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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第12回 シックハウス問題の今

  • 2005年1月13日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

シックハウス問題の今 NPO法人シックハウスを考える会理事長 上原 裕之さん


シックハウスの歴史

 皆さん、シックハウス症候群という名前を聞かれたことがあるでしょうか? 家に入ると目がしみる、気分が悪くなるといったさまざまな症状が家の中の原因によって引き起こされることをいいます。このシックハウス症候群とは私が1993年に命名した病気です。新築の診療所付き住居に入った時から家族、従業員に上記のような症状が出ました。しかし当時、工務店も総合病院も保健所も消費生活センターも原因がわからないということでした。そこで素人の私が診療所の隅々を探して、棚を作る予定でむき出しになっていた下地の合板の臭いをかいだところ刺激が強かったために、農水省に問い合わせました。すると、二言返事で「ホルムアルデヒドでしょう」という返事が返ってきました。実はすでに70年に食器棚から発がん性やアレルギーを引き起こす可能性のある化学物質ホルムアルデヒドが大量に出ていたことを受けて業界は自主規制をかけ、80年にJAS(日本農林規格)で合板から出るホルムアルデヒドを減らすための認定制度がつくられていたのです。これらの措置によってホルムアルデヒドは使われないようになっていくはずでした。

日本の消費者運動の歪み

 ところが、JAS化することでそれまで追及してきた消費者団体もマスコミも一切、この問題を話題にすることもなくなっていました。しかしその間、JASの基準はほとんど守られることなく、私がこの問題を指摘し、96年に国会で取り上げられるまで日本中の多くの家庭の構造材・内装材には今の国の基準値の50倍を超えるようなホルムアルデヒド汚染のある建材(海外産のほぼすべて、国内産の3分の2)が見られました。そして国産材の残りの3分の1のほとんどがJAS基準の25倍相当という惨々たる状況でした。なぜJAS化したのに守られずに、30年間も国民が発がん性の可能性がある有害物質にさらされなくてはならなかったのか? これらはすべて、消費者団体には「私たちは何も知らない」政治的に要求する圧力団体としての機能はあっても、「国や業界が実際に約束を守れているか」という重要な「科学に裏付けられた監査機能」が欠如していた結果といえます。

建築基準法はシックハウス対策の最低ライン

 2000年に成立した品質確保法により、自主的にホルムアルデヒドの出る量の少ない建材を使用した場合、業者がそのことをうたえるようになり、その後2003年に建築基準法が改正され、法規制によるホルムアルデヒド汚染に関しては対策が取られました。

シックハウス対策に関する改正建築基準法の概要

(1) 規制対象とする化学物質
クロルピリホスおよびホルムアルデヒドとする。
(2) クロルピリホスに関する規制
居室を有する建築物には、クロルピリホスを添加した建材の使用を禁止する。
(3) ホルムアルデヒドに関する規制
(4) 内装の仕上げの制限:居室の種類および換気回数に応じて、内装仕上げに使用するホルムアルデヒドを発散する建材の面積制限を行う。
(5) 換気設備の義務付け:ホルムアルデヒドを発散する建材を使用しない場合でも、家具からの発散があるため、原則としてすべての建築物に機械換気設備の設置を義務付ける。
(6) 天井裏等の制限:天井裏等は、下地材をホルムアルデヒドの発散の少ない建材とするか、機械換気設備を天井裏等も換気できる構造とする。

 しかし、残念なことにこれだけではシックハウス対策が十分とはいえません。まず、第1に、シックスクール(シックハウスの学校版)はトルエン、キシレンといった建築基準法の規制に入っていない有害化学物質によって引き起こされます。

 第2に建材におけるデータが非常にあいまいで単純に信用できないという点です。単にシックハウス対策としての認定にもJAS、業界認定、国土交通大臣認定の三つがあり、JAS以外においてはその安全性の担保が低くなり、実際にうたっている性能を担保できずに社会問題になったケースもあります。また、温度、湿度によっても濃度はさまざまに変化をします。

 第3に国の指針値は基本的に健康な成人男性を基本にしており、乳幼児や子供、老人においてはもっと低い値でも反応する人が増えてくると考えられます。とくに1,000万人いるといわれるアレルギー性疾患の患者に関しても建築基準法で対応できるとは考えにくく、国も建築基準法は最低限であり、「これを守ればシックハウス対策は十分とはいえない」としています。

今シックハウス問題解決に必要なこと

 「シックハウスを考える会」は94年に私一人で始めましたが、現在は日本を代表する建設、住宅、建材、化学その他の企業の技術者や研究者を含む約700人の会員を有します。そして、建築基準法改正の根拠を示すため、目・気道粘膜の症状はホルムアルデヒド濃度に依存することを示しました(図)。シックハウス問題に関してまだまだ医学、化学、建築学が一体となった研究が不足しています。この研究を国だけに頼らずに、建築業界、住宅業界、医師会、弁護士会等の枠を越えて行う必要があります。そこで現在、われわれの会は大阪府や高知県などの自治体、大手住宅、建設設計、国の独立行政法人や東京大学等でこの問題における中心的な研究を行っている先生たちと一緒に国が定めた最低限の建築基準法を補い、国民が安心して生活できるための研究を一緒に行う準備をしています。

 従来、地方自治体においては、予算と免責を伴うマニュアルを国が出すまで動かないのが正しいという面があるように思われます。しかし、シックハウスに関しては短期間のうちに国が有病者や乳幼児、子供、老人に対してそれらを満たすことは困難に思われます。このような状況下で、さまざまな言い訳を考えて逃れようとする自治体がある一方で、東京都のように学校におけるホルムアルデヒドの目安を建築基準法の濃度の半分にした自治体、大阪府四條畷市のように日本でも最も厳しいレベルの建材の使用を基本とすると表明した自治体もあります。また、高知県では知事自らがシックハウス対策への取り組みを宣言し、県の林業団体が県産材による家具とホルムアルデヒドに汚染された家具の仕様に関する調査を行い、県産材の活用による県の活性化につなげようと考え、われわれに協力を求めています。また大阪府とは府下の公共建築物からシックハウスをなくすための検討会を行っています。

 このようにシックハウス問題に関して国より進んだ研究や対策と、日本中の優れた企業の技術者、大学関係者、公益法人、医師会、弁護士会等と一緒に推進したいというほかの自治体があれば、ぜひ連絡をください。われわれにはその地域を日本一、いや世界一安全な住環境地域にしていけるノウハウを提供する準備があります。

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