目指すは瀬戸内寂聴!? みうらじゅん×酒井順子が語り合う“老いるショック”と“エロ”と“出家”

  • 2025年5月23日
  • CREA WEB

酒井順子さん、みうらじゅんさん。

 ともに「老い」がテーマの新刊『アウト老のすすめ』『老いを読む 老いを書く』が話題の、みうらじゅんさんと酒井順子さん。「なぜ女性は歳を取ると下ネタが話せなくなるのか?」「『若づくり』じゃなくて『老けづくり』がしたい」など、「老いるショック」トークに花が咲きます。そしていつしか話題の中心は、お二人の記憶に強く刻まれているあの方に――。


寂聴さんが描いてくれた似顔絵


酒井順子さん。

酒井順子 私、ずっとこの髪型してるんですよ。結んでメガネ、みたいな。

みうらじゅん 知ってます。酒井さんは、ずっとオリーブ少女だもん。

酒井 あはは。でも飽き飽きしてるんですけど。この髪型に。

みうら わかります。僕も飽き飽きしてます(笑)。

酒井 飽きることにも飽きちゃって、結果として同じ髪型してるんですけど。でも、こうしていることが私にとっては剃髪なんだなって思うんですね。ほぼ髪を剃ってるのと同じっていうか。仕事していても一筋の乱れもなく、何をしていても髪が顔にかかることがないので、気が散らない。そういう意味で「これは私にとっての剃髪なんだ」って思うようにしているんです。

みうら (瀬戸内寂静さんの声マネで)そう思うわよ、私も。あなたにとっての剃髪よ。

酒井 寂聴先生と話せていると思うと嬉しいです。またカレンダー出してください(笑)。

みうら 一度だけ番組の収録で寂静さんに会ったことがあって、そのとき楽屋が一緒だったんですよ。僕、そのとき、髪の毛を真っ赤に染めてたんですが、離れた席におられた寂聴さんが大きめの封筒の裏になにかお描きになっていて。そのあと、つかつかつかと近づいて来られて、「これ、あなたにあげる」って。封筒の裏に赤いボールペンで、僕の髪の毛だけが描いてあったんです。


瀬戸内寂聴さんが描いたみうらさん。

みうら 「あなたの似顔絵だから」とおっしゃっていたんですが、顔は描いていなくて。「髪型はその人を表している」っていうことをおっしゃっていたような気がしますけどね。

酒井 多分、寂聴先生はみうらさんのことをずっと気にされてたんだと思います。仏教界のライバルって思われていたかもしれないですよね。

寂聴さんからいただいたお手紙


酒井順子さん、みうらじゅんさん。

みうら 3月3日に京都の三十三間堂で、いとうせいこうさんと33年後の約束ということで会ったんですけど、その日たくさんの人が集まってくださったんです。三十三間堂の方が「こんなに人が来たのは寂静さんの法話以来ですよ」っておっしゃっていたから、「僕らは寂聴さんの生まれ変わりなんだ」ってちょっと思いました。

酒井 そうかもしれないですね(笑)。私も寂聴先生からお手紙をいただいたことがあるんですよ。先生の文庫に解説を書いたら、お礼のお手紙を手書きでくださったんです。今どき文庫の解説のお礼にお手紙くださる方ってあまりいらっしゃらないですよね。

みうら 僕も酒井さんとの対談を文庫に収録させてもらったのに、手紙書いてない……すみませんでした!


酒井順子さん、みうらじゅんさん。

酒井 それを言いたかったんじゃないです(笑)。でも、寂聴先生からいただいた封書のお手紙は、ちゃんと直筆で、本当に励ましてくださるありがたいことが書いてあって。自分も歳を取ったらこうなりたいと思いました。

みうら 僕も未だに手書きなんですよ。手書きのほうが、ありがたみがありますよね。

酒井 でも私、この前、若い編集者の方にお礼の手紙を封書で出したんです。そうしたらその方から「ポストに手書きの封書が入っていて怖かったです」ってメールが来て。若い人は手書きの手紙が届くと「怒られるのかな?」と思うって言われて、シューンってなっちゃったんですけど。

みうら 僕らの時代は、怒ったり相手を怖がらせたりするときは活字を切り貼りしたもんだけどね。フォントが違う活字を合わせるのが粋でしたけどね(笑)。

出家したら黒歴史がチャラになる!?


酒井順子さん、みうらじゅんさん。

酒井 寂聴さんとは対談などをさせていただいたこともあって、寂庵にもお邪魔したんですけれども、可愛らしくも芯の通った素敵な方でした。

みうら やっぱり寂聴さんみたいな生き方をして、ああいうふうに老いるのが憧れなんですか?

