「“若づくり”じゃなくて“老けづくり”」みうらじゅん&酒井順子が語る“老いるショック”との向き合い方

  • 2025年5月23日
  • CREA WEB

酒井順子さん、 みうらじゅんさん。

 続々重版で話題の新刊『アウト老のすすめ』を刊行したみうらじゅんさんが、ブームの「老い本」を考察した新書『老いを読む 老いを書く』の著者・酒井順子さんと阿佐ヶ谷ロフトAにてトークイベント『昭和100年の昭和の日に「老いるショック」を語ろう』を開催。笑いに包まれ、盛り上がったイベントの一部を紹介します!


なぜ女性は歳を取ると下ネタが話せなくなるのか?

酒井順子 前回お会いしたのは、みうらさんの『されど人生エロエロ』の文庫に、解説代わりに収録されている対談でしたよね(初出「オール讀物」2014年10月号)。

みうらじゅん はい、その節はありがとうございました。主に下(シモ)関係の話をしていただきました。


2014年の酒井順子さん、みうらじゅんさん。

酒井 4、5年前かと思っていたら、もう10年も前なんですね。これもちょっと「老いるショック」なんですけど(笑)。あれから10年経った今、みうらさんに相談したい悩みがあるんです。

みうら なんでしょう?

酒井 私は来年、60歳になるのですが、そういう年頃になると、もうあまり無闇に下関係の話をしたり書いたりするのは痛々しいというか、凄まじいんじゃないかな、と思うようになってきて。でも、みうらさんをはじめとして、男性は何歳になっても、下の話がカラッとできるところがある。もちろんセクハラにならないような技術は必要ですが。なんで女性はちょっと歳を取ると下の話ができなくなるんですかね。私はし続けたいんですけど。


酒井順子『老いを読む 老いを書く』。

みうら 全然やってください。途中で下ネタをやめちゃうと、おじいさん、おばあさんになったときに下の世話してもらえなくなると思うんですよ。

酒井 あ、下は全部つながっているんですね。排泄関係の「下」と性愛関係の「下」って違うステージなのかと。

工場長から「もう在庫切れ」と通達が来た


酒井順子さん、みうらじゅんさん。

みうら 男の場合は、同じ管(くだ)から出てきますんで、一緒なのかもしれないですね。

酒井 女性はちょっと違いますもんね。

みうら はい、僕も同じ管でずっとやってきたんですけど、何年か前に管の根本にある工場の工場長から「もう在庫切れ」みたいなことを言われて。

酒井 そんな通達が来るんですね(笑)。

みうら 工場長に「みうらさん、たまに出されるみたいだけど、もう在庫ギリギリでやってるんで、もうあんまりしないでください」って言われたんですよ。

酒井 でも、したほうがいいという説もありますよね。すればするほど、製造側が張り切るみたいな。

みうら いや製造側の工場も劣化が激しくて、もうボロボロなんですよ。工場長も「できることなら引退したい」と。僕と同い歳なんでね。


号令を出す工場長(絵・みうらじゅん)。

酒井 継ぎ手が見つからないんですね。次世代継承っていうのが、今どの業界もすごく問題になっていますけど。

みうら ですよね。工場長は江戸っ子っぽいところがあって、「若い工員さんに引き継がれたらどうですか?」と相談しても「いや、一代限りで終わりたい」って。

酒井 じゃあ本当にギリギリのところで、工場長さんが好意で作ってくれているみたいな?

みうら そうですね。何年か前まで、工場長はいつも臨戦態勢にいて、業界用語では「筒が上がる」って言うんですけど、筒が上がったら工場長の号令と共に発射してたんです。でも、ここ数年は工場長が自分の部屋でじっといるようで、あんまり現場に出てこない。

酒井 「筒が上がる」って言うんですね(笑)。

友達のエロ話をさも自分の話のように書く


みうらじゅん『アウト老のすすめ』。

みうら 工場長もそんな感じだから、最近は僕自身のリアリティのあるエロ話は全然ないもんで、昔のエロ話を必死に掘り起こして「週刊文春」に「人生エロエロ」を書いているんです。

酒井 それでも毎週書いてらっしゃるのが、本当にすごいことです。

みうら 十何年も連載やっているんで、当然もう自らのネタなんてないです。だからあえて「エロの汚名を着る」気持ちで、友達のエロ話をさも自分の話のように書いてるってことですね。この手法、今までやる奴いなかったんです。

酒井 ということは、もう小説ですね。

みうら そうですね。コントと言ってもいいと思います。だから自分のことをエッセイストじゃなくて「コントスト」って呼んでるんですけど。


酒井順子さん、みうらじゅんさん。

酒井 たまに一人称で書かれることもあって、ちょっと宇能鴻一郎先生みたいなテイストのときもあったりしますが、いろんな方のお話を盛り込んで書かれているんですね。

みうら 僕は友達のエロ話を名人芸だと思ってるんで、誰かが残していかなきゃっていう気持ちはあります。でも、女の人のエロ話もあるわけじゃないですか。それは誰かが残さないと失われてしまうんじゃないですかね。

酒井 そうなんですよ。50代、60代になってきて、さらに歳を取っていっても、多分その歳なりのエロ話っていうのは細々ながらあるような気がするんです。でも、いろんな小説や随筆を見ていても、男の作家の高齢エロ話はまあまあ残っていますが、女の作家の高齢エロ話って、ほぼ書かれていないんですよね。

みうら そうですよね、確かに。

考えてもしょうがない話にはしょうもない話をぶつける


酒井順子さん、みうらじゅんさん。

酒井 寂聴先生の思い出話とかはありましたけど、他はないっていうのは、皆さんあえて書かないのか、どうなのか……。自分も下ネタ好きなはずなのに最近は自制してあまり書かなくなってきて、そのことも自分としては「老いるショック」なんですよね。

みうら そうですよね。「週刊文春」では毎回頭に「人生の3分の2はいやらしいことなんて考えてきた」と書き続けていますけど、はっきり言ってもうそんなに考えられないですよ。もちろん若い頃は考えてたと思いますよ。でも、高齢者になった今も考えなきゃっていう“I hope”があって。

酒井 今も?

