
最近は海外でも非常に人気の高い日本のウイスキー。海外の酒店でさまざまな種類のジャパニーズ・ウイスキーが店内で最も目立つ場所に並んでいることも多い。富山県砺波(となみ)市にあるクラフトウイスキーの老舗「三郎丸蒸留所」には、国内外から年間約3万人も訪れるという。体験レポートで紹介する。
クラウドファンディングで2017年に大改築された「三郎丸蒸留所」
■古いけれど新しい老舗のウイスキー蒸留所
北陸最古のウイスキー蒸留所「三郎丸蒸留所」は、1862年創業の日本酒の蔵元「若鶴酒造」が操業するウイスキー蒸留所。第二次世界大戦後に日本酒の原料である米が入手しにくくなったことをきっかけに2代目の稲垣小太郎さんが蒸留酒の研究を重ね、1952年にウイスキー製造免許を取得、翌1953年に「サンシャインウイスキー」を発売させた。以来、半世紀以上にわたりウイスキーの蒸留を継続している。
JR城端線・油田駅のすぐ目の前。正門から敷地に入ったら、まずは大きな瓦葺き屋根と漆喰の壁のコントラストが美しい「大正蔵」へ。今年、国の登録有形文化財への登録が答申されたというこの建物は、現在では受付や地域のイベントなどにも使用されている。
「大正蔵」とともに、「三郎丸蒸留所」「昭和蔵松庫」も国の登録有形文化財への登録が答申された
専門ガイドさんに伴われ敷地内の奥にあるウイスキーの蒸留施設「三郎丸蒸留所」へ。建物に一歩入ると、芳醇なピートの香りに包まれる。いよいよクラフトウイスキー蒸留所の見学のスタートだ。
実際にウイスキー生産に使われているこの建物、現在の5代目社長・稲垣貴彦さんが家業を継ぐために2015年に戻ってきたときには、窓ガラスが割れ、雨漏りもするなど老朽化が著しく、そんな中で細々とウイスキーが作られていたという。「これまで続いてきたウイスキー造りを途絶えさせるわけにはいかない」と奮起した5代目がクラウドファンディングで資金を募り大改修。2017年に理想の蒸留所へと生まれ変わらせ、「三郎丸蒸留所」という名称もそのときに誕生したそうだ。
タロットカードのイラストが目印のシングルモルトウイスキー「三郎丸」
■映像で学ぶウイスキー造り、壁にはタロットカードの絵柄
まずは「室(むろ)ジェクションマッピング」と名づけられた視聴覚室へ。映像を見ながらウイスキーの造り方について説明を受け、製造工程も学んでいく。「三郎丸蒸留所」がウイスキー造りで目指しているのは、2代目が生み出した「サンシャインウイスキー」の系譜を受け継ぐスモーキーな味わい。大麦を乾燥させてモルトをつくる際の燃料として、スコットランド・アイラ島や内陸ハイランド産出のピート(泥炭)で作られる、ヘビリーピーテッドモルトを使用。これが独特のスモーキーな香りを生むという。実際に手に取って香りをかがせてもらった。
ピートが、ウイスキーのスモーキーな香りを生み出す
視聴覚室の壁には一面にタロットカードの切絵原画が飾られている。これらは三郎丸蒸留所で造られているシングルモルトウイスキーのボトルラベルに使われている絵柄だ。まだリリースされていないボトルもあるので写真はNGだったが、額に収まって並ぶタロットカードの絵柄は、なんとも格式の高いもので、眺めるこちらのテンションも上がる。
■梵鐘づくりの技術から生まれた蒸留器ZEMON
映像が終わると、2階から見下ろすようにウイスキー製造過程を眺めながら見学。マッシュタン(麦芽糖化槽)や木桶の発酵槽など、糖化や発酵のプロセスを見せてもらう中で、一番目を引いたのは、世界初となる鋳造製のポットスチル「ZEMON(ゼモン)」だ。
鋳造製ポットスチルZEMON
一般的なポットスチルは銅製で、銅板を叩いて薄く伸ばして曲げ、溶接して作られるため、20〜30年で穴が開き寿命となる。ZEMONは銅と錫を混ぜた鋳造製のため、厚さを2.5倍程にすることができ耐久性がグッと高まるそうだ。砺波市の隣・高岡市は江戸時代から銅器製造の歴史があり、現在でも日本の銅器の90%以上を生産。特に有名なのは寺の梵鐘の製造で、その技術を活かして2018年に地元の製造業者「老子製作所」と共同開発したのが、鋳造製ポットスチルZEMON。銅と錫の効果でウイスキーがまろやかになるとの説明を聞き、試飲がますます待ち遠しくなってくる。
■ミズナラ樽が置かれている樽貯蔵庫
三郎丸の名前が大きく書かれた樽貯蔵庫
続いて熟成用の樽貯蔵庫を案内してもらう。SABUROMARUと大きく書かれた建物の中には、上のほうまでずらりと樽が並んでいる。別の場所にも貯蔵庫があり、計6000樽程の熟成が可能だそうだ。
貯蔵庫にはバーボン樽や、芳醇な香りのウイスキーが熟成されるシェリー樽のほか、富山県産のミズナラを使った「三四郎樽」も置かれている。これは地元の林業家や木工職人と共同開発したもので、この樽でウイスキーを熟成させることで香木のような風味が加わる。ここでも地元に根差した新たな試みがなされていた。
富山県産ミズナラ材を用いた「三四郎樽」
■お待ちかねの試飲。スモーキーな味わいがクセになる
1時間弱の見学を終えて、受付をした大正蔵に戻ると、見学の記念としてオリジナルグラス、オリジナルボールペン、ウイスキーサンプル2本のお土産セットと試飲用コイン4枚をいただく。2本入っていたウイスキーはいずれも非売品。「ニューポット」と記された1本は、通常は市場に出回らない樽に入れる前のウイスキー。蒸留したてのスパイシーさの中に、まろやかさを感じることができた。もう1本は3年熟成したもの。まっさらなウイスキーと比べて、飲むおもしろさがあった。
ガイド付き見学プランは非売品のウイスキー2本、オリジナルグラス、三郎丸オリジナルボールペン、試飲用コイン4枚付き
さらに試飲用コイン4枚を使って、見学後に6種類のウイスキーと6種類の日本酒やリキュールの中から、好きなものを4種類選んで試飲が楽しめるようになっていた。ツアーで一緒になった人たちは、ウイスキーを中心に飲んだり、せっかくだからと日本酒も試飲する人も。「おいしい!」「このスモーキーさがクセになる」そんな声が聞こえてくる。最後には、ここでしか買えないというウイスキーも購入。お土産に購入したウイスキーを飲みながら、旅の余韻にも浸れる満足度の高い体験だった。
■施設情報
住所:富山県砺波市三郎丸208
アクセス:【電車】JR城端線油田(あぶらでん)駅から徒歩約1分
駐車場:あり(普通車15台)
定休日:原則水曜日、年末年始
ガイド付見学:スタート時間は(1)10時45分~ (2)13時20分~ (3)14時30分~ ※(3)は土日のみ。
公式サイト、「三郎丸蒸留所」見学予約システムより要予約
料金:ガイド付き見学プラン 1人4000円
(オリジナルグラス、非売品ウイスキー2本、オリジナルボールペン、試飲用コイン4枚付き))
※団体向けプランあり
※現在ガイドなし自由見学は休止中
取材・文=レックス 二宮大輔
※20歳未満の者の飲酒は法律で禁じられています。
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