【怪談】合宿先で心を惑わす正体不明の怪異…小学生が夜な夜な話しかけていた“窓の向こうに佇む”人影の恐怖

  • 2025年5月6日
  • CREA WEB

画像はイメージです。提供:アフロ

 怪談チャンネル「禍話(まがばなし)」は、生配信サービス「TwitCasting」で2016年から放送が続いている人気ホラーコンテンツ。北九州で書店員をしている語り手のかぁなっきさんと、聞き手であり映画ライターの加藤よしきさんが語る恐怖譚は、思わず身震いしてしまうものばかり。

 今回はそんな禍話から、小学生男子が部活の合宿先で目撃することになる“ある人影”にまつわる戦慄のお話をご紹介します。


窓の外の“誰か”と話す級友


画像はイメージです。提供:アフロ

「寝ぼけていたんじゃないの?」

 そう返すもNくんたちの表情はこわばったまま。そして、彼らは徐々に昨夜の詳細を語り始めました。

 あの夜、Mさんが眠りについたあと、トランプ遊びにも飽きた一同は電気を消してもぞもぞと布団に潜ったそうです。次第に寝息が立ち始め、そこから1時間くらい経った頃。NくんはおもむろにYくんが布団から出ていく気配で目を覚ましました。

「あいつ、窓のカーテンを開けてさ、その向こうにいる誰かと話し始めたんだよ」

「……ん、どういうこと? 2階だろ?」

「年上のお姉さんに話している感じでさ。デレデレしていたというか、なんかムカつく感じで——」

 そこまで聞いたところで昼食の席に着く人の流れが増え始め、会話は途切れてしまったそうです。

 モヤモヤした気持ちのまま始まった午後の練習。

 Mさんは練習の合間にトイレに行こうと体育館から出た際に、改めて宿泊している建物を見てみました。

 嫌にピカピカな自分たち部屋の窓には、ベランダはおろか手すりすら付いておらず、加えて、その階下の草むらに山で採ってきたようなくすんだ色の花が、安っぽい色紙で丸められた花束になって置いてあったそうです。

 その日の夕食はあまり喉を通りませんでした。

 ダラダラと食べてしまったせいで、部屋に戻ると自分が布団を敷けるスペースは例の窓際だけになっており、当然、Yくんも自分の隣。昨日、自分だけ先に寝たことへの当てつけかよ……と、内心Nくんたちに腹が立ちましたが、Yくんの前で文句を言うこともできなかったと言います。

 そして、その日の夜がやってきました。

「あのぉ……こんばんはぁ」


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 寝息すら聞こえてこない月明かりだけの部屋。きっと、皆一様にYくんの様子を伺っていたのでしょう。

 静寂を破ったのは、Yくんの声でした。

「あのぉ……こんばんはぁ」

 そっと目を開け、目線をかすかに右に向けるとYくんの足首がありました。

「いや、多分、皆寝ています。はい、今日も練習でした。なんか昨日から調子良くって。いやぁ〜そうですかねぇ〜……へへ」

 Yくんは本当に窓の向こうにいる女性と思しき存在に話しかけていました。

「ああ、はい、Mとも結構話しました。そうなんですよぉ、結構ノリのいい感じで。こいつとはあんまり喋ったことなかったんですけど」

 ふいに向けられた視線、いえ、正確にはその視線にYくん以外の視線も感じたことが恐ろしくて、Mさんはサッと目を閉じました。

「……僕もう寝ないと。先生が見回りに来ちゃうんですよ。じゃあ、おやすみなさい」

 モソモソと窓ガラスに近づき、チュッとぎこちないキスの音がした後、Yくんは静かに布団に戻ってきたようでした。

 一体、こいつは何を考えているんだ……。

 とても冗談とは思えない。だからこそ怖い……。だって、これが冗談じゃないのなら、窓の向こうに……——Mさんはそっと目を開けて窓の方を見たのです。

 女が窓の外に立ってこちらを凝視していました。

 そこで、Mさんの記憶は途切れているそうです。

響き渡った「ドンッ」という音の正体


画像はイメージです。提供:アフロ

 翌朝、ごつくてひんやりとした手が額に当てられて目が覚めました。気がつくと自分の周りに先生たちが集まっています。

 Mさんは高熱を出していました。

 昨日のあの女はなんだったのだ……必死に思い返そうとしても、記憶にモザイクがかかったようにぼやけて思い出せません。

 結局、その日は部屋で休むことになり、体育館から響く練習の音を聞きながらうつらうつらと時間を過ごしていると……バンッ! と、突然何かが窓にぶつかるような音が聞こえて飛び上がりました。

