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「Aマッソは意外な依頼が来てこそ」 求められる “Aマッソらしさ”に とことん向き合う、加納愛子の仕事論

  • 2024年5月25日
  • CREA WEB

 初の中編小説集『かわいないで』(文藝春秋)を上梓したお笑いコンビ・Aマッソの加納愛子さん。小説だけでなく、連続ドラマの脚本やコンビでのレギュラー番組、個人でのバラエティ番組出演と、ここ数年どんどん仕事のジャンルが広がっています。そんな中で加納さんが考えるいまのAマッソのあり方とは?


ベースにあるのはYouTubeの企画会議


加納愛子さん。

――とくにここ数年、Aマッソの、あるいは加納さんの仕事のジャンルが芸人という枠を超えて広がっているように見えます。たとえば今回の小説を書くにあたって、加納さんは自身が芸人であることをどの程度意識していましたか?

加納 職業として別に意識して芸人を背負って、とかはとくに思っていないですけど、芸人であることが関係ないところまで広まるにしても、いちばん最初に触れてくれるのはやっぱり芸人をやっているときのファンの方なので。小説にしても何にしても、そういう方がまず手にとってくれる。その人たちをまったく無視して新しい世界に、とは思っていないかもしれないですね。

――とはいえ、そういうファンの方に向けて書いているということでもないですよね?

加納 小説でもなんでも、誰かに向けて書くということはないですね。

――コンビでのレギュラー番組がスタートしたり、加納さん個人の仕事の幅が広がっていることに対しては、どうとらえていますか?

加納 自分たちのYouTubeで、会議をして企画を作るというのがずっとベースにあるんですよ。その、企画の選択肢に他の媒体も増えたという感じですかね。YouTubeの企画会議をやっていると、「この企画だったらライブのほうがいいな」とか「これは映像に合ってるな」とか、いろいろ出てくるんです。それと、やっていることは同じなのかなと思います。

――仕事の幅が広がることで、その企画にあった媒体が選べるようになってきた、できることが増えてきたという感覚?

加納 はい。できることと、あと、オファーをいただくジャンルも増えてきたという感じです。

単独ライブによって測られるもの


加納愛子さん。

――そのなかで、新たに「こんなことがしたい」という野望はありますか?

加納 大きいことはなんだろうな……。細かいことはありますけどね。長編小説を書いてみたいとか、ゴールデンタイムの脚本をやってみたいとか。小説も脚本も、難しいですけど面白いので。あとは、YouTubeもそうですけど、いまある分母を増やすということですかね。Aマッソを見てくれる人を増やす。単独ライブを見に来てくれる人を増やすとか。

――毎年単独ライブを開催されていて、実際にどんどん動員も増えているかと思いますが、仕事が広がっているなかで単独ライブの立ち位置は変化していますか?

加納 年によって、単独ライブへのモチベーションというか、とらえ方が違うんですよ。だから単独ライブは位置を測る役割というか。

――位置を測る役割。

加納 単独ライブを自分がどう思っているかということが、自分がそのときコンビをどうとらえているかに繋がる。他の仕事とは違って、ネタをどうとらえているかというのが反映されやすい場ではあると思います。

それぞれの考える「Aマッソらしさ」


加納愛子さん。

――Aマッソのお二人は、たとえばレギュラー番組『A LABBO』(テレビ朝日)にしても、大森時生さんと組んで話題を集めた『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』(BSテレ東)やライブ『滑稽』にしても、求められていることに応えるという姿勢の方たちなのではないかと思います。依頼に応えつつ自分たちの独創性を守っているお二人は、仕事をどのように選んでいるのでしょう?

加納 基本はマネージャーさんにハンドリングをお任せしています。聞かれたら答えますし、よほど嫌な仕事は嫌と言いますけど、ほとんど言うことはないですね。マネージャーさんに「やったほうがいい」と言われたものはやっている方だと思いますよ。


加納愛子さん。

――Aマッソに仕事を依頼する人たちは、他と似ていない「Aマッソらしさ」を求めると思いますが、その「らしさ」はどんなものととらえていますか?

加納 お仕事をくださった方の、私たちに対するイメージや「らしさ」のとらえ方は、けっこう人それぞれだと思います。だからこそ、どの部分の「らしさ」を求められているのかはわりと気にしますね。そこはなるべく汲めるようにしたいなという気持ちがあります。自分たちが提示しているものを受け取れという感覚はなくて、やっぱり仕事は依頼してくれた人のものだと思っているので。

――加納さん側に「Aマッソはこう見られたい」という思いはあまりない?

