悪役がヒーローに変わる日は近い?
アメリカ国内に何十年も蓄積されてきた「石炭灰」が、実はとんでもないお宝かもしれません。
テキサス大学オースティン校が主導した最新の研究によると、既存の石炭灰には、新たな採掘をしなくてもアメリカ国内の供給を大幅に増やせるほどのレアアースが含まれていることがわかりました。
研究チームによると、国内の石炭灰には最大1,100万トンものレアアースが眠っている可能性があり、これは現在確認されている国内埋蔵量の約8倍に相当するそうです。
しかも、その価値は約84億ドル(約1兆2800億円)にのぼると試算されています。これまで有毒な廃棄物として悪役扱いされてきた石炭灰ですが、もしかすると未来のエネルギー業界を支えるヒーローになるかもしれません。
今回の研究成果は、International Journal of Coal Science & Technologyにオープンアクセスで掲載されており、アメリカエネルギー省も、この手法を利用して国内の石炭灰資源の評価を進めているそうです。
レアアースは、太陽光パネルやバッテリー、磁石などの低炭素エネルギー技術に欠かせない17種類の元素の総称です。特にEV(電気自動車)や太陽光パネル、風力発電などで重要な役割を果たしており、エネルギー転換の時代に絶対必要な存在。
ところが、アメリカのレアアース供給はほぼ完全に輸入に頼っていて、その約75%は関税合戦を繰り広げている中国からのもの。地政学的なリスクや供給の不安定さを考えると、国内での調達手段を確保することが喫緊の課題になっているんです。
研究によると、1985年から2021年までに発生した石炭灰の約70%(18億7300万トン)が埋立地や貯水池に蓄積されており、潜在的に回収が可能なのだとか。
ただ、石炭の採掘地によって含まれるレアアースの量や抽出の容易さが異なるのだそう。たとえば、アパラチア盆地では平均で1kgあたり431mgのレアアースを含むものの、実際に回収できるのは約30%ほど。一方、パウダーリバー盆地の石炭灰は含有量が1kgあたり平均264mgと少なめですが、抽出率は約70%とかなり高めになっているとのこと。
この研究を共同主導したテキサス大学オースティン校のBridget Scanlon教授は、石炭灰が単なる廃棄物ではなく、新たな資源となる可能性を強調します。
「これはまさに『ゴミから宝へ』というスローガンを体現しています。私たちは基本的に資源循環を完結させ、廃棄物から資源を回収しながら、環境への影響も低減しようとしています」
一方、鉱物や金属の廃棄物から重要鉱物を抽出する企業Element USAの最高戦略責任者であるChris Young氏は、この研究が示した可能性を認めつつ、石炭灰やその他の採掘による副産物からレアアースを抽出するための労働力確保と作業工程の開発に課題があるとしています。
ヤング氏はこう話します。
「尾鉱(採掘後に残る低品位の鉱産物)からレアアース元素を取り出すというアイデアは、非常に理にかなっています。問題は、それを経済的に成り立たせることです」
Element USAは現在、実用化に向けて分析実験室とパイロット(実験)設備をテキサス州オースティンに移転する準備を進めているといいます。鉱物専門家の知識を活用するとともに、鉱物資源研究や関連分野を学ぶ学生に実務経験を提供する狙いがあるとのこと。
これまで環境汚染問題の象徴のように扱われてきた石炭灰(実際に環境汚染と健康問題を引き起こしています)が、未来のエネルギー供給を支える資源になるかもしれないというどんでん返し。
この研究が実用化されれば、アメリカにおけるレアアース供給の安定化だけでなく、廃棄物の削減や資源循環の促進にもつながる可能性があります。
技術開発や経済的な課題など、クリアしなきゃいけないハードルはまだありそうですが、「ゴミからお宝」のセカンドチャンス&アメリカンドリーム、ぜひかなえてほしいものです。
Source: University of Texas at Austin
Reference: Reedy et al. 2024 / International Journal of Coal Science & Technology
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