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絶景を見に行くなら世界史を学ぶべき納得の理由。絶景プロデューサー・詩歩さんインタビュー

  • 2023年5月24日
  • レタスクラブニュース


旅先で「もっと歴史を勉強しておけばよかった」と思った経験は、誰にでもあるもの。
そこで『死ぬまでに行きたい! 世界の絶景』の著書もある絶景プロデューサー・詩歩さんに、「絶景を見に行くなら世界史を学ぶべき理由」についてお伺いしました。



――詩歩さんは『人生を彩る教養が身につく 旅する世界史』の著書もある代々木ゼミナール講師の佐藤幸夫さんと、2021年にYouTubeで「#絶景で学ぶ世界史」という企画を立ち上げられ、その内容は書籍化もされています。この企画はどのようにして始まったのでしょうか?


詩歩さん:私自身、世界史がとても苦手だったんです。日本史はとても好きで、学生時代は日本中の古墳を巡るほどでしたが、海外で遺跡や教会を見てもその価値がよくわからず、「もったいないことをしているな」という思いがずっとありました。

特に絶景は、「よくわからないけどキレイだな」と、表面的な美しさだけを切り取られがちです。でも本来、絶景は地球や人間の歴史が積み重なってこそ生まれるもの。それなら、絶景を切り口に世界史を学べたら……と、佐藤幸夫先生にお声がけしました。実際に世界中を旅しつつ、歴史をポップに語れる人は、幸夫先生しかいない! と思ったんです。

▶佐藤幸夫さんって?
大学受験予備校代々木ゼミナール世界史講師。大人のための世界史学び直しツアーを開催するほか、現在はエジプトに在住し現地でもツアーを企画している。著書に『人生を彩る教養が身につく 旅する世界史』などがある。

エチオピアのカレンダーが日本と8年ずれている理由

――過去に訪れた場所のうち、佐藤幸夫さんの話を聞いて印象が変わったものはありますか?

詩歩さん:YouTubeでは13ヶ国を取り上げているんですが、特に印象が変わったのはエチオピアですね。

エチオピアには、世界遺産第一号のうちのひとつ、「ラリベラの岩窟教会群」があります。エチオピアの周辺の国ではイスラーム教が信仰されているのですが、ラリベラの岩窟教会群にはキリスト教の教会があるんです。でも当時は特に疑問も持たず、「岩に教会を掘るなんてすごいなぁ」ぐらいの気持ちで見ていたんですね。

あとになって幸夫先生から、エチオピアのキリスト教は4世紀ごろに伝わった「原始キリスト教」だと教えてもらいました。信仰によって強い団結力が生まれたことで、イスラーム教を受け入れず、アフリカで唯一植民地化されていない国になったのだと。これを知っていたら、教会を見る目が変わっただろうなと思います。

ちなみにエチオピアの暦は、うるう年の数が極端に少ないので、私たちが使うカレンダーと8年の差があるんです。日本が2023年なら、エチオピアは2015年。1年は13ヵ月あって、時刻も6時間ぐらいずれている。ヨーロッパとキリスト教の宗派が違うので、採用している暦が異なるからなのだそうです。

――なるほど、理由がわかると面白いですね!

宗派が違うので、宗教画のタッチも違うんですよ。ヨーロッパに比べて、エチオピアの宗教画は色彩が豊かでポップなんですね。幸夫先生に聞いて「そうだっけ……」と思ったんですが、写真フォルダをさかのぼったらちゃんと撮っていて(笑)。記憶に残っていないということは、「見ているのに見ていない」のだと思いましたね。

世界遺産を見ずに、ひまわり畑だけを見て帰ろうとした

――「#絶景で学ぶ世界史」のあと、ご自身でも世界遺産検定1級を受けられたと聞きました。世界遺産検定の勉強するなかで、なにか気付かれたことはありましたか?

詩歩さん:勉強するほどに、過去の自分が恐ろしくなります……(笑)。たとえばスペインのコルドバは、テキストの中でたくさんページが割かれていて、「こんなに重要な場所だったのか」と思い知らされました。

コルドバの旧市街は、イスラーム教とキリスト教の文化が共存していて、それを象徴する「メスキータ」という世界遺産があります。かつてイスラーム教勢力とキリスト教勢力が争った、700年以上にわたる歴史が残っているわけなのですが……。私はコルドバで、ひまわり畑だけ見て帰ろうとしたんです。



――ひまわり畑だけを……?

