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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第15回 海の危機と漁業

  • 2005年4月14日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

特集 食卓から始まる海の環境保全海の危機と漁業佐久間 美明(さくま・よしあき)

無断転載禁じます

 地球面積の70%は海です。陸上での廃棄物は海に流れ込み、大気中に蒸発した化学物質も多くは海に直接雨と一緒に降ったり、川を通って海に行きます。ある意味では、海洋は環境問題の最終処分場といえるのかもしれません。さまざまな人間活動により海洋環境に負荷がかかっており、漁業生産にも影響を与えています。

変わらぬ消費量と変わる供給地

 日本人は、世界的に見ても多量の魚介類を食べています。2001年、一人当たり魚介類供給量は65.8 kgで、中国の2倍、アメリカの3倍以上の数値です。また、日本人の一人一日当たり動物性タンパク質供給量の推移を見ると、魚介類は20g前後で長期間ほとんど変化していません。ちなみに肉類からのタンパク質は一日14g程度で、増えてきたとはいえ、魚介類よりもまだ少ない状況です(卵や乳製品を加えると畜産物からのタンパク質の方が多い)。魚離れを心配する水産関係者も多いですが、魚料理が苦手な人は増えても、魚好きは減っていないようです。ただ、魚介類の総消費量は変わらなくても、その内容はだいぶ変わっています。

資源減少と自給率急落

 日本の水産業は、1970年までは輸出産業でした。それが、2002年の魚介類自給率は46%で、5割を切っています(魚粉などを除いた食用に限っても53%)。自給率が下がった要因としては、日本の遠洋漁業が衰退したことや、日本近海で豊富なアジ、サバ、イカ等の低価格魚介類の消費が低迷し、マグロ、サケ、エビ、カニ等の高価格魚介類が好まれるようになったこともあります。しかし日本近海での水産資源減少という要因も無視できません。水産庁によると、日本周辺水域で資源評価が行われた魚種等のうち、半数近くで資源水準が低位だということです。漁業者の過剰漁獲のために減少したと考えられている資源も多いのです。水産庁では水産基本計画を策定し、2012年度の魚介類全体の自給率を66%、うち食用を65%に上げる目標を掲げていますが、実現のめどは立っていません。

 また、世界的に見ても過剰漁獲は大きな問題になっています。各国の漁業が盛んになるにつれて世界の漁獲量は歴史的に見ると増大してきましたが、1990年代になると漁獲量の伸びはほとんど見られません。世界的に見て有用な水産資源の大部分は上限まで利用しているか、過剰漁獲の状態にあるといわれています。例えば東シナ海や黄海は海流や河川からの適度な栄養塩等により非常に豊かな漁場でしたが、日本、中国、韓国が長期間強い漁獲圧力をかけ続けたことにより、さまざまな魚種で分布域の縮小、漁獲物の小型化、漁獲量の低下などが起きています。

給餌養殖業の意義と課題

 魚介類の生産は、70年代初頭までは大部分が漁獲によるものでしたが、80年代以降、淡水魚や貝類等の養殖生産が拡大し、最近では世界の魚介類生産の3割程度が養殖生産になっています。獲る漁業が過剰漁獲で生産を増やせないなら、養殖はこれから有望でしょうか?

 魚を養殖する方法として、給餌養殖と無給餌養殖の二つがあります。コイなどの藻食性淡水魚の場合は、アオコのような藻類を餌にするため、とくに餌を与えなくても養殖することができます。中国では以前、この方法で生産量を伸ばし、今では世界一の水産物生産国となっています。ただし、高価格魚の多くは肉食性であり、養殖業で大きな利益を上げるためには給餌養殖業を行わなければ難しいといわれています。日本で行われている魚類養殖業は、ほとんどが給餌養殖業です。

 以前、「イワシを餌にしてハマチの養殖を行うのはもったいない。イワシをそのまま食べた方が多くのタンパク質を安く供給できる」という養殖批判がありましたが、現実には日本人の所得上昇等に伴いイワシの消費量は減少し、ハマチも含んだブリ類の消費量が増えています。産業としてみれば消費者の嗜好にあった商品を作る養殖業の方向性は間違っていませんが、自然環境への負荷という面では問題を抱えている地域もあります。

 何しろ、魚に食べられた餌の多くは糞や尿として環境に放出されてしまい、魚の増重に使われる分は20%程度といわれています。つまり、食べ残しなども考えに入れると、利用した餌の80%以上は環境への負荷になってしまうということです。養殖業が行われているのは波が静かな内湾域が多く、生活排水などで富栄養化が問題になりがちです。そこでさらに給餌養殖業を行えば、ますます水が汚れてしまうかもしれません。また、給餌養殖業では餌の投入量の20%程しか生産量として上がりませんし、餌の多くが魚由来のものなので、世界の食糧供給増大に役立つというわけではなさそうです。

環境被害者としての漁業

 これまで、漁業生産を行うことによる環境への負荷について書いてきましたが、逆に、環境の変化により漁業生産が影響を受けるという側面もあります。例えば、わが国では埋め立てや護岸工事などにより自然海岸が減少しています。また、多くの海域で多くの魚介類が産卵場所等に使う藻場といわれる場所がなくなりつつあります。

 わが国における小規模漁船を用いて日帰りで操業する沿岸漁業の漁獲量は、長い間ほぼ一定の値を保ってきましたが、近年は減少傾向が続いています。沿岸域環境の悪化が原因かもしれません。東京湾や伊勢湾など、生活排水等により魚類養殖業も営めないほど富栄養化による汚染が進んだ内湾では、夏場の貧酸素水塊の発生や有毒プランクトンが異常増殖した赤潮等により、漁業生産に影響が出ています。また、気候変動によりこれまで漁獲していた魚種が獲れなくなるのではないかという心配が広がっています。

 さらに、ダイオキシン類をはじめとする微量化学物質汚染という重い課題もあります。日本人は食事からダイオキシン類の90%以上を摂取し、そのうち約8割が魚介類経由と推定されているのです。ただ、農薬等由来のダイオキシン類排出量減少により、77年から98年までにダイオキシン類の濃度は3分の1程度に減少していますし、汚染による悪影響と魚介類の有効成分をともに考慮すると、現状の平均的日本人程度に魚を食べるのが最も健康に良いという研究結果もあります。リスクコミュニケーションに留意しながら、正確な情報を消費者に伝えたいものです。

安全・安心と環境保全

 消費者は安心を求めます。科学的に絶対安全ということは言いにくい現在、消費者に安心を与えることは難しくなっています。ただし、論理的に言えば良い環境で育った魚介類を流通・消費段階まで区別して届けることが安全・安心につながります。JAS法の改正で生鮮魚介類の名称、原産地、解凍、養殖の表示が義務づけられ、加工食品についても一部の品目で原料原産地の表示が義務づけられるようになりましたが、よりきめ細かい、漁業者と消費者の顔が見える取引を進めていく必要があるでしょう。

 消費者の側でも、自分が流した生活排水や、川や海辺に捨てたゴミが漁業生産に大きな影響を及ぼしていることを知っている人と知らない人がいます。また、漁業者の中にも、短期的な利益を求めて過剰漁獲や過密養殖に走る人がいる一方で、持続的な漁業を目指して資源と消費者に向き合う経営を行っている真面目な人たちもいるのです。今日の食卓に並んだ魚はどんな漁師さんが獲ったのか? 資源は豊富なのか? どんな環境で育ったのか? まずは消費者に漁業生産現場への興味を持ってもらえるような情報提供を促すことから始めることが重要でしょう。

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