酒井 「出家すると、俗世の苦しみから逃れられるところはあるから、そういう意味で楽さはある」というふうにおっしゃっていたのは、すごく印象的でした。平安時代の女性達も、ややこしいことがあると出家していますが、現世に生きながら別の世界に行くというのはどんな感覚なのか、興味はあります。

みうら 出家したらかつての黒歴史ってチャラになるんですか? なるんだったら、俺も出家したいなと思うんですが。

酒井 法律に触れるものはチャラにはならないかもしれないけど、そうではない部分で楽になるんですかね。寂聴さんにお会いしたとき、まだ私はすっごい若くて……30代だったのかな。つい、めちゃくちゃシンプルに「寂聴先生はなんで出家されたんですか?」って聞いちゃったんですよ。

みうら そう思いますよね。

酒井 はい。そうしたら、「いろんな男を一度にたくさん皿回しするみたいに回し続けるのに疲れたからなのよ」って。かっこいい、って思ったんですけど。

みうら 寂聴さんが出家したのは、僧侶で作家の金東光さんのところでしょ。あの方も型破りな人だったからね。あの寺に何かキーワードがあるんじゃないかな、と。

酒井 そういう系譜が、今ここにひとつにつながろうとしてるわけですよね。

「将来やりたいこと」の欄に「出家」と書いてた


酒井順子さん、みうらじゅんさん。

酒井 みうらさんも、将来的には出家をイメージされていたりするんですか?

みうら 僕は小学校の文集の「将来やりたいこと」って欄に「出家」と書いてたクチなので(笑)。でも一応、仏教中学に進学して、仏教高校まで行ってるんで、その後、仏教系の大学に進学して、そのまま出家っていうサクセス・ストーリーもあったんです。でも、出家するにもそれなりの試験があるんですよ。家がお寺で継ぐ場合……僕は「次世住」って呼んでるんですけど、次世代住職はその試験をスルーしてる場合が多いみたいで。僕のような一般人は仏教を勉強して、お寺の床を拭き掃除したりとかして修行しなくちゃいけない。かなりキツいと思うんですよ。

酒井 拭き掃除は大変ですよね。腰、痛めるでしょう、必ず。

みうら 何年か前に、仏教系の大学のトークショーに呼ばれたことがあって、そこの学長にちょろちょろっと裏で手を回してもらって皆伝させてもらおうかなと思ってお願いしてみたら、「いや、それはあかんわ。うちは通信教育もあるから」って言われて。渡された通信教育のパンフレットを帰りの新幹線で読んでみたんですけど、うわ、これ結構ハードだなと思って。もう覚えられないですから。


みうらじゅんさん。

酒井 記憶力が……。

みうら 今、1個情報を入れると、3個ぐらい出るでしょ。

酒井 出ます。大切な思い出が出ますね。

みうら 容量パンパンになってるから、もうダメだなと思って。その大学で、「タバコ吸っていいですか?」と聞いたら「ダメです。もう吸える場所はないです」と言われたんですが、何年か前にある高名な落語家さんを講演で呼ばれたとき、その方が「禁煙」って張り紙の前でタバコに火をつけられたらしくて。でもその方は人間国宝だから誰も何も言えなかったんですって。その話を聞いて、「出家するより人間国宝になったほうがいいな」と思ったんです(笑)。

酒井 高齢者向けに、ちょっと短縮した僧侶への出家への道があってもいいですよね。だって絶対あちらの世界も人材不足じゃないですか。うちのお墓があるお寺も、後継者不足みたいなことを言ってましたし。

みうら 法話の会場のキャパを埋められる人は、僧侶の道に行けると思う。法話力と人を集める力さえあれば。

酒井 みうらさんじゃないですか。

みうら だからちょこちょこ寺で講演会とかやっているんです。いつか「この寺、任していいかな?」って言われると思うんですよ。それをずっと待っているんですけど、誰も言わないんですよね(笑)

本イベントはコラボ企画です。トークの続きは、講談社現代新書のサイトで公開中です!

老いのお悩み解決に「アウト老」と「老い本」が結集…みうらじゅん&酒井順子が“老いるショック”を吹き飛ばす!
https://gendai.media/articles/-/152266

老化による「ド忘れ」にどう対処するか? みうらじゅん&酒井順子が語り合う“老いるショック”攻略法
https://gendai.media/articles/-/152275

みうらじゅん

1958年京都市生まれ。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。以来、 イラストレーター、エッセイスト、ミュージシャンなどとして幅広く活躍。1997年、 造語 「マイブーム」 が新語 ・流行語大賞受賞語に。 「ゆるキャラ」の命名者でもある。2005年、日本映画批評家大賞功労賞受賞。2018年、仏教伝道文化賞沼田奨励賞受賞。著書に『アイデン&ティティ』 、 『マイ仏教』 、 『見仏記』シリーズ(いとうせいこうとの共著) 、 『 「ない仕事」の作り方』 (2021年本屋大賞発掘部門「超発掘本!」に選出)など。音楽、映像作品も多数ある。


酒井順子(さかい・じゅんこ)

1966年、東京都生まれ。高校在学中から雑誌でコラムを連載する。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆に専念。2003年に発表した『負け犬の遠吠え』がベストセラーとなり、婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。『ユーミンの罪』『子の無い人生』『百年の女』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』『消費される階級』などの著書の他、『枕草子』(上・下)の現代語訳も手掛けている。

文=ライフスタイル出版部
撮影=佐藤 亘

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