山を越えて吹く湿った空気を含む風が、山を吹き降りる際に高温の乾いた風になり、局地的な空気の乾燥や気温の上昇をもたらす現象。上空にある温度の高い空気のかたまりが、山地の風下側に降下することでも発生する。「フェーン」とはもともと、ドイツ語でアルプス山中に吹く局地風を表す「föhn」で、風下側で吹く乾燥した高温の風をフェーンと呼ぶようになった。日本では、4月後半から5月頃にかけて発生する低気圧が日本海を通過する時(いわゆる「メイストーム」)や、夏の季節風が吹く頃などにフェーン現象が起きることが多い。
フェーン現象が起きる原理を日本の場合でみると、まず、水蒸気を含む空気のかたまりが太平洋側から風になって山地を越す際に、山の風上に面した側で雨や雪を降らせて水蒸気を失い、気温が下がる。もとの空気の温度を30度とすると、100m上がるごとに約1度ずつ気温が低くなり(乾燥断熱減率)、海抜1000mを過ぎると空気が飽和して100mにつき約0.5度ずつ気温が下がる(湿潤断熱減率)。その状態で山を越えた空気のかたまりは、今度は100m下がるごとに約1度ずつ気温が上がるため、35度から40度近い高温・乾燥状態の風になって日本海側に吹き降りる。
フェーン現象が起きると空気が乾燥し、強風が吹くため、火災の発生や延焼による大火につながる場合がある。また、激しい気温上昇をもたらし、熱中症などの被害も出る。1933年7月には、フェーン現象により山形市で40.8度の最高気温を記録した。フェーン現象時の太平洋側と日本海側の気温を比べると、日本海側の方が5度以上高い場合がある。たとえば、1998年5月には、太平洋側で最高気温が21度前後だったのに対し、日本海側では30度前後と9度近くも高くなった。一方、相対湿度は太平洋側で高く、日本海側で低くなった。気象台では、木材などの乾燥度を表す「実効湿度」が低く、フェーン現象によって空気が乾燥するおそれがある時に「乾燥注意報」を発表している。
フェーン現象自体は地形を原因とした気象現象で、異常気象(過去30年の平均的な気候変化の幅から外れた気象のこと)ではなく、地球温暖化などの環境問題との関係もはっきりしていない。こうした中、気象庁が5年ごとに出している「異常気象レポート2005」では、フェーン現象が都市の環境に大きな影響を与えていることを報告している。同レポートによると、2004年7月、関東平野で発生する北西風によるフェーン現象とヒートアイランド現象とがあいまって、関東地方のほぼ全域で35度を越す日が続いた。今後の研究が注目される。