加納 たとえばひとつの番組に出演するときの細かなスタンスについてはあるかもしれませんけど、大きくその作品や番組に出る/出ないという点ではあまりないですね。そこに固執するよりも、いろいろやると思われたほうがいい。そういう意味では「こう見られたい」という思いはないのかなあ。

意外な依頼に対する考え方


加納愛子さん。

――そうやって依頼される仕事の中で、いまいちばん楽しいものはなんですか?

加納 基本的に嫌な仕事はしていないので、ぜんぶ楽しいですけど……。やりがいという意味では、テレビは楽しいですね。毎回、できなかったことができるようになっていくというわかりやすい気づきは、テレビの現場で得ることがいちばん多いなと思います。

――それは、具体的には「ここで反応できればよかったな」とか?

加納 そうです。前回出演したときはあまりこのMCの人とうまく噛み合わなかったけど、今回はうまくいった、とか。

――「テレビ離れ」が叫ばれて久しいですが、AマッソはYouTubeでも活動されているなかで、テレビという媒体についてどう考えていますか?

加納 うーん、今後YouTubeがどうなるとか、テレビがどうなるとか、媒体としての強さについてはなにもわからないですね。いまは、単にひとつの現場という考え方です。言ってもテレビにまだ2年くらいしか出てないし。

――もっと前からAマッソをテレビで見ている気がしますが、加納さんとしては2年しかテレビに出ていない感覚ですか?

加納 ネタ番組ではなくてバラエティは、レギュラーとして出るようになってだいたい2年くらいですから。

――ネタ番組とバラエティとでは種目がぜんぜん違うものですか?

加納 ネタは二人で出てますけど、バラエティは一人が多いので。それに、ネタ番組ではあまりパーソナルな部分は求められませんから。まだまだ経験は浅いです。

――加納さんはいま、さまざまな作り手から注目を集めている状態だと思いますが、自身がいま注目をしている人はだれですか?

加納 注目というのとは少し違うかもしれないけど、(3時のヒロイン・福田)麻貴ちゃんとサーヤ(ラランド)は、やっぱり一緒に番組(『トゲアリトゲナシトゲトゲ』『トゲトゲTV』テレビ朝日)をやっていたから、終わったあともそれぞれの活動をしているようすを見て、刺激にはなりますね。


加納愛子さん。

――ここまで依頼に応えること、「らしさ」を汲み取ることについて話していただきましたが、たとえばライブ『滑稽』に際して、Aマッソがホラーというジャンルと結びついたのは、最初とても意外でした。一般的なAマッソのイメージから離れたような仕事についてはどうとらえていますか?

加納 基本、そういうものは出会いがベースになると思うんですよ。これまでも、ミュージシャンのKID FRESINOさんとツーマンライブをやってみたり(Aマッソ+KID FRESINO『QO』2022年)、映像の方と映像ネタを作ったりというのは、出会いあってこそなので。そうやって声をかけてくれるというのは、これまでの私たちの活動を見てきてある程度「これをやってくれそう」とか、「Aマッソとこんなことをやったら楽しめそう」と思ってくれているからこそのオファーだと思うんです。だから、いままでいろいろやってきてよかったな、と思います。漫才かコントかを絞らず、YouTubeとかイベントとかを広くやってきたことが、ここに繋がっていると思うので。

――では、思いがけない依頼が来るのは、いままでいろんなことをやってきた成果という感覚ですか?

加納 そうですね。「意外」というのは笑いにおいては長所ですから。フリになるし、飛距離が出るじゃないですか。だから、Aマッソは意外な依頼が来てこそ、だと思います。

加納愛子(かのう・あいこ)

1989年、大阪生まれ。2010年、幼馴染の村上愛とともにお笑いコンビ「Aマッソ」を結成。著書に『イルカも泳ぐわい。』、『これはちゃうか』、『行儀は悪いが天気は良い』がある。現在放送中のドラマ『スナック女子にハイボールを』(中京テレビ)では、単独で初の連ドラ脚本を担当。テレビ朝日『A LABBO』(毎週火曜25:56〜)、MBSラジオ『AマッソのMBSヤングタウン』(毎週木曜22:00〜)、テレビ東京『誰でも考えたくなる「正解の無いクイズ」』(毎週月・火・水曜17:30〜)にレギュラー出演中。2024年7月にはAマッソ単独ライブ「縦」を東京・名古屋・大阪・福岡の4都市で開催予定。

文=釣木文恵
写真=平松市聖

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