高齢親だけでなく、あなたもいつかは「老害」になる? 身近な社会問題を描いたセミフィクション『わたしの親が老害なんて』

  • 2025年1月30日
  • レタスクラブニュース
ああいうのを老害って言うんだろうな…
ああいうのを老害って言うんだろうな… / (C)西野みや子/KADOKAWA

近年、ニュースやネットで話題になることが多い「老害」という言葉。誰しも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

「老害」について、「まだまだ私には関係ない!」なんて思っていませんか? 実は、一般的に「老害」といわれる現象は、年を重ねれば誰でもなる可能性があるし、親や祖父母がそういった行動を起こすようになることもあります。つまり、誰にとっても身近な存在なのです。

先日、この「老害」をテーマにしたコミックエッセイ作品『わたしの親が老害なんて』が発表されました。この作品が「主人公に共感する」「身につまされる」と話題を呼んでいます。
まずはこの作品のあらすじをご紹介しましょう。

「老害」化する両親への苦悩と葛藤を描く


夫婦だけの生活にも慣れてきたけど…
夫婦だけの生活にも慣れてきたけど… / (C)西野みや子/KADOKAWA

7年前に一人娘が巣立ち、パートで働きながら定年退職間近の夫と2人で暮らす、主人公の栄子(54歳)。夫婦ふたりの生活にも慣れ、穏やかな毎日を送りたいところですが、ある悩みを抱えています。それが、近くに住む80代の両親の問題行動です。

何をするか気が気じゃない
何をするか気が気じゃない / (C)西野みや子/KADOKAWA

栄子の気持ちや事情はお構いなしに自分たちの意見を押し付けてくるだけでなく、飲食店で怒鳴り散らして警備員のお世話になったり、会いにきてくれた教師時代の教え子に古い価値観を押し付けたり…。家庭内だけでなく、他人にも迷惑をかける始末。

教師ってそういうもんだろ
教師ってそういうもんだろ / (C)西野みや子/KADOKAWA

そんな根性じゃどこに行っても通用しないぞ
そんな根性じゃどこに行っても通用しないぞ / (C)西野みや子/KADOKAWA

両親を恥ずかしく思う気持ちと、頭にチラつく「老害」という言葉…。距離をおきたいという気持ちもありつつ、「実の親に対してこんな気持ちを抱くなんて」という罪悪感もあり、栄子は葛藤し続けていました。

いっそ両親から離れられたら…
いっそ両親から離れられたら… / (C)西野みや子/KADOKAWA

そんなある日、父が車で人身事故を起こしたことをきっかけに、栄子の中で変化が訪れて…。
栄子がとった行動とは? その後の彼女の暮らしは?

著者・西野みや子さんがこの作品にこめた想いについて、お話を伺いました。



まずは自分のことを大切に考えて


――この作品には「老害」という言葉がたびたび登場しますが、西野さんは、「老害」という言葉をどのように捉えていますか?

西野みや子さん:名称がつけられることで問題が明るみになるのはいいことだと思いますが、私自身かなり強い言葉だと感じており、気軽に使うべきではないと思っています。タイトルに使うのも最後まで悩みました。

育ててもらった恩とかもあるし
育ててもらった恩とかもあるし / (C)西野みや子/KADOKAWA

年老いた親を見捨てるわけにはいかないよ
年老いた親を見捨てるわけにはいかないよ / (C)西野みや子/KADOKAWA

――自分の親を「老害」だと思ってしまうことに罪悪感を抱いて、なかなか距離を置くことができずにいる栄子に、共感を抱く人も多いと思います。栄子と同じような立場の人に、どのような言葉をかけたいですか?

西野みや子さん:他人を気遣えるのは自分自身に余裕がある時だけだと思うので、まずは自分のことを大切に考えてあげてほしいです。

髪型は元に戻すの?
髪型は元に戻すの? / (C)西野みや子/KADOKAWA

母親らしくないでしょ?
母親らしくないでしょ? / (C)西野みや子/KADOKAWA

――とはいえ栄子も、娘に対しては自分の親と同じような発言や行動をしてしまいます。誰もがいわゆる「老害」になってしまう可能性が描かれていると思うのですが、そういった状況に陥らないためにはどうすればよいと思いますか?

西野みや子さん:最近、イギリスのSF作家兼脚本家ドグラス・アダムズが唱えた法則に出会いました。

1.生まれたときに世の中にあったものは、普通で当たり前で、世界を動かす自然の一部である
2.15歳から35歳の間に発明されたものは、刺激的で革命的と感じ、その分野でキャリアを積むこともできる
3.35歳を過ぎてから登場してきたものは、自然の秩序に反するものである

私は現在30代ですが、独身の頃と比べて自由な時間がないこともあり、新しいコンテンツや流行り物をなかなか好きになれないという現象が起きています。こういった、新しいものに対して排他的な感情が「老害」につながるのではないかなとかなり焦りました。実態がわからないことは第一印象だけで否定的になってしまうので、まず好きか嫌いか判断する前に、新しいことを試したり、調べたりして、知ろうとする姿勢が必要だと、私も感じています。



時代背景を知り、危機感を持つきっかけに


きっとうちの両親みたいな人を…
きっとうちの両親みたいな人を… / (C)西野みや子/KADOKAWA

老害って呼ぶんだと思います
老害って呼ぶんだと思います / (C)西野みや子/KADOKAWA

――本作を通じて、西野さんが読者に伝えたいこと、感じてもらいたいことはなんでしょうか?

西野みや子さん:先ほども言ったように、「老害」というのはとてもインパクトのある言葉で、気軽に使う言葉ではないと思います。しかし、実態としては特別なものではなく、身近で誰にでも起こりうるものです。この作品を通して「老害」と呼ばれる老人になってしまう時代背景を知り、自分自身もそうならないように危機感を持ってもらうきっかけになればいいなと思っています。

――今後は、どんな作品を描いていきたいですか?

西野みや子さん:いつもSNSに投稿している漫画はライトなギャグテイストのものが多いですが、今回はセミフィクションと言いつつも、自分の気持ちや経験を反映させた作品だったので、とても楽しくやりがいのあるものでした。これからは自分の心の深いところをもう少し漫画で描いていきたいと思いました。

――最後に、読者にメッセージをお願いします。

西野みや子さん:今回が初めての書籍で、初めてのセミフィクション作品でした。不安もありましたが、担当編集さんや家族に支えられて、無事に完成することができました。少しでも共感していただき、読んだ後に心にそっと残るものであれば幸いです。

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今は高齢者による問題行動に悩まされる側の立場でも、いつかは自分自身が子どもや周囲に迷惑をかけてしまう可能性もあります。今まさに悩んでいる方も、自分には関係がないと思っている方も、本作を通してこの問題について考えてみませんか?

取材・文=松田支信


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