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コーヒーで旅する日本/関西編|緻密な技術でサイフォンの魅力を発信。旺盛な好奇心が生み出すコーヒーコミュニティ。「KUUHAKU COFFEE」

  • 2024年4月9日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

関西編の第79回は、兵庫県姫路市の「KUUHAKU COFFEE」。姫路城のお膝元に店を構える店主の寳さんは、イタリアでのエスプレッソ他県を機にコーヒーの世界へ。当初はバリスタを目指すも、ひょんなことからサイフォンの魅力に出合い、独自に技術を追求。今では少なくなったサイフォンとスペシャルティコーヒーの取り合わせで、多彩な豆の個性を提案している。尽きぬ探求心と、サイフォン愛あふれる寳さんだが、店では難しい話は一切なし。肩肘張らずコーヒーを楽しんでもらうことに腐心する寳さんが、空白を意味する、ロゴのカギカッコ「」に込めた思いとは。

Profile|寳和輝(たから・かずき)
1992年(平成4年)、兵庫県姫路市生まれ。学生時代、旅行で訪れたイタリアで味わったカフェラテをきっかけにコーヒーに傾倒。大学卒業後、住宅会社に勤務したのち、姫路のUCCカフェプラザに転身し、サイフォンの技術を独自に研究。2019年から「KUUHAKU COFFEE」として、イベントでの出張喫茶の出店や、神戸、大阪での間借り営業を続け、2021年、姫路に実店舗をオープン。2023年には姉妹店となる焙煎所も開店。

■バリスタを目指した先にあったサイフォンとの出会い
世界遺産・姫路城へ駅からまっすぐ伸びる大手筋。広々とした街路から伸びる脇道に入ると、COFFEEの看板がポツリと見える。うっかりすると通り過ぎそうな場所にありながら、観光客と思しき人が次々と店先に顔を見せる。「時期にもよりますが、海外からのお客さんが占める日もありますね」とは店主の寳さん。カウンターで目を引くのは、熱源の赤い光が照らしだすサイフォン。ドリップやエスプレッソが主流となった、近年のコーヒーショップでは少数派だが、「冷めたときにも味が崩れず。雑味が少ないのがサイフォンの特長。サイフォンもフィルターがいろいろありますが、特にネルフィルターは質感が滑らかになります。かつて喫茶店で使われていたイメージが強いですが、抽出時の拘束時間が短いので、一人で切り盛りする場合も便利なんです」

これまで、一貫してサイフォンならではの味作りを追求してきた寳さん。とはいえ、コーヒーに関わるきっかけとなったのは、学生時代、イタリア旅行で飲んだカフェラテだった。「イタリアといってもバールで飲んだのではなくて、ベンダーマシンで淹れたものだったんですが、これがおいしかった。今まで飲んだものは水っぽく、苦い印象があったので、日本でも同じものが飲める場所がないかと思って、帰ってから探し回りました」と寳さん。方々訪ねた末にたどり着いたのは、本連載でも登場した神戸のCoffee Labo frank…。当時、栄町でいち早くコーヒースタンドとして開店したばかりのころだ。そのカフェラテに、イタリアと通じる味を感じて通ううち、すっかり常連に。「コーヒーはもちろん、オールスタンディングのカウンターを囲んで、店主の北島さんやお客さんとワイワイ話せる雰囲気も好きでした。場所もちょうど自宅と大学の間にあって、ここに来れば何か楽しいことがあるかも、と思わせる拠りどころみたいになってましたね」と振り返る。

大学卒業後、一度は会社勤めを経験したものの、コーヒーへの思いは止まず、意を決して転身。地元・姫路のUCCカフェプラザに入り、ここで初めて、サイフォンに触れることとなる。ただ、このときの本人の志向とは、少し違っていたようだ。「最初のきっかけがカフェラテだったので、本当はバリスタを目指したんですが、エスプレッソマシンを扱えるお店が、姫路界隈にはほとんどがなくて。それでも、同じコーヒーを出すならば、おいしくないものは出したくないとの一心で、サイフォンの競技会の動画やチャンピオンの抽出映像を見て、独学でサイフォンの技術を追求し始めたんです」

■多彩な豆の個性を引き出す緻密な抽出技術
その後、2019年から「KUUHAKU COFFEE」の屋号で、ドリップコーヒーのイベント出店を始め、1年後には、Coffee Labo frank…と、大阪のカカオ菓子専門店・monpetit via cacaoで、間借りしてサイフォンコーヒーの店を営業。独立を見据え、実践で経験を重ねてきた。「サイフォンを選んでよかったのは、使い手が少なく狭いサークルなので、同業の人とすぐつながれること。競技会のチャンピオンでも身近に話ができて、直接、教われる機会も多かった」と寳さん。このころ、Coffee Labo frank…北島さんら3人が共同で、焙煎機を購入。シェアローストで自家焙煎での味作りにも取り組んだ。

晴れて実店舗として「KUUHAKU COFFEE」をオープンしたのは2021年。ここでは、時季替わりで提案する4、5種の豆のラインナップを、自家焙煎のものに、各地のロースターから仕入れるゲストビーンズを加えて構成。豆の特徴に合わせて、普段使いで飲みやすいホワイトラベル、ちょっと贅沢な味わいのグレーラベル、トップオブトップの希少な豆をブラックラベルと、好みに合わせたカテゴリーを設定している。すでに仕入れ先は10軒を超えており、店頭の顔ぶれは日々変化する。

「基本は味の違いが出るようにそろえてますが、時にはゲストビーンズばかりという日もあります。一人ではローストの幅に限界があるので、自分では出せないバラエティを作ると共に、地域による味の違いも紹介したいので、仕入れ先は原則として県外のロースターのみです。ここは旅行者も多いので、その店行ったことあるとか、あの街ならあそこがおすすめ、といった話もできて、コーヒー好きの裾野を広げやすくするきっかけにもなるんです」

そんな個性派ぞろいの豆の風味を引き出すのが、スマートビームヒーターのサイフォン。この器具が、スペシャルティコーヒーとあまり結びつかないのは、抽出のメソッドが少なく、アジャストする方法がわからないから、という理由も大きい。そんな状況の中で、寳さんは独自に抽出に改良を重ねてきた。抽出過程はあっという間に終わってしまうが、そのわずかな時間に積み上げた技術が凝縮している。粉の攪拌効果をコントロールするため、粉と水は1:13の比率で。細挽きにして短時間に淹れることで、苦味や雑味を抑えるのが基本。さらには、粉の投入のタイミングも、豆によって変えている。

「湯が上にきてから投入すると、湯温が若干下がって、抽出効率も下がるので味のムラが出にくい。逆に先に粉を入れておくと湯温が高い状態で触れるので、特に極浅煎りの豆などは、繊細な風味を出しつつ、口当たりもきれいに仕上がります。実は、アナエロビックやインフューズドといった、最新のプロセスの豆はサイフォン向き。20~30秒で一気に抽出することで、発酵由来の独特の香りを抑えつつ、フレーバーと質感がしっかり出ます」。産地や品種、ロースターも異なる豆を淹れ分ける、繊細な感覚は、今も衰えない探求心の賜物だ。

■尽きぬ好奇心から広がる新たなコーヒーコミュニティ
サイフォンのことを話し始めると止まらない寳さんだが、店に立つときは難しい蘊