サイト内
ウェブ

平安貴族の次はイケメン役! 吉田羊が 挑む舞台ハムレット「かっこよすぎ」 という予想外の“ダメ出し”も

  • 2024年5月11日
  • CREA WEB

カッコよすぎることのない、無様なハムレットの姿を見せたい


吉田羊さん。

 2024年に入ってから、この人の姿を見ない日はないかも——。そう思えるほど、各局からドラマのオファーが絶えず、1月期は『不適切にもほどがある!』、同時にNHK大河ドラマ『光る君へ』と、幅広い役柄を自在にこなし、作品ごとに圧倒的な存在感を放つ吉田羊さん。演技力だけでなく、その美貌や凛とした佇まいにも憧れの念を抱く人は多く、老若男女を問わず、さまざまな世代から人気を集める女優さんです。

 そんな吉田さんが今、全身全霊で向き合っているのが、かのシェイクスピアの名作を舞台化した『ハムレットQ1』。吉田さんは主人公・ハムレットを演じるそう。

 しかも、今回のハムレットは、現在よく上演されている戯曲の原型ではないかともいわれるQ1版で、吉田さんが“男性”であるハムレットを演じることでも話題に。『ハムレットQ1』にかける意気込み、そしてプライベートについてもお伺いしました!


吉田羊さん。

――2021年、女性キャストだけで上演されたシェイクスピアのローマ劇『ジュリアス・シーザー』に続いて、シェイクスピアの作品を演じられる気持ちをお聞かせください。

 演出の森新太郎さんから、「前作で演じたブルータスとは対極にある“ハムレット”で、違う顔を見せてください」と言っていただき、こんな光栄なことはないなと思ってふたつ返事で出演を決めました。

『ハムレット』という題材は、数多の演出家、俳優で上演されていますし、作品自体のファンも多いのでプレッシャーもありますが、それよりも、森さんなら絶対にこの『ハムレット』をこれまでにないものにつくり上げてくださるという確信があったのは、前作『ジュリアス・シーザー』を一緒にやり遂げたからだとと思っています。

――実際にお稽古が始まってみて、どんなお気持ちですか?

 改めて戯曲と向き合ってみると、本当にセリフの量が膨大で、何度も心が折れそうになりましたし、また映像の台本と違って“ト書き”や説明がほとんどないので、唐突にシーンが始まるんです。「あ、シェイクスピアってそうだった、こんな感じだったな」と思い出したり、また稽古場では森さんの情熱、パッション、激しさ、厳しさが初日から充ちていて、「ああ、そうそう、これだった」と思い出したり。それがワクワクする瞬間でしたし、これからいよいよ始まるな! という感じでした。

 今回はQ1版という、よく知られている長尺版と比較すると短くて物語がギュッと凝縮された戯曲を使っているので作品自体に疾走感がありますし、女性である私がハムレットなので、これまでとは違う雰囲気の『ハムレット』になるのではないかと期待しています。


吉田羊さん。

――長尺版に比べてギュッと凝縮された、今回のQ1版の戯曲の魅力はどこにあると感じていますか?

 父を殺した叔父への復讐という大テーマに加えて、母への嫉妬という、いわゆるエディプスコンプレックスも一緒に描かれることが多いハムレットですが、Q1ではその部分がかなり刈り込まれている印象です。それだけ寄り道や脱線がなく、叔父の復讐に一直線に向かう感じがあって、シンプルで観やすいと、私は思っています。

 さらに独白部分もくどくないので、その分、取りたい“間”が取れるんですよね。それも利点のひとつかなと思っています。セリフの応酬はもちろんありますが、緩急のある作りになるのでは、と。

 Q1は長尺版のいいところ取りという感じもします。実は、やや辻褄が合ってないところもあるんです。それを長尺版から補填するのではなく、あくまでも目の前にあるこのQ1の戯曲から解釈しても成立するはずだと、森さんがおっしゃって。実際に稽古も、そのように進んでいますね。

――先ほどおっしゃられた通り、ハムレットは歴代錚々たる役者さんが演じられています。吉田さんはどんな人物像を描こうと思っていますか?

