【フードエッセイスト平野紗季子さん】分かち合う喜びを大切にしながらも、食べものと向き合うときは「“一蘭のカウンター”を頭の中でつくる特技を駆使」

  • 2025年4月23日
  • CREA WEB

平野紗季子さん。

 独自の感性で食について綴るエッセイスト・フードディレクターのの平野紗季子さん。彼女がごはんやお菓子の楽しみを語るPodcast/ラジオ番組『味な副音声~ voice of food ~』が書籍になりました。全力で愛するものについて語る喜び、「好き」を共有することで見えてくるものについて伺います。


生麩の田楽をお弁当に持っていったら「スライムを食べている!」と笑われた

――平野さんは、小学生の頃から今日食べたものを記録する「食日記」をつけていたそうですが、Podcast番組『味な副音声』のように食について友人らと語り合うことはいつ頃から始められたのですか?

 好きな食べものについてまわりと共有するようになったのは食日記と比べるとずいぶん遅くて、大学生の頃からです。それまではクラスの友達には積極的に話したりはしなかったですね。ちょっと私の好きが過剰なところもあったので、出し過ぎない方が浮かなくていいかなって。隠あとがきにも書きましたが、大好物の生麩の田楽をお弁当に詰めてもらって学校に行ったら「スライム食べてる!」って笑われて、恥ずかしい思いをしたこともあります。

 SNSも、学校の友達と繋がる用のアカウントと、食について発信するためのアカウントは分けていましたし、密かに好きという気持ちを耕している感じでした。ただ、SNSやブログに書き続けたことがきっかけで同じ価値観を持つ方々と繋がれるようになり、そこから自信を持って「食べることが好きなんだ」と話せるようになっていきました。


「食べものへの偏愛についてオープンに話せるようになったのは大学生の頃から」と平野さん。

――平野さんにも、食が好きであることを隠している時期があったのですね。共通の趣味を持つ方々と愛する食について話せるようになり、どのような気持ちが芽生えましたか? 楽しかった?

 楽しかったというよりも「分かち合うことの喜びって確かにあるんだ」という感覚をつかめたのが大きかったかも。ずっと、ごはんは一人で食べるほうがおいしいって考えていたんです。今も、一人で食べることによって目の前のものに夢中になれて自分だけの世界が広がっていくのは、尊くて素晴らしいことだと思ってはいるんですが、分かち合うという行為はそれとはまた別の喜びが開かれていく感じがあります。

「食べる」「分かち合う」は人生の中で大切なことの二大巨頭


平野さんにとって、「食べる」「分かち合う」は人生においてとても大切なこと。

――平野さんは「ごはんを食べる行為が、自分を自分たらしめる」と、よくおっしゃっています。では、好きなものを分かち合う行為は、ご自身にとってどんな存在ですか?

 “ものを食べて何かを感じる”ということは、自分の中では健やかさと直結していてとても大切なんですけど、やっぱりそれだけだと寂しい。誰かと分かち合って関わり合いを生んでいくことも、生きていくことで重要なことですよね。私の中で「食べる」「分かち合う」は、人生において重要なことの二大巨頭になっています。

 自分が対象と向き合って生まれた感動を、他の誰かと共感しあえる喜びって根源的ですよね。


「誰かと一緒に過ごしていても、食べることに対して夢中でいたい」。

――この感動は自分の中だけに留めておきたいけれど、逆にこっちの感動は人と共有したい、といったような線引きはあるんでしょうか?

 私、特技はラーメン店の「一蘭」のようなカウンターを想像で作れることなんです。どんな場所であっても、シャッと横にカウンターが出現して、「今から食べさせていただきますね」という気持ちになれる。マナーとか、周りのことが気になってしまうと、目の前の食事に集中することって難しいじゃないですか。それを一蘭のカウンターを頭の中で作り上げることで、夢中になれる状態にするんです。

 今って、ただでさえ情報過多な時代なので、純粋に自分が何かを感じている実感があること自体めちゃめちゃ尊いことだと考えています。なので、たとえ誰かと一緒に過ごしていたとしても食べることに対して、夢中でいたい。感想を共有するのは食べ終わってからでもいいし、料理と料理の間の雑談時でもいいと考えています。

 食べものの種類や味で「これは私だけのもの」、「こっちは人と共有するもの」と分けているのではなく、時間で分けているという感覚です。今、「(NO) RAISIN SANDWICH」という菓子ブランドの代表をやっているんですが、それもおいしいものを人と共有したいという気持ちの延長線かもしれません。「こんなにおいしいものができたから食べて!」という感情の表れです。


「おいしいものを人と共有したい。こんなにおいしいものができたから食べてみて、という気持ちでお店も展開しています」。

平野紗季子(ひらの・さきこ)

小学生から食日記をつけ続け、大学在学中に日々の食生活を綴ったブログが話題となり文筆活動をスタート。雑誌・文芸誌等で多数連載を持つほか、podcast/ラジオ番組『味な副音声 ~ voice of food ~』(J-WAVE)のパーソナリティや、菓子ブランド「ノーレーズンサンドイッチ」の代表を務めるなど、食を中心とした活動は多岐にわたる。2025年3月に「ノーレーズンサンドイッチ」第1号店を東京駅にオープンさせた。
Instagram @sakikohirano

文=高田真莉絵
写真=平松市聖

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