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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第24回 子供の生活環境と化学物質〜国民調査の結果から

  • 2006年1月12日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

スウェーデンカロリンスカ研究所感興医学部門 カタリナ・ヴィクトリン

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小児や胎児は環境からの影響にきわめて敏感

 カロリンスカ研究所・環境医学部門は、政府の委嘱により、小児の環境衛生に関する調査を行い、2005年2月に『環境衛生報告書』を公表した。本報告書は、各種環境要因に対する小児の暴露状況に関する理解を高めること、これら環境要因に起因すると考えられる健康上のリスク状況を取りまとめ記述すること、小児等で起こっている健康上の影響の中で、どこまでが環境要因によるものかの推定を行うことを目的としている。

 報告書作成に当たって、スウェーデン国内の8ヵ月児、4歳児、12歳児、合計4万人(スウェーデンの全人口約900万人のうち14歳までの小児の人口は150万人)を対象に調査を行った。小児の健康状態、家族および住居の状況、交通機関の利用、ペット、親の喫煙、ぜん息、食物、皮膚アレルギー、聴力、騒音の暴露、異臭および排気による苦痛、日射からの保護、食習慣など約100項目の質問表を用いて行った。回答率は71%だった。

 小児と成人の間には、生理学的、生物学的に重要な差異が認められるが、小児および胎児の場合、環境からの影響に対してある意味で極めて敏感である点で成人との間の違いがとくに目立つ。一般に人は、食物、飲料水の摂取あるいは空気の吸入を通して環境汚染物質への暴露を受けるが、小児の場合は、成人の暴露のあり方とは異なる側面がある。母親が特定の物質に対して暴露を受けている場合、その母乳で育てられている乳児は、母親が被爆しているものと同じ物質、中でもとくに脂溶性物質への暴露を、母乳を通して受ける可能性のあることが考えられる。

胎児・神経組織・内分泌器官への影響

 環境が小児の健康に与える影響としては、胎児への影響、神経組織および内分泌器官への影響、ガンおよびアレルギー疾患などがこれまでに観察されている。

 胎児の発達およびこれに続く小児期の健康は、遺伝的要因のほかに、胎児期間中における環境要因によっても影響を受ける。現在、新生児の約2%は、染色体異常あるいは先天的奇形をもって生まれており、これがその後の小児の健康に重要な影響を及ぼす結果となっているが、多くの場合、その原因はわかっていない。環境的要因の中で、人体に奇形をもたらすことが確実にわかっている環境要因としては、電離放射線(ionising radiation)をあげることができる。スウェーデンでは、電離放射線源としてラドンのみが使用されており、基準を超えるラドン量暴露の可能性のある家屋に住む小児の数は約20万人と推定されている。

 中枢神経系は段階的に形成され、各段階における発達は、その前段階における発達の状況に依存している。したがって、神経系に影響を与える可能性をもつ毒性物質に対する暴露が胎児の発達のどの段階で起こったかが、出生後の中枢神経系の形成に与える影響について、重要な意味をもつことになる。脳は、その発達段階中において、多くの化学物質に対し、非常に脆弱である。また、神経系がその発達段階中に受けた有害な影響によって生じる異常としては、運動障害、精神遅滞、学習困難、多動性障害、衝動性、注意欠陥障害などがあげられる。化学物質および環境汚染物質が脳に障害を与えることはすでに動物実験によって明らかになっており、また、小児においても、鉛、メチル水銀、ダイオキシン、PCBsなどの環境汚染物質が低IQ(知能指数)あるいは、運動協調機能、記憶、言語の発達への障害をもたらすと考えられている。スウェーデンにおいては、小児が実際に環境汚染物質への暴露によって神経組織に重大な影響を受けている可能性は、一般に低いと考えられている。

4歳児、12歳児の4人に1人がアレルギー症状

 スウェーデンでは、ヨーロッパ各国の例に漏れず、この数十年間にアレルギー体質をもつ小児の数は倍増以上の勢いである。こうした体質をもつ小児の大半は、出生後4〜5年でアレルギー疾患を発症している。調査結果を見ると、4歳児および12歳児の、およそ4人に1人が、一般的な物質に対するアレルギーが原因の湿疹、ぜん息、アレルギー性鼻炎、食物アレルギーその他の症状を患っていることがわかる。また、4歳児の12%、12歳児の19%が吸入性あるいは食物アレルゲンが原因のアレルギー疾患を患っているとの結果も出た。各種のアレルゲンの中で最も多いのは花粉、次に多いのは毛皮獣だった。ニッケル接触によるアレルギーが、12歳女児の9%、12歳男児の2%に見られた。

 妊娠中および生後4ヵ月までの期間の授乳中の母親の喫煙による暴露を受けた小児、また、生後数年間を湿気の多い住居で生活した小児は、4歳までの間にぜん息を発症する例が多かったことが示されている。

 他人の吸うタバコの煙に日常的に暴露されている小児はより激しいぜん息の症状を呈するのが現実であるが、そうした事実があるにもかかわらず、ぜん息の症状をもつ小児が家庭においてタバコの煙にさらされている割合は、ぜん息を患っていない小児の場合と同じである、という結果も得られた。

高い母乳の化学汚染、それでも好ましい母乳育児

 環境中に排出された無機水銀は、長期間を経た後にメチル水銀に転化するが、スウェーデンでは、カワカマス、カワメンタイ、クロマスなどの湖水魚中に最も濃度の高い形でこれが蓄積しており、政府食品局(National Food Administ-ration)から、関連魚類の捕食に関してのガイドラインが示されている。今回の調査では、母親の77%がこうしたガイドラインについて知っていると答えた。メチル水銀は、胎盤を通過して胎児に到達し、その中枢神経系に障害を及ぼすことがあり、その意味で胎児や幼児が受ける影響はとくに大きい。今後継続して暴露状況のモニターを行う必要がある。

 銅は、われわれの生体機能が正常に働くために必要な微量元素だが、銅製の水道管から溶出する銅が混入した飲料水を用いてベビー用ミルクやオートミールなどを調製した場合、これが乳幼児の下痢を誘発するのではないかとの議論がこのところ続いている。この場合、どの程度の暴露により実際に下痢につながるのかは明確ではないが、飲料水中の銅の許容限度量は2mg/リットルであるとするEU(欧州連合)規定未満の銅濃度で下痢が見られたとの例はまだ報告されてない。

 鉛の環境内への流出量削減策、とくにガソリンへの鉛の混入の段階的停止は成功裏に進み、大気、食物、ヒトの血中の鉛濃度は、この20年間に大きく減少した。鉛は胎盤を通過してそのまま胎児にまで達するため、新生児の鉛の血中濃度は、母親の血中濃度とほぼ同じである。一方、母乳内の鉛の濃度は、ごくわずかである。鉛が体に与える害としては、とくに脳の形成期における中枢神経系への障害が知られている。スウェーデンの場合、妊娠中の女性と小学校入学前の年齢の小児の血液中の鉛の濃度と、健康への影響が現われ始める濃度との間の開きは比較的小さく、したがって、これ以上鉛への暴露を増加させないことが重要である。

 スウェーデン国民全体としてダイオキシン、PCBs暴露の度合いは、胎児の発達に微妙な影響が現われ始めるとされる程度となっている。とくに母乳内のダイオキシン、PCBs、臭素系難燃剤(PEDB)の値はきわめて高く、母乳で育てられている乳児はこれらの物質への汚染度が最も高くなっている。しかしながら、母乳による育児がいかに好ましいかが広く認識されており、母乳による育児は奨励すべきこととして意見の一致が得られている。

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