 美しくて叙情的なセリフ回しが多いので、“イケメン”キャラクターの筆頭だと思うのですが、戯曲を読み込むと、自分の感情と折り合いのついてない、すごく人間らしい、不格好な人間だと私は感じているんです。気弱だし、臆病だし、復讐を心に誓いながらも、なかなかそれを実行に移せない優柔不断さもある。

 次々と襲い掛かってくる不当な仕打ち——父を殺され、王位を奪われ、母にも裏切られ、恋人に振られ、友達に裏切られ……。それらを抱えきれず自分が壊れそうになるギリギリのところのハムレットの無様さ、もがきのようなものをカッコつけずに演じられたと思います。

 独白のところはついつい感傷に浸りがちになるのですが、これがすごく難関。感傷に浸ると、どんどん内へ内へと入ってしまうんです。最初に私が作っていったものはそうだったのですが、森さんから全然違うって言われて。ハムレットは復讐を果たすために狂人のフリをしているけれど、唯一、お客さんには心の内を全部話しているんだよと言われました。

 なので、今は感情も身体もどんどん外に解放している最中です。森さんからはよく「カッコよすぎるからダメ」と怒られています(笑)。褒め言葉でない“カッコいいのが悪い”というのが、ちょっと気持ちいいなぁと思いながら、お稽古していますね。

女性の私が演じるからこそ、ハムレットの不安や必死さがよりリアルに伝わる


吉田羊さん。

――お稽古は順調に進んでいるようですが、吉田さんが「面白い」と感じていらっしゃる部分はありますか?

 今回は森さんの人物造形が本当に見ものなんです! 特にクローディアスとガートルードは救いようのない性悪な叔父さんでも、妖艶さを武器にしたセクシュアルなお母さんでもないんですよ。

 そこは(吉田)栄作さんや、広岡(由里子)さんご本人がお持ちのお人柄やお茶目さ、おふたりが醸し出すカッコよさといったものが反映されているような気がします。悪人たちに人間味を持たせて、ただの悪い人では終わらせないという演出は、森さんご自身のお人柄でもあるのかなと思っています。

 今回のQ1の戯曲ですが、初めて読んだときに、結構笑える台本だなと思ったんです。それは動きで見せるコミカルさもあれば、窮地に立たされた人間の必死さから生まれるシニカルな笑いもあって。少なくとも、今、稽古場でみんなで爆笑しているところは「お客さんにもちゃんと笑ってほしいね」と森さんと話しています。笑える悲劇『ハムレット』になるといいなぁと。

――『ハムレット』が笑える悲劇になるんですね⁉

 森さんは、セリフの単語ひとつからエピソードを作るのがとてもお上手なんです。先ほど話したキャラクター造形にも関わる話なのですが、例えばクローディアスがハムレットのことを「わが甥」と言ったり、「息子」と呼んだりするのですが、その言葉の言い換えにはきっと意味がある、とおっしゃるんです。

「この子は自分の息子なんだ」と自分にいい聞かせる気持ちと、そして“息子”にもちゃんと言い聞かせる気持ちがあるんだと。クローディアスのわずかな葛藤がその言葉選びにあるはずだ、というようなエピソードを聞かせてくださるわけです。

 そう考えると、受け手としても“甥”と言われた気持ちと“息子”と言われたときの気持ちが変わってきますよね。そういうところで、人物の感情を面白がって見せてくれる演出だと思います。

――今回は吉田さん以外にも何人かの女性が“男性”を演じると聞いています。吉田さんは前作の『ジュリアス・シーザー』に引き続き、男性を演じるという気持ちや役作りなど、どんなふうに捉えていらっしゃいますか?

『ジュリアス・シーザー』のときに気付いたことなのですが、女性が意図的に男性を演じようとすると、不思議と“女性に見えてくる”という現象が起きるんです。それはすごく面白い体験でした。あのときにどんな役作りをしたかというと、声を低く発声するくらいで、あえて男性役を意識した役作りはしなかったんです。

 それは、おそらく『ジュリアス・シーザー』では全員が女性で、衣装も男装ではなく中性的であったことでキャラクターが無性化して、普遍的な人間物語が浮かび上がったのでは、と思っています。決して男性役を演じようとしてはいないのだけれど、心持ちが男性であると、自然と身体が外に外に開いてくるんです。

 座るときもヒザがパッと開いてしまったり、胸を張りたくなったり。個人的な考えですけれど、古代から家族を守りながら敵と戦って生きてきたという、本能的に持っている“男性的な部分”が、そうやって身体を開くことで、敵に対して自分を大きく見せようとしているのかなと、想像しています。

――前回はブルータスで、今回はハムレットです。本物の男性陣もいらっしゃるので、また勝手が違うのではないかと思います。

 はい。今回は男性がいる中で女性が男性を演じることで、身体つきは明らかにひと回り違いますし、声ももちろん違います。もしかしたら、それがすごく頼りなく見えるんじゃないかと。でも、それこそが、今回の面白みでもあるのかと思っているんです。

