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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第108回 ブルキナファソ国での技術移転とニジェール共和国での風食対策の取り組み

  • 2013年1月10日

特集/セミナー報告 サヘル地域の砂漠化対処と日本の貢献  第108回 ブルキナファソ国での技術移転とニジェール共和国での風食対策の取り組み

 私たち、地球・人間環境フォーラムでは、西アフリカ、サヘル地域のブルキナファソ国とニジェール共和国の2ヵ国で活動してきている。

住民主体で実施したブルキナファソの砂漠化防止事業

 環境省の砂漠化防止対策技術の移転手法の検討・調査を目的としたパイロット事業であった(2004〜2007年度)この事業は、現地の近隣地域間での、簡易で伝統的な技術の移転・活用を趣旨としたものであり、技術の選択等も住民による住民主体を基本とし、私たち外部者はきっかけづくりを行う触媒という姿勢での実施だった。対象は、日本のNGOの緑のサヘルが活動していた、ブルキナファソ北東部のタカバングゥ村という農村とした。

 まず住民による近隣地域への視察旅行を実施、視察旅行に参加した住民から他の住民への視察結果の報告を経て、住民が希望する技術を選択することから始めた。そして、技術導入活動を担う住民のグループを選び、活動と並行して他の住民と情報を共有する形で技術移転活動を実施した。住民主体での活動によりオーナーシップ(主体性)が確保されるという結果が得られた。反面、特定のグループによる技術導入は、他の住民に対して排他的になったという面、近隣とはいえ他地域の技術だったために対象地に適正でない面も見られた。また継続的な活動には、現地のNGOや行政組織との協力が必要だという教訓もあらためて得た。

ニジェールで効果が実証された耕地内休閑システム

 ニジェールでの風食対策の取り組みとして、国際協力機構(JICA)草の根技術協力事業「サヘル地域での砂漠化対処および生活向上に向けた農民技術の形成と普及」として現在行っている技術、「耕地内休閑システム」の普及活動について報告する。

 ニジェールの西のティラベリ州南部とドッソ州を活動対象地としているが、それ以外に、現地の団体、青年海外協力隊と協力して、ティラベリ州北部、タウア州、マラディ州、ザンデール州でも活動を展開してきている。ブルキナファソの事業に比べて、技術の導入に際し、外部者としてグループの形成や参加人数の規制等の干渉は行わず、技術紹介を通じて、関心を持った住民による技術導入という形を取っている。

 ここから導入技術である「耕地内休閑システム」について説明する。この技術は日本人研究者(田中樹:総合地球環境学研究所、伊ヶ崎健大:首都大学東京、真常仁志:京都大学、飛田哲:JIRCAS)が、ニジェールに拠点を置く国際半乾燥地熱帯作物研究所(ICRISAT)で開発・実証した技術である。

風は持ち去るのではなく、必要なものを集めてくれる

実践技術「耕地内休閑システム」
実践技術「耕地内休閑システム」
乾期の初め頃の耕地(左側)と休閑地の様子(右側)
耕地の表面には粗大有機物が見られる
(写真:首都大学東京 伊ヶ崎健大氏提供)
 「耕地内休閑システム」には、サヘル地域で東から吹く、乾季のハルマッタンという風と、乾季が終わって雨季の始まる頃に瞬間的に砂嵐を伴い強く吹く風(雨を伴うこともある)が大きく関わる。

 耕地(東側)と休閑地(西側)が接している場所で以下のことが観察された。乾季の初め頃には、収穫後の耕地の表面には粗大有機物が見られる(写真)が、雨季が始まる直前、乾季の終わりになると、耕地では見られていた粗大有機物がなくなり、それらの粗大有機物とさらに土壌が休閑地側に吹き寄せられて堆積していた。これは前述の東から吹く風によるものである。よくある例では、耕地から有機物が風に持ち去られてしまう風食として捉え、問題視するのだが、この休閑地に吹き寄せられた有機物や土に視点を当て、これをどう活かすかを考え、風が持ち去るのではなく、必要なものを集めてくれるという良い側面を捉え、利用するのがこの技術の特徴である。

 (現地で雨季に栽培される作物)トウジンビエの農地に、5mの幅で播種も除草もしない(何もしない)ことにより草が生える休閑帯を設ける。この休閑帯の草は乾季に東から吹く風を受けて、有機物や土を捉え、風食を抑制し、さらに風食抑制のみでなく、休閑帯への養分の蓄積という効果をもたらす。これを活かした技術が、私たちが現在、普及させている「耕地内休閑システム」である。