 フラフラと立って見下ろすと、あの管理人さんが長いモップで窓を掃除したあとでした。

 そうだ、あの管理人さんならあの女について何か知っているかも……Mさんは熱に浮かされた思考で、管理人さんに会いに一階まで降りていったそうです。

 手すりに手をつきながらロビーに降りると、モップとバケツを抱えて窓掃除を終えた管理人さんが玄関から中に戻ってくるところでした。

「あれ、君は風邪の子かい? どうしたの〜?」

「あ、あの、部屋だと寝られなくて……ここで寝られないですか?」

「え、ロビーではダメだよ〜、ええと、じゃあここの管理人室で寝ていなさい。私から先生たちにはうまく言っておくから」

 恥ずかしくなりとっさに女についての質問をごまかしてしまったMさん。気がつけば管理人室でその日の夜を過ごすことになってしまったそうです。

 なぜ自分はこんなところで寝ているのだろう……あの女やYくんの言動は現実だったのか? 全てがぐるぐると夢のように思えていたとき——。

 ドンッ。

 と、外から鈍い音が響いて目が覚めました。時間は夜中。管理人さんは慌てて外に飛び出し、周囲からは駆け寄ってくる先生や生徒たちの悲鳴がこだましました。

 Yくんが2階から落ちたのです。

 いえ、正確には同室だったNくんたちに窓から突き落とされたのでした。

 その後はYくんを近くの病院に連れて行ったり、Nくんたちを先に車で帰らせたりと大騒ぎでした。先生に頼んでも会わせてもらえませんでしたが、クラスメイトが聞いたところによるとNくんたちは「お姉さんを独り占めしたから落とした」と言っていたそうです。

管理人さんの笑顔


画像はイメージです。提供:アフロ

 時は経ち、Mさんは大学生になりました。周りから「お前には勿体無い」と言われるくらい可愛い彼女もできて、2人でドライブデートに行くことが彼の大きな喜びでした。

 そんな風にドライブデートに出かけていたとある日、かつて行ったあの合宿先の近くを通りがかることがあり、おぼろげな記憶を彼女に話してキャッキャと怖がっているうちに、ちょっと寄ってみようということになったのです。

 あの少年自然の家は今もそこにありました。あのときは大きく感じた建物も、今見るとこぢんまりとしており、あの窓も記憶ほど高くはありませんでした。

「何かご用ですか〜?」

 聞き覚えのある語尾に振り返ると、あの管理人さんがそばに立っていました。白髪混じりですっかりおじいさんになっていましたが、柔和な笑顔はあのときのままです。

 経緯を話しているうちに彼もMさんのことを思い出したそうで、思い出話に花が咲きました。

「彼も無事でよかったよねぇ〜」

「えっと、つかぬことをお聞きするのですが、あの女……いえ、あの窓の下の花束って、やっぱりあそこで誰か亡くなっていたってことですよね」

 管理人さんはじっとMさんの目を見ていたそうです。

「いいえ〜。あの窓から落ちたことくらいで、ほかに怖いことなんて起きてないですよ〜」

 後ろに組んだ彼の手には、安っぽい色紙で丸められた花束が握られていました。

「え、じゃあ、その花束は……?」

「ああ、これ? いやぁ〜年甲斐もなくて恥ずかしいなぁ。でも、女の人って花束が好きでしょ。だから、ずっとあの人に渡しているんですよ〜」

 以来、Mさんはその地方には一度も近づいていないそうです。

文=むくろ幽介

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