 明らかに“異物”で心もとない私という存在が、正気と狂気を行ったり来たりしながら、不安げに必死に立ち回るハムレットと重なる手助けになったらいいなと思っています。

 先ほどおっしゃった通り、ほかにも男性役を演じる方がいるのですが、まったく違和感がないんですよね、稽古場で。昔から“要職に就くべきだ”としてきたのは男性ですが、でも必ずしも男性である必要はないんだなと思いながら、彼女たちのお芝居を観ています。


吉田羊さん。

――共演者の方々についてもお聞かせください。特に恋人のオフィーリアを演じられる飯豊まりえさん、そして二回目となる演出の森新太郎さんについて、お話いただけますか?

 飯豊さんはすごくしなやかな方。舞台は2回目と伺いましたが、そうとは思えないほどの度胸と胆力を備えていらっしゃいます。また、数々の映像の現場で表現力や演技力を積み重ねてこられているので、チャレンジスピリットが気持ちいい。何より、すごく素直で可愛らしい方なので、彼女が笑えばみんなも笑うという、現場のムードメーカー的な存在です。

 森さんとは2回目なんですが……。彼の代名詞でもある“100本ノック”も、今回も健在です(笑)。特に今回は圧倒的に私がしゃべっていることが多いので、100本ノックを受けるのは私が一番多いのですが、このシェイクスピエアの作品に関しては、眠っていてもセリフがそらんじられるくらい身体になじんで、そこで初めてお客さんの前に出ても大丈夫! という域に行けるので、私としてはすごくありがたいと思っています。

――森さんはまさに今、飛ぶ鳥を落とす勢いの演出家の方だと思います。

 森さんって、ご自身で演じながら演出されることがあるんです。「こういうふうにやって」って演じてくださるんです。それがすごくお上手で。森さんが全部やればいいのにって思うんですよ(笑)。ひとりハムレットができるじゃん! って。

 でもそれは多分、彼自身がシェイクスピアを愛しているというのは大前提として、おそらく台本を読みながら、ご自身で演じていらっしゃるんじゃないかと思うんですよね。なので、どこでどう動いたらセリフが出てくるとか、おそらく分かっていらっしゃる。だから私が詰まったとき、瞬時に「じゃ、羊さん、こっち向いて」と身体に動きをつけてくださる。身体の動きと連動すると、こっちを向いたときにはこのセリフという具合に頭が思い出してくれるので、とても助かる。それを的確に指示してくださるんです。

 あと、森さんは昨日言ったこととまったく違うことを今日言ったりするんです。でも、それって“毎日更新している”ということだと思うんです。毎日台本を読んでいる。だから、私たちに対しても「昨日こう言ったけど、やっぱりこっちにして。ごめんね」と素直に謝ってくださる。演出家が自ら、“間違ってもいいよ”ということを体現してくださるので、我々役者陣としても遠慮なく言えるし、間違ってもいいんだと思える稽古場なのはありがたいですね。

吉田羊(よしだ・よう)

2月3日生まれ、福岡県出身。1997年より舞台を中心に活動をスタート。12年には連続テレビ小説『純と愛』に出演、14年にフジテレビ『HERO』第2期で女性検事役に抜擢されて、一躍脚光を浴びる。以来、様々な話題作への出演が続いている。近年の主な出演作は、【舞台】『ツダマンの世界』『ザ・ウェルキン』(22)、『ジュリアス・シーザー』(21)、【映画】『クレイジークルーズ』『Winny』『イチケイのカラス』(23)、【ドラマ】『不適切にもほどがある!』(24・TBS)、大河ドラマ『光る君へ』(24・NHK)、『侵入者たちの晩餐』(24・NTV)など。2024年5月17日より映画『ハピネス』が公開。

衣裳協力

ジャケット 79,200円、ビスチェ 39,600円、パンツ 46,200円(全てエズミ/リ デザイン 03-6447-1264)、カットソー 31,900円(プント ドーロ/ブランドニュース 03-3797-3637)、ピアス 121,000円、イヤカフ 64,900円、リング(左手中指) 94,600円、(左手人差し指) 82,500円(全てヒロタカ 表参道 03-3478-1830)、バングル 17,600円(アデルビジュー ショールーム 03-6434-0486)、サンダル/スタイリスト私物

文=前田美保
写真=佐藤 亘
ヘアメイク=吉川陽子
スタイリスト=井坂恵(dynamic)

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
Copyright (c) Bungeishunju ltd. All Rights Reserved.