 この効果を確認するために休閑帯の東側(風上)と、西側(風下)に有機物や土を捉える装置を設け、捉えられたものの量を計測した。風上と風下で捉えられたものの量の差が、休閑帯で捉えられた量と考えると、休閑帯を設けることで、土壌で74%、有機物だと58%が休閑帯に溜まっていることが確認された。本来であれば失っているものが留まっていることにより風食抑制効果があると考えられる。

 次に養分の集積が収量向上につながることを説明する(図)。1年目は、雨季の栽培期に設けられた休閑帯に、乾季に風が吹いて有機物等の養分が蓄積する。2年目の雨季には、風上に新しい休閑帯を設け、1年目の休閑帯ではトウジンビエを栽培、休閑帯に乾季に蓄積された有機物や土壌が利用されてトウジンビエの収量が上がることが確認された。3年目以降にも同様の過程を繰り返す。前年に休閑帯があった場所、なかった場所では見た目でもわかる差が出ている。

 この休閑帯での効果がどのくらい継続するかだが、農地全体として収量増大が2年目までは確認され、3年目も推定されている。つまり3年ほどは、効果が続くことが確認された。

耕地内休閑システム〜休閑帯のローテーションと収量改善
図:耕地内休閑システム〜休閑帯のローテーションと収量改善

開発者が考えていなかった効果も

 日本人研究者らが、事業開始前の試みで耕地内休閑システムを導入した農地に村の住民に集まってもらい彼らの声を聞いてみた。すると研究者が想定していた、住民の収量増加への関心以外に、「建築・工芸等の資材として使う作物の茎が太くなっている、家畜の餌となる葉が多くなっている」とのコメントが住民からあった。また、従来なら多く見られる欠株(播種しても生えてこない株)が見られなくなったとの指摘もあった。このことは、研究者が気づいていなかったことである。この試みで設置された休閑帯のいくつかはグーグルアースの衛星画像でも確認することができる。将来的には衛星写真を活用した普及状態や技術の効果の確認も可能かもしれない。

 事業では、これまでの普及の成果として、40村落まで取り組みが広がり、効果が上がっている。現地団体との協力による普及も含めると、2012年はニジェールで面積としては半分くらいにあたる5州で活動を展開することができると考えている。

広がりを見せる風食対策とその課題

 風食対策の課題は、まず技術面では、収量の面で一年目は効果が見えないため、導入の際の技術の受け入れが難しいという懸念があったが、実際には現地の人たちは農業のことはよく知っており、技術を紹介すると、やってみたいという人が多かった。また技術の効果を得るには、雨季、乾季を通じた休閑帯の草の維持が重要になるが、乾季にはこの地帯では家畜が多くなり、その家畜に草を食べられたり、(家畜飼料や販売用に)人が草を刈ってしまったりという問題が起きており、対策について話し合いを続けている。降雨不足・不順や病害虫発生による農業活動への影響もあった。

 普及面の問題として、初めは関心をもち技術導入を約束していても、実際には導入しない人たちがいた。また事業では、技術の導入・普及のサポート以外、経済・物的支援は行っていないが、そうした支援がないならこれ以上継続しないと意思表示する人たちもいた。

 活動の導入部分において、ブルキナファソでは、住民が近隣にある技術のいくつかをリストし選択することを基本としたのに対し、ニジェールでは、外部者が、現地の状況を把握した上で開発・実証した技術を紹介し、技術の採用の可否を個々の住民が決めるという方法をとった(ブルキナファソでは、近隣とはいえ他地域の技術が対象地に適正でなかった面が確認されており、視察旅行で見ることができる状態の技術にも限りがあった)。しかしどちらの事業でも活動を進めるにつれ浮かび上がったのが、活動への直接の参加者(初期の技術導入者)と非参加者(対象村の他の住民)の間に排他性が見られたことである。例えば、ブルキナファソで技術導入に関わったグループで、活動に関心がありグループへの参加を望んだ他の住民の参加を認めない人がいるグループがあったり、ニジェールでも、技術を導入した村の中には、他の住民や他の村に見せたくないという導入者がいる村も一部あったりして普及が期待した形では進まなかった部分もある。技術の導入・普及に際し、住民主体という言葉に甘えて住民任せにするのではなく、住民間の排他性や技術・知識の囲い込みが起こることを意識しつつ普及法を工夫する必要があると考える。


(この記事は、2012年6月に行われた国際開発学会イベントでの報告内容を元に、2012年7月にグローバルネットに掲載された記事に加筆・修正したものです。そのため、内容は2012年6月時点でのものになっております。)


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