みうら はい。I hope 、I wishですよね。歳取っていくと、考えてもしょうがないことが出てくるじゃないですか。老いの悩みなんて、それの最たるものだと思いますけど。そういう考えてもしょうがない話には、しょうもない話をぶつけるのが一番だと、あるとき思ったんですよ。

酒井 いや、本当に「週刊文春」で「人生エロエロ」のページを開くたびに、希望が持てるというか。高齢者のエロ話ってなんか深刻になりがちですけど、みうらさんのお話は笑えるので。

みうら そうですか。ありがとうございます。

酒井 笑ってもいいんだ、と希望が持てます。

高齢者になってる意識が薄い「アウト老」


酒井順子さん、みうらじゅんさん。

みうら 僕ね、もう67歳なんですが、高齢者になってる意識が薄いんですよ。まだ「おじさん」だった時代も、自分がおじさんだとピンときてなかったもんで、「そこのおじさん、財布落ちましたよ」って言われても振り向くことができなかったと思うんです。

酒井 お財布拾えなかったんですね。

みうら で、還暦迎えたときに、高齢者の自覚を持って生きなきゃと、赤いちゃんちゃんこを張り切って着ていこうと決意したんです。赤い帽子もちょっと斜めにしてチェ・ゲバラみたいな被り方して、それで1年間やっていこうと思ってたら、あれって、還暦の誕生日1日だけのウェアらしいじゃないですか。

酒井 1年間毎日着るものではなかった(笑)。

みうら 毎日着てれば多分還暦過ぎた高齢者だぞって自覚が持てたんだけど、1日じゃ持てないんですよ。これじゃいかんなと思っていたんですが、コロナ禍になって人に会わなくなったもんで、ヒゲを剃らずにいたら、ヒゲに白髪が混ざってることに気がついたんです。髪の毛には白髪が生えていないのに。

酒井 髪の毛は真っ黒ですけど、染めていなんですか?

みうら 染めてないんですよ。「若づくり」じゃなくて「老けづくり」がしたいのに参ったな……と思っていたら、鼻毛、ヒゲ、下毛っていう感じで白髪が出てきて。

酒井 体の中央構造線だけに白髪が。

みうら そう、白髪の中央フリーウェイが貫通した(笑)。こうやって白髪の混じったヒゲを生やして、老けづくりを始めて、自分に「ジジイだぞ、ジジイだぞ」って言い聞かしてるんですよね。

若づくりをしたって、もう諸行無常はしょうがない


酒井順子さん、みうらじゅんさん。

酒井 それまではヒゲはなかったんでしたっけ?

みうら 何回か生やしたことがあったんですよ。インドに仏像を見に行ったときも、インドに行ってヒゲボーボーになって帰ってきたビートルズにならなきゃと、ヒゲを剃らずにいたんですけど、そんなに伸びなかったんす。でも、歳取ったら体質が変わってきて伸びるようになってきて。これ、進化なんですよ。どう考えても老化より進化なんですよね。前よりヒゲが生えるようになってるわけですから。

酒井 髪は真っ黒なのにヒゲだけ白いって不思議……。ヒゲは男性ホルモンで、髪は女性ホルモンですよね。


酒井順子さん、みうらじゅんさん。

みうら たしかに。面白いですね。でも、白いヒゲを生やしてると、年齢をあまり聞かれないと思うんです。山のてっぺんに住んでる仙人に「おいくつですか?」ってわざわざ聞かないじゃないですか。最近は僕も歳を聞かれなくなったし、聞かれて正直な年齢を伝えたら「えっ、意外と若いじゃないですか」って言われるんじゃないですかね。

酒井 多分ヒゲがないと、めちゃくちゃ若く見えますもんね。

みうら きっと若く見えて、自分もその若さに騙されていたと思うんです。でも、さっきの工場の話じゃないけれど、もう内部がかなりボロなのは自覚してますから。

酒井 そういう意味での老けづくりだったのか。

みうら 若づくりをしたって、もう諸行無常はしょうがないわけですから。しょうがないことに抗ってもしょうがないと思って。

みうらじゅん

1958年京都市生まれ。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。以来、 イラストレーター、エッセイスト、ミュージシャンなどとして幅広く活躍。1997年、 造語 「マイブーム」 が新語 ・流行語大賞受賞語に。 「ゆるキャラ」の命名者でもある。2005年、日本映画批評家大賞功労賞受賞。2018年、仏教伝道文化賞沼田奨励賞受賞。著書に『アイデン&ティティ』 、 『マイ仏教』 、 『見仏記』シリーズ(いとうせいこうとの共著) 、 『 「ない仕事」の作り方』 (2021年本屋大賞発掘部門「超発掘本!」に選出)など。音楽、映像作品も多数ある。


酒井順子(さかい・じゅんこ)

1966年、東京都生まれ。高校在学中から雑誌でコラムを連載する。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆に専念。2003年に発表した『負け犬の遠吠え』がベストセラーとなり、婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。『ユーミンの罪』『子の無い人生』『百年の女』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』『消費される階級』などの著書の他、『枕草子』(上・下)の現代語訳も手掛けている。

文=ライフスタイル出版部
撮影=佐藤 亘

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