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「過去と向き合ったことで、黒歴史も白く浄化させることができた」sumika片岡健太さんが語る失敗を糧にする方法

  • 2022年8月11日
  • レタスクラブニュース
人生の中では何度も失敗し、何度も壁にぶつかり、そのたびに成長もしています。
女性ファンも多い人気バンド・sumikaのボーカル&ギターの片岡健太さんの初エッセイ本『凡者の合奏』では、自身の半生を振り返りながら、どのように失敗や挫折を克服してきたのかが綴られています。
「ミュージシャンとして」だけでなく、一個人としての体験はいろんな層の読者も共感できる部分が多いはず。込めた思いなどを、たっぷりと語ってもらいました。


「10周年」イヤーに向かうタイミングで、自分の半生を振り返る機会をもらった


片岡さん:漠然とではありますが、「いつか自分の反省みたいなものを振り返ることができたらいいな」ということは以前から思っていたんです。
でも、音楽をやっていると、それで手一杯になってしまって、結局できないまま月日が流れていく焦燥感を少し感じていました。きっかけは、去年この本の表紙や巻頭に載っている写真を撮ってくれた写真家のヤオタケシ君経由で、編集の方が提案してくださって。

「ご自身の半生を書いていただけないでしょうか?」と言っていただけたことでした。sumikaが結成10周年イヤーに突入したところで、「このタイミングで振り返れたらいいな」と思っていたので、お声がけいただいたことで、漠然と思っていたことが実現できるようになりました。


この本で伝えたかったことは「いっぱい失敗してきた」ということ


片岡さん:バンドという屋号を抱えると、良いところも悪いところも、パーソナルな部分にそこまで深く入り込まなくてもいいというか。
言葉は悪いですが、割と表層的な部分で誤魔化せているのかもしれないなと思ったんです。

バンドで活動していると個人の失敗は見えづらいところがありますし、事務所やレーベルは「失敗してないように見せる」のが仕事だったりするので、これまでは一個人として「失敗もちゃんと大事なものだったよ」ということをアウトプットする機会がありませんでした。今回、過去のことを語り、未来につなげる本だからこそ、それができましたし、アウトプットしたことによって本当の意味での「等身大」や「身の丈」が見えたと感じています。

特に伝えたいと思ったのは、「とにかくいっぱい失敗してきた」ということなんです。


たくさんの出来事の中から、今の自分に繋がっていることをピップアップした


片岡さん:書き始める前に、編集の方を含めた今回のチームの皆さんと「どういう本にしていこうか」という話し合いをしました。
これまでの半生を振り返ると本当にたくさんの出来事がありますから、どれを選択していいのか分からないんですよね。
そこで、「今の自分はこうして作られた」とか「その瞬間に自分の心が動いた」とか、「今」に繋がっていることだけを書き下ろしていこうと決めました。

でも、心が動いたり、自分が変化する瞬間って、大体が傷ついた時だったりするんです。そういう傷や失敗はトラウマになっていて、これまでだったら、ふと思い出したりしても考えないふりをして逃げてきていました。

しかし、今回は、本を書くことにあたって言葉にしなければいけないということで、そういう過去と向き合って、「こういうことがあったから今の自分があるんだ」と結びつけることで、僕自身が黒歴史にしてしまっていたことを、ちゃんと白に浄化させることができました。

失敗したことは変えようのない過去ですが、実は「強み」だったり、他の方から「それ、良いね」って言われる部分は元々マイナスだった部分から生まれていたりするんです。コンプレックスが実は長所だった、みたいな。
それが分かったので、「傷や失敗にも意味があった」として過去に対して自信を持つこともできました。

これは、本を書かなかったら分からなかったことだったと思います。



本のタイトルを決めるのは難しくて、リアルに二転三転した


片岡さん:曲の作詞は経験がありますが、エッセイは初めてなので、どういうふうに書いていいのか分からないところがあって。
サポートをしてくださったライターの方がいるんですが、その方のアドバイスがすごくヒントになりました。

「事象ではなく、心象を書いてください」と言ってくれたんです。
事象だけを並べてしまうと、それはただのバイオグラフィになってしまいます。でも、どこにもまだアウトプットしていない自分の中にしかなかった言葉が必ずあるはずで、それを自分が咀嚼して言語化する必要があるなと思ったんです。

ほかにも、編集の方やデザイナーの方、カメラマン、マネージャーはもちろん、いろんな方に関わってもらって出来た本だと自覚していますし、それが『凡者の合奏』というタイトルにも繋がっています。
僕は天才ではなく凡人で、誰かに生かされて今の自分がある。
この本の執筆に関しても、自分ひとりで答えを導き出して書けていたら、たぶん『天才の独奏』になっていたんじゃないかなって。

