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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第50回 進化する国際金融機関等の環境社会配慮ガイドライン

  • 2008年3月13日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

特集/進化する環境ガイドライン〜新たな展開を見せる国際金融の環境社会配慮(その1)進化する国際金融機関等の環境社会配慮ガイドライン (財)地球・人間環境フォーラム 満田 夏花

無断転載禁じます

 地球・人間環境フォーラムは、2000年から、国際金融機関等の環境社会配慮政策や異議申立制度に関する一連の調査研究を行ってきた。これに基づき、国内外の国際金融機関等の環境社会配慮政策をめぐる動きを振り返るとともに、その基本的な考え方について整理を試みたい。

現実の被害が生み出した環境社会配慮ガイドライン

 開発途上国などで実施される開発事業に資金面から深く関わる国際金融機関などは、1980年代後半頃から融資事業の環境社会影響の回避や緩和を目的とした政策やガイドラインを相次いで策定した。世界銀行(以下、世銀)は84年に「環境に関する業務マニュアル」を策定し、環境に重大な影響を及ぼす可能性のある事業に際しての環境調査の実施と、緩和措置などの評価を行うことを規定した。さらに80年代後半から、環境影響評価、非自発的住民移転、先住民族、自然生息地、林業、ダムなどに関して、幅広く、かつ詳細にわたる一連のセーフガード政策やガイドラインを構築するとともに、93年、事業によって影響を受ける住民等の申立を受けて、世銀の融資事業に政策違反がなかったかどうかを調査する独立したパネル(インスペクション・パネル)を設置した。この背景には、世銀が融資したいくつかの巨大事業がもたらした現実の環境社会被害、そしてそれらを生み出した世銀の構造的な問題に対する、南北の市民社会からの強烈な批判が存在した。

 日本は、多くの途上国でインフラ建設などの大型事業に、経済協力や技術協力、日本企業の輸出・投資支援のための融資などさまざまな形で公的資金を使って支援しており、当然こうした流れとは無縁ではいられなかった。NGOの個別具体的な批判、国会での攻防、メディア報道、そして何よりも、現実に日本の公的資金が支える開発事業によって苦しんでいる人びとがおり、それが必ずしも例外的なケースではないかもしれないという認識は、多くの関係者に、融資や協力事業が現地において環境社会問題を引き起こさないためのガイドラインづくりに真摯に取り組んでいく必要性を痛感させたことと思われる。

 2002年4月には、円借款による海外経済協力や国際金融等業務を担う国際協力銀行(JBIC)や貿易保険等を扱う日本貿易保険(NEXI)が、さらに2004年4月には、技術協力や無償資金協力の調査などを担う国際協力機構(JICA)が、国際的にも高い水準の環境社会配慮ガイドラインを策定した。また、JBICとJICAは異議申立メカニズムを導入した。

近年の動き

 近年の動きとしては、商業銀行による赤道原則の採択およびその改訂、世銀グループの中でも対民間セクター支援を担う国際金融公社(IFC)の環境政策の改訂、世銀によるカントリーシステムの施行などが挙げられる。

 IFCは1998年策定したセーフガード政策を包括的に見直し、2006年2月改訂した。新たな政策では、「社会・環境の持続可能性に関するIFC政策」が策定されるとともに、従来のテーマ別の10の政策が、8のパフォーマンス・スタンダードに統合された。特徴は、成果に基づいた結果を評価するというアプローチにより、事業の全期間を通じた効果的なパフォーマンスを確保することを目指していること、また、労働者の権利や人権、地域社会の保険と安全など、広範な社会的側面の指標を取り入れ包括的な基準としたことである。

 世銀は、2005年3月、環境社会的課題に対応するための「借入国システム活用」の試行を一部の国々で開始した。これは、借入国の既存の法令・規則・手続き等が世銀のシステムに同水準であると判断された場合、世銀融資事業において当該国の制度を活用することを言う。世銀は、これにより、世銀融資事業のみにセーフガード等を適用してきた従来のモデルから、当該国全体の効果的な政策立案および実施を支援する方向へのシフトを促進することができるとした。

 注意しなければならないのは、この「借入国システム」は、借入国の法制度などが、世銀の政策と同等であり、実施能力などが十分であることを評価すること、また必要とされた場合は、対処能力の構築支援を行うことがセットであるという点である。

何を実現するのか

責任ある融資:良い事業への支援と破壊的な事業の回避、事業の質の向上
作成:ポンプワークショップ
 環境ガイドラインにより何を実現するのか。多くの国際金融機関は、融資事業における環境社会配慮を通じて、持続可能な開発に貢献することをその目的に掲げている。

 これをかみ砕いて考えると三つのアプローチが必要になってくる。・必要な環境社会配慮が事業において行われていることを確認すること・仮に・が自動的には実現できない場合は、融資や支援という「てこ」を通じて事業実施者に働きかけ、必要とされる環境社会配慮を求めていくこと・回復しがたい環境破壊や大きな社会的な負の影響を伴う事業には融資を行わないこと——である(図)。

 融資関係者は、よく・の重要性を強調する。ここで重要となってくるのは、融資可とした根拠や前提、そして今後とられる行動の内容およびフィージビリティを対外的にも示すことであろう。また、融資後には事業者まかせにしない注意深いモニタリングが必要となってくる。

 融資を行うということは、事業の改善を働きかけられる反面、実際には、問題を追認し、または、問題を生む体制の維持をサポートすることにつながりかねないことを肝に銘じなければなるまい。


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