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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第62回 木材調達ガイドラインの策定〜住宅メーカーの差異化戦略として

  • 2009年3月12日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

特集/広がるフェアウッド調達〜南洋材ワークショップより 木材調達ガイドラインの策定〜住宅メーカーの差異化戦略として 積水ハウス(株)環境推進部企画グループチーフ課長 佐々木 正顕さん(ささき・まさあき)

無断転載禁じます

 本日はサプライヤーあるいは私たち住宅メーカーにとって木材調達がどのような戦略的な意味をもつかということを中心にお話ししたいと思います。
 今日、私たち住宅メーカーは、事業に不可欠な木材について何をよりどころに調達すればよいのか。しかもそれが社会から評価されるものになっているか。それが持続可能な社会をつくるという方向に沿った調達になっているか。そういう視点で木材を自分たちで判断できるかどうか。それが当社の木材調達の重要なポイントです。

経営戦略として独自のガイドラインを作成

 当社の場合、約150m2程度の軽量鉄骨造住宅1棟に使用される部材は建物部分だけで約42tあり、そのうち木材が約13%程度を占めます。約3,000社のメーカーが約6万点の部材を供給しています。
  当社は2005年度以降、主要なサプライヤー企業約60社に対し、各設備のかなり細かい部材まで、樹種や原産地、最終輸出国、認証材であるかどうかなど、調達に関する実態調査を実施しています。
  実は先日、外部の木材関係の業界の方から強い口調で質問を受けました。日本では2006年4月に「グリーン購入法」が改定され、政府調達材において合法性の証明された木材の使用が義務づけられていますが、なぜ貴社は政府より厳しい基準を設けて木材の持続可能性を独自に評価しようとする必要があるのか、と。
  私たちは持続可能な木材の調達とは、他社と差異化して存続するための経営戦略の一つだと意識しています。そのため法律は最低限のライン、つまり企業としてマーケットに登場するための資格に過ぎないと考えています。
  今年5月にドイツで生物多様性条約締約国会議(COP9)が開催されました。次回は2年後に日本での開催が決定しています。社会の流れは温暖化と並んで、生物多様性も重要なテーマとなっています。そして企業が生物多様性について本業の中でどう取り組んでいるかということに対しても、極めて注目が集まっているのです。
  私たち住宅メーカーにとっても木材に関する生物多様性は大きなテーマになるはずです。当社がグリーン購入法を最低限のラインとして認識しつつ、社会の信頼を確保し、他社との差異化要素を図るための独自のガイドラインの策定を判断したのもこうした社会の情勢を踏まえたものです。環境部署のみならず、資材調達部署、技術部門、開発部門、工場で実際に木材を調達している部署などがすべて集まり、策定に取り組みました。
  ガイドラインの策定には二つのポイントを設けました。一つは、「形式的な合法性の証明にとどまらず、実質的な持続可能性を反映させる」ということです。生態系破壊か、あるいは認証材かというだけでなく、生態系の保全あるいは地域住民に対する影響まで考慮しました。もう一つは「ガイドラインの客観性、透明性を確保する」ということです。ガイドラインが独りよがりにならないよう、国際的な標準に合った、客観的にもレベルの高い内容を目指し、とくに「国際環境NGOとの協働関係」を重視し、サプライヤーの戦略に与える影響力まで意識しました。

独自の指針でスコアリング

 ガイドラインでは世界のさまざまな指標に基づき10の指針を設けました(表)。その指針ごとに点数を付け、合計点により木材の調達レベルをS、A、B、Cとランクづけします。数値化には批判があるかもしれません。しかし、実際に今、少しでも持続可能な木材を調達しなければならない私たち住宅メーカーにとって、特定の、一種類だけの基準に基づいて木材を評価することは安定供給の妨げとなりかねないのです。私たちはこのランクづけにより、ランクの高い木材を増やす、あるいはランクの低い木材を減らすというやり方で高い目標を目指しています。

積水ハウスの木材調達ガイドライン:持続可能性を支える10の調達指針

(1)違法伐採の可能性が低い地域から産出された木材
(2)貴重な生態系が形成されている地域以外から産出された木材
(3)地域の生態系を大きく破壊する、天然林の大伐採が行われている地域以外から産出された木材
(4)絶滅が危惧されている樹種以外の木材
(5)消費地との距離がより近い地域から産出された木材
(6)木材に関する紛争や対立がある地域以外から産出された木材
(7)森林の回復速度を超えない計画的な伐採が行われている地域から産出された木材
(8)国産木材
(9)自然生態系の保全や創出につながるような方法により植林された木材
(10)木廃材を原料とした木質建材


サプライヤーと協働し互いのメリットのために改善を

 また、当社は二つのボーダーライン(最低基準)を設定しました。一つは最低限の合法性の確保ができているかという点で、調達指針1「違法伐採の可能性が低い地域から産出された木材」について一定の点数より低いものは採用しません。もう一つは絶滅危惧種の保全(指針4)で、こちらも一定のレベル以下のものは調達しません。ただし原則として新規部材に限って、基準に満たない部材を供給しているメーカーに対しては、即座にその切り替えは難しいため、一定の猶予を与え、その期間内に変更するよう求めます。
  調査の結果、ミニマムラインに適合しない部材にインドネシア産のラワン材が多いことがわかりました。サプライヤーに改善を求めたところ、今年(2008年)はフロア材については8割弱、合板については3割の改善が実現しました。フロア材については、タスマニアのユーカリや、ラワン材でもFSC(森林管理協議会)製品に換えるという提案がありました。このように、日本最大の住宅メーカーとして、サプライヤーとともに力を合わせながら互いにメリットが出る形で部材の改善に取り組むことが重要と考えています。

合法性証明の手段と消費者の啓発が今後の課題

 EU(欧州連合)ではすでに厳しい基準で木材の囲い込みが進んでいます。そういう中で日本の企業が手をこまねいていると、何十年後かに突然基準に満たない木材の調達にストップの声がかかるのが目に見えています。木材調達については早く手をつけた方が勝者になれると私たちは考えているのです。
  合法性証明の手段は現在、当社が抱えている最大の問題です。合法性を証明するためもっとさまざまな手段が必要です。
  また、一般的に消費者は木材の合法性について関心はあまり高くはありません。私たちはエンドユーザーと最も接点を持っているメーカーとして、消費者への啓発も非常に重要であると考えています。


(グローバルネット:2008年9月号より)


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