コルドバのひまわり畑は、視界すべてがひまわりになるほどの絶景なんです。それを見るためだけに二泊三日の旅程を立てたんですが、現地ではひまわりを見る習慣がないらしくて。ガイドさんに「コルドバまで来て、ひまわりだけを見て帰るなんてありえない!」と引き留められ、事前知識がないまま、旧市街やメスキータに連れて行ってもらいました。



たぶん、日本に置き換えると「京都まで来て、郊外にある花畑だけ見て帰る」という感じのことをしていたのだと思います。幸夫先生にも「もったいない!」と散々言われましたね。

――その反省も踏まえ……というところですが、世界史を学んでから旅をすることで、どんな良いことがあると思われますか?

詩歩さん:まずは純粋に「感動できるポイントが増える」ところだと思います。私の場合は、これまで景色や建物の美しさを重視した旅をしていて、それでも十分満足していたのですが、歴史という別の「視点」を持つことで、もっと感動できるポイントが増えると思うんです。

たとえばヨーロッパなどは、昔と今では国境がまったく違います。「今はイタリアというひとつの国だけど、昔はミラノやヴェネツィアといった都市国家が力を持っていた」とか、「モロッコでスペイン語やフランス語が話されているのは、さまざまな民族が海峡を越えて入ってきたから」といった知識があると、街を見る目も変わってきますよね。

――同じ国の中にも違いがあったり、別の国同士に共通点があったり、歴史を知っていると発見も多そうですね。

そうですね。モロッコでは、青い街並みが美しいシャウエンを訪れました。シャウエンには壁にカラフルな植木鉢が飾ってあるのですが、これはユダヤ人が暮らす街の特徴なのだそうです。この植木鉢、実はコルドバにも同じように飾られている場所があります。歴史の「視点」を手に入れると、こうした点と点がつながる面白さを感じられると思います。

歴史を知ると、「記憶に残る旅」ができる

――「視点」をいくつも手に入れることで、旅が多層的になりますし、思い出の残り方も変わってきそうですね。

詩歩さん:「記憶に残るようになる」のも、世界史を学ぶメリットだと思います。先ほどエチオピアの宗教画の話にもありましたが、「なんとなく写真を撮る」だけだと記憶に残りづらいんです。

トルコのカッパドキアに行ったときもそうでした。「カッパドキアの奇岩遺跡群」では、毎朝100機近くの気球を飛ばしていて、その絶景を見に行ったんです。昼間は時間が空くので、現地ツアーに参加して洞窟住居や壁画を見たんですが、写真を見返してもどこで何を見たのか覚えていなくて(笑)。

でも、実はこういう人は多いのではないでしょうか。「なぜここが有名なのか」「なぜこの場所が世界遺産なのか」といった歴史を学ぶと、記憶に残る旅ができるのではと思います。

――確かに、バスツアーに参加して寺院をたくさん見たけど、あとになってどれがどの寺か思い出せない……ということがありました。知識がないと区別がつかないんですよね。

詩歩さん:あともうひとつ、世界史を学ぶメリットを挙げるなら、「海外のニュースを自分ごととして理解できる」ところだと思っています。

ロシアによるウクライナ侵攻や、トルコで起きた大地震のニュースを見ると、「自分が行ったところだ」と思うんです。実際に自分が現地で見てきた経験と、改めて学んだ歴史を照らし合わせると、ニュースで映し出された光景がどれだけ大変なことか理解できるようになりますから。

――ありがとうございます。では、世界史を知ったうえで、改めて行ってみたい地域はありますか?

詩歩さん:改めて行ってみたいのはハワイですね。観光地として見どころが多い場所ですし、以前はやはり絶景メインで巡っていたんです。

でも、かつてはハワイ王国として栄えたことや、多くの日本人の移民が海を渡ったこと、アメリカに併合された経緯などを幸夫先生から聞いて、そんな歴史があったのかと驚きました。次は改めて、歴史の観点からハワイを見て回りたいと思っています。

取材・文=井上マサキ

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