ取れました。仕事でつらい思いをすることは誰しもあるかと思いますが、そんな経験も笑いに変えてくれる作品です。
取材・文=ゆらり