
右耳難聴や子宮内膜症など、自身の体験をわかりやすくコミカルな漫画で描いてきたキクチさん(kkc_ayn)。なかでも、母親の自宅介護と看取りがテーマのコミックエッセイ「20代、親を看取る。」では、自宅介護の現実や、“親との死別”と向き合う中で複雑に揺れ動く感情が描かれており、同じ経験がある人や親の老いを感じ始めている同世代などから大きな反響を集め、2023年に書籍化された。
コミックエッセイ「父が全裸で倒れてた。」は、母を看取ってから約2年後、今度は父が病に倒れてしまう話だ。母の介護・看取りを経たことで落ち着いて対応できることは増えたものの、あのときとは違い、一人っ子として頼れる家族がいない中でさまざま決断を迫られることになるキクチさん。いつかは誰もが直面する“親の老いと死”についてお届けする。
今回は、好転しない父の病状に頭を悩まされると同時に新たな問題と向き合うことになるエピソードをお届けする。
第17話1-1 / 作=キクチ
第17話1ー2 / 作=キクチ
第17話2-1 / 作=キクチ
第17話2-2 / 作=キクチ
第17話3-1 / 作=キクチ
第17話3-2 / 作=キクチ
第17話4-1 / 作=キクチ
■キレイ事じゃない…!先が見えない父親の医療費はどうする?
予断を許さない父親の容体を危惧しながら、「新薬だろうがなんだろうがお金はいくらでも払うから…」と願ったのも束の間、病院で請求書を渡され「医療費」という現実と向き合うことになる作者。その金額はもとより、完治が見えていない=この先いつまでこの支払いが続くかも不透明という現実が重くのしかかっただろう。
「さすがに11万円という数字を見たときはショックが大きかったです。しかも実の親であれ、他人の銀行口座やクレジットカードを使うことはできないので、医療費や入院費を支払うのは私。貯金があるとはいえ、3日でこの額面なら来月どうなってしまうのだろうという恐怖でソワソワしました。後から知りましたがICUはそもそも高度な医療が提供されるために高額になってしまうとのこと。すぐに、どうにか負担額を減らせないかと自分なりに国の制度なども含め調べまくりました」
第17話4-2 / 作=キクチ
第17話5-1 / 作=キクチ
第17話5-2 / 作=キクチ
第17話6-1 / 作=キクチ
第17話6-2 / 作=キクチ
作者の父親はマメな性格で、各種書類をきれいにファイリングしてくれていたことで必要な情報を得やすかったとのこと。しかし、どちらかというとこの状況はレアケースであり、自身の両親が保険の書類や通帳、印鑑などをどこに保管しているかといったことは普段から確認し合っておくのが大切だと思わされる。
「私は先行きが見えないとすぐに不安になってしまうタイプで、特にお金については見通しを立てておきたいと思っていました。なので現在の預金額、加入保険、企業年金がどれくらいの額面でいつまで受給されるか、などを知れたのはよかったです。父が何歳まで生きた場合にどのような生活を送ることができるのかシミュレーションをすることで、ある程度は不安を取り除くことができました。このような重要書類をまとめておかないと、特に死亡時は家族の対応・負担が大きくなります。良好な家族関係を築けているのであれば、書類の在処などを共有しておくのは、いざというときに大きく役立つと思います」
父親の保険内容を確認するため契約したと思われる代理店へ足を運び、担当者から話を聞くことに。父親が契約している保険は「がん保険」だったことがわかり、現時点では一応がんも可能性としては示唆されているものの、もしそうでなかった場合は保障を受けられない可能性も出てきた。
「保険の代理店へ行った日はクリスマスイブ。街がハッピームードの中、私は商店街を自転車で爆走して、一刻も早くお金の不安を取り除きたいという必死な思いで向かいました。自分自身が民間の保険に入っていないこともあり、保険のことはちんぷんかんぷん。そんな私に担当の方は丁寧に優しくご説明くださいました。『がんじゃないことが一番いいけど、もしがんだと診断されたとして、負担額や保障のシミュレーションしてみましょうか』と気遣いながら対応くださって、本当に素敵な方に担当いただきました」
家族が病に倒れた場合、病気だけではなく医療費や保険といった問題とも向き合わなければいけない現実が描かれた今回のエピソード。つらい状況も淡々と、時にクスリと笑える場面を挟みながら描くキクチさんの漫画を、今後も楽しみにしてほしい。