バンドのアルバムのタイトルであれば、この1、2年の間での経験の中からキーワードを探して考えたり出来ます。
しかし、僕が30数年経験してきたこと、何を思ってきたかを集めた内容なので、人生のキャッチコピーを付けるようなものですから、かなり悩みました。リアルに二転三転しましたね。


今は通っているジムで栄養価を考えて作られた食事を摂っている


片岡さん:今回のエッセイ本でも書きましたが、声が出なくなったり、体調を崩したりして活動を休止したこともありました。
それ以来、バンドのメンバーからは「健康第一」ということで、僕の身体や健康のことを気遣ってくれていますね。

食事に関しては、以前は自炊をしてましたが、ライブや制作のスケジュールが過密になっていたので、通っているジムで栄養価を考えて作ってくれてる食事を摂ったりするようにしています。
夏頃にはまた自炊に戻ると思いますけど。僕は、基本的に料理を「まずいな」って思うことがないんです。「美味しい」か「超美味しい」しかなくて。だから、「片岡君の『美味しい』は信用できない」ってよく言われます(笑)。「まずい」って思ったのは、自炊して失敗した時くらいかな。

得意料理は、みりんかお酒を入れて、醤油ベースで味付けする「ご飯がすすむ系」。
もやしとかの野菜を肉と一緒に炒めて甘じょっぱい味付けにして。
一時期ハマってたのは、ミートソースの素を肉野菜炒めの中に入れて、パスタではなく、ごはんに載せるという料理でした。
あと、時間がある時はカレーも作りますね。料理の行程の中で一番好きなのは「炒める」時間です(笑)。



カメラを始めたきっかけは、人を撮りたいと思ったから

片岡さん:去年の夏にライカのカメラを買いました。そこで気付いたのは、カメラって「視点」なんだなってこと。

面で捉えていても背景を見ているのか、背景の中の木を見ているのか、花を見ているのか。
全部に焦点を当てることはできないので、必然的にどこに焦点を当てるのか、何を写したいのかが分かってくるんです。これは文章を書くことにも通じるところがあって、どの部分を伝えたいか、それを伝えるために背景はぼかした方がいいとか、大事なものがちゃんと見えるようになったので、写真はすごく勉強になりました。

デザイナーをやっている親友がカメラを選んでくれたんですけど、最初は分不相応ないいカメラだけど、これでいいのかな?って思っていました。でも、ギター界でも「ハードはアップデートできない」っていう名言があるので、最初にいいカメラを選んでくれて良かったなって今になって思っています。
カメラにハマるとレンズをいろいろ替えたくなるじゃないですか。そういう僕の性格も彼は知っていたので、レンズが替えられない単焦点レンズのカメラを選んでくれたんです。どの距離感で人と向き合うかが分かるから楽しいよって言われて、僕がカメラを始めたいと思ったきっかけが「人を撮りたい」だったから、これで良かったんだなって。

「音楽が好きな人にだけ伝わればいい」とは思っていない


片岡さん:僕はバンドをやっていますが、このエッセイが「音楽が好きな人にだけ伝わればいい」とは思ってないんです。
いろんな失敗があってもミュージシャンだから解決できたんでしょう?って思われちゃうと、きっとそうじゃないと思っていて。

さっきも言ったように、僕は音楽に関しても天才ではなくて、ひとりでやれると思ったことはないですし、凡人だから合奏しないといけないし、でもそれが楽しいんです。
音楽じゃなくても、そうだと思うんですよね。ひとりでできることもあるかもしれないけど、誰かの力を借りてやったほうが楽しかったり、厚みが増したりするんです。

sumikaを結成した2013年頃と比べても、今の方が失敗というものに対して風当たりが強い風潮になっている気がします。
失敗すると終わりというか、「傷もの」リスト入りしてもう上がってこれないみたいな。
だからこそ、この本を今出す意味があるような気がしているんです。気づけば周りにいる大切な人は、「僕が失敗したから出会えた人」ばかりです。なので、この本を通して、失敗や無駄も人生の糧になることを伝えられると嬉しいですね。

取材・文=田中隆信、写真=後藤壮太郎

【著者プロフィール】
片岡健太
神奈川県川崎市出身。荒井智之(Dr./Cho.)、黒田隼之介(Gt./Cho.)、小川貴之(Key./Cho.)とともに構成される4人組バンドsumikaのボーカル&ギターで、すべての楽曲の作詞を担当。キャッチーなメロディーと、人々に寄り添った歌詞が多くの共感を呼んでいる。これまで発売した3枚のフルアルバム『Familia』(17年)、『Chime』(19年)、『AMUSIC』(21年)はすべてオリコンチャート入り。ツアーでは日本武道館、横浜アリーナ、大阪城ホールなどの公演を完売させる。

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