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Vol.46 香川県の豊島というところで、重い歴史にショックを受け、素晴らしい自然に癒されました。

  • 2010年4月15日

 

 みなさん、こんにちは。ゴスペラーズの北山陽一です。
 今回は春休みの旅行報告の2回目。豊島(てしま)編です。
 豊島という島とそこで起こったことについて僕は今回の旅の計画に参加するまでまったく知らなかったのですが、産業廃棄物の問題で関西ではかなり有名だそうですね。その事件の経緯については、香川県庁のホームページの中に紹介されていますので、そちらを参照してください。
海  僕たちは15人くらいのツアーで、88歳という、その歴史の生き証人のような人が説明でずっと付いて回ってくれました。1日だけの見学ではありましたが、それでもすさまじい歴史とそのなかの現地の人々の苦労を肌で感じました。特に驚くべきは、たった一人の無法者が金儲けのためにやったことの結果として(その過程で、行政がその悪業をちゃんと監督/規制できなかったという事実も見逃してはいけませんが)、浜に埋めた産業廃棄物から様々な重金属が海に溶け出し、いちばんひどい時期には生物がまったく棲まなくなってしまっていたそうです。それで、当時の県知事が謝罪しに来るとか来ないとか、損害賠償をどうするとか、ものすごい戦いの歴史があったそうなんですが、その現場を今回見学したわけです。
 見て回った先のひとつに、県が作った、その一連の出来事を紹介するビデオを見ることができる施設があるんですが、その施設のいちばん重要な業務は海水の汚染対策です。どういうことをやっているかというと、まずゴミ処理場から地下水が海に出ていくところの地盤に広い範囲にわたって鉄の杭を打ち込んで水をいったんせき止めます。それから、井戸を掘って、汚染された水を吸い上げるんですが、その量は1日60万トン(ちなみに、日本人の1日の水使用量300リットル=約300kg)にもなるそうです。その水をきれいにしてから海に流します。こうした事業を続けてきた結果、海の状態はもとに戻りつつあるそうで、汚染の度合いはいちばんひどいときの10分の1以下になっているということです。ただ、その設備を整えるのに、10年間で500億円のお金をつぎ込んでいるそうで、その500億円の6割は国税からのお金です。そして、この汚染災害をひき起した本人に対しては、法律上、罰金50万円しか科せられなかったということです。
 元々の豊島はどういう島だったのかという話も聞きました。昔は乳牛をいっぱい飼っていて、名産品もいろいろあったそうなんですが、しかし産廃問題で有名になってしまったがために“ゴミの島”というイメージが付いてしまって、何も売れなくなってしまったということです。だから、これから島の産業をどうもり立てていくかということが切実な課題になっています。
 あるとき、どこかの大学の先生に相談したらオリーブの栽培を勧められたことがあったそうですが、島の住民はその勧めを受け入れませんでした。オリーブを育てようとすると、オリーブ特有の害虫が大量に発生するそうで、それに対処するためには専任で駆除する人間を一株ごとにつけるくらいの体制をとるか、さもなければ農薬を使うしかない、と。そのどちらになるかと言えば、人手をたくさんかけるわけにはいかないので結局農薬を使うことになると思いますが、とすると海に流れ込む重金属を防ぐために海底に鉄の杭を打つことまでやっていながら、その跡地から農薬を垂れ流すということになります。オリーブの栽培を勧めたその学者先生も、害虫のことを知らないはずもないでしょうが、やっぱり現場の状況を知らずに机上の理屈だけで考えるとそういうことにもなってしまうのでしょう。
 それにしても、僕が生まれた頃から同じ国の中でずっと争われてきたことなのに、島の名前さえ知らなかったわけで、それが本当にショックでした。しかも、そういう苦い歴史を背負っていながら、その隣には楽園のような環境が広がっているわけで、島自体はとても素晴らしいところで本当に癒される環境です。だから、訪ねていく場所としては最高だと思います。最高に癒される一方で、社会について考えるきっかけとなるようなすごくインパクトのある状況もかいま見せてくれるわけですから。
  さて、次回は小豊島編をお送りします。お楽しみに。

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