誰もが映像作品を作れる時代が、すでに到来。
その道具はもちろん、生成AIです。
映像生成系AIを代表するモデルといえば、ChatGPTのOpenAIが展開する「Sora」。先日、国内外のクリエイターがSoraを使って作った多彩な短編映像作品を上映するイベント「Sora Select」が東京で開催されました。
最近はONE OK ROCK、XGらが生成AIと実写を組み合わせたMVを発表していて、さらに注目度が高まっているAI映像ですが、この「Sora Select」で上映された作品はすべてAIが生成した映像を素材としています。
いやー、すごい。まだまだ荒削りな部分はありますが、だからこそのエネルギーや発想の飛躍がエキサイティングな作品ばかりでした。イベント前には、「Sora」のプロダクトチーム、そしてSoraで作品を作った3名のクリエイターにインタビューできたので、彼らの発言を交えてレポートします。
──「Sora Select」で上映する作品は、公募されたものではないですよね。どのように作られた作品ですか?
Souki:Soraの正式ローンチ前には「アーティストプログラム」として、世界45カ国以上・450名を超える幅広い分野のアーティストと共に約1年間のテストを行なってきました。
日本から参加してくれた方々も多く、合計で300万ドルの制作支援金を提供し、実際にSoraで自由に作品を作ってもらったんです。今回は、その成果を披露するかたちで「Sora Select」を開催しています。
今回でSora Selectは3回目です。ニューヨーク、ロサンゼルスと続いて、東京で開催することになりましたが、ちょうど桜の季節で私たちにとってはラッキーでした(笑)。
──それらの作品の中から、上映作品はどのような基準でセレクトされるのでしょうか?
Souki:東京、パリ、そしてアメリカに拠点を置く4人のキュレーターが作品を選んでいます。
選ぶうえで重視するのは「Soraを使った映像ならではの驚きや意外性」があるかどうか、多様な見方ができるストーリーテリング、観る人の心を動かす要素を持っているかどうかです。これらの中でも、従来の制作手法では実現が難しいような映像や演出を見せたい、というのが一番大きいですね。
Rohan Sahai, Sora Product and Engineering Lead──アーティストの「Sora」利用を見て気づいたことはありますか?
Rohan:現状ではアイディア出しやブレインストーミングの段階で使われるケースが多いと感じています。もちろん明確な完成系のビジョンを持って使う方も多いのですが、まだディテールまで思った通りの映像が出てくるような精度はないので、予想外な出力を見て「これ、おもしろいじゃん」と途中で方向転換する方も多く見られますね。
シンガポールを拠点とするアーティスト・Niceauntiesは、自らの叔母さんやアジアの「おばさん文化」をレペゼンする「Auntieverse」をコンセプトに作品を作り続けています。
Niceauntiesは大量の静止画や映像をAIで生成し、装飾やインスタレーションに展開するなど、多岐にわたるスタイルが特徴ですが、Soraを使った今回の作品ではテキスト入力のみで生成しているそう。
Niceaunties:Soraはテキストから直接映像を作る“text to video”がパワフルで、1970〜80年代シンガポールの生活感や台所の様子がテキストだけで再現されたのには驚きました。他にもストーリーボード形式で場面ごとにシナリオを組めるのがとても便利でした。
Image: Reza Sixo Safai / Sora
そして、俳優・映画制作者のReza Sixo Safaiが作ったのは、イラン革命期に祖国を離れ、アメリカに移住した自身の家族の歴史を描いたアニメーション作品「Pixelescape」。
Reza Sixo Safai:とても辛かった思い出ですが、それを当時好きだったテレビ番組やゲームの8ビットスタイルを取り入れて描いたんです。もしSoraがなければ、アニメーションの知識も技術もない自分には到底できなかったはずです。
実写映像には関わってきたものの、アニメーション制作の経験はほぼなかったというRezaさん。Soraを活用することで、8ビットゲーム風のビジュアル表現が懐かしくもエキセントリックなアニメーション作品を作れたというんですから、本当に驚きです。
Reza Sixo Safai:Soraは、他のAIモデルと比べて“言葉の使い方”が独特で、細かい部分まで書き込むほど高い自由度で応えてくれます。今回の作品はアニメでしたが、実写的な作品を作りたいのならレンズやカメラワーク、ライティングなど映画制作の知識を生かしてプロンプトに書くと、イメージに近い映像が得られるんですよ。
Image: Ethereal Moon / Sora2人のクリエイターによるユニットEthereal Moonは、もともと動画編集やゲーム業界での経験を活かして、数年前からAIアートに挑戦。Soraを使った映像作品では「リミナルスペース(どこかに存在しそうで存在しない空虚で不気味な空間)」をテーマにした音楽ビデオを制作しています。
Ethereal Moon:もともと映画を撮りたかったのですが、機材や資金、ネットワークなどハードルが非常に高く、さらにフランスの映像業界は女性にとっては厳しい世界でした。けれどもAIなら、自分ひとりでも撮影のリソースをかけずに“ありえない空間”を映像化できるんです。これまで映像制作で得た知識や編集スキルも生かせるので、これまでにないクリエイティブを実現できると感じています。
Ethereal Moon氏にとって、Soraは“新しい表現者の声を拾い上げるツール”でもあるといいます。伝統的な映画業界でチャンスを得にくかったクリエイターが、AIによって映画的な映像作品を生み出せることは大きな意味を持つ、と熱く語っていました。
今回の「Sora Select」上映作品やOpenAIスタッフ、そしてクリエイターの方々と話して感じたのは、生成AIを使って映像作品を作ることの奥深さでした。
「AIが仕事を奪う」と言うことは簡単ですが、実際にSoraを使った映像生成においては、カメラのレンズやボディといったハード面の知識から、被写界深度、シャタースピード、照明などの基礎知識や経験値が大いに活用されているんですよ。
もちろんそれらの知見がなくとも映像を生成することができるのも、また魅力。
一つ確かなのは、巨大なセットや膨大な予算がなくても映像制作を楽しめる時代がやってきたということです。
クリエイターの想像力に応えてくれるAIツール「Sora」は、今後も映像表現の地平をどこまで広げていくのか。既存の常識やプロセスを超える、新しい映像制作のかたちが、ここから続々と生まれていきそうです。
Source: Sora