
「運がいい」「ツキがある」のは本来喜ばしいもの。けれど、“幸運すぎる”というのも考えもので……。そんな「運」にまつわる不思議な体験談を描いた創作漫画に反響が集まっている。
作者は漫画家のみつつぐ(@mitutugu)さん。話題になったのは、みつつぐさんがTwitter上で公開し、「#人から聞いた不思議な話を漫画にしてみた」(朝日新聞出版)として書籍化もしている人気シリーズの新作エピソードだ。作品の紹介とともに、作者のみつつぐさんに今回の作品のこぼれ話を取材した。
■「運がいい」だけならいいけれど…幸運だからこその恐れとは?
幸運というものを考えてしまう体験談が描かれているのは、今年5月に投稿された「人から聞いた不思議な話を漫画にしてみた 77」。自他ともに認める「とても運のいい」女性のエピソードだ。
懸賞やくじへの当選をはじめ、事故に巻き込まれるという不運にあっても無傷という不幸中の幸いまで、「何かに守られているよう」と常々感じていたというその女性。
ある日、買い物に出かけた女性は、道中で早歩きの男性が正面から近づいてくるのに気付く。帽子を目深に被った男性は、進む先に女性がいるのに気付いていない様子。「このままではぶつかる!」と、女性は慌てて横に避けたものの、腕に下げていた買い物袋が男性にぶつかってしまう。
謝りつつ男性に目を向けた女性だが、そこで見たのは男性の腕に蛇のように絡まる買い物袋。そして、それを振り払い慌てて走り去る男性の姿。大きな被害にあわなかったことに、女性はまるで“何かに守られている”と感じるとともに、「これはちょっと怖いかもな…」と恐れを覚える。
その後女性はいつも“何か”に見られていると思うとどんな小さな悪いこともできないと語り、「見捨てられて運が無くなったときにどうなるかの方がすごく怖い」と幸運であるがゆえの不安をにじませたという。
■正体が見えないからこそ不思議深まるエピソードに共感
実際には偶然の出来事だったとしても、不運が重なればお祓いを受けようと考える人もいるように、運の後ろに何かが介在していると感じることはままあるもの。読者からも「見えない何かあると思います」「わかりすぎる」「お天道さんが見てるって言葉を思い出しました」と共感を集めた体験談だ。
みつつぐさんがこの体験談を漫画の題材に選んだ理由は、「はっきりと正体の見えないオカルトが変わっていて不思議でよいかと思いましたので描かせていただきました」とのこと。
また、みつつぐさんの作品はこのエピソードのように読者に投げかけるような語り口のほか、回想シーンの中で話がしめられたり、作中の人物同士の会話で振り返りが進むなど、それぞれの語り口も見どころの一つ。「語りかけるように、目の前で人に聞いてもらう感覚で描いてます」と話すみつつぐさんは、今回の作品については「前記の通り正体が掴めないものなので、解釈は読む側にお任せする形にしようかと思いました」と、語り口の選び方の一端を教えてくれた。
取材協力:みつつぐ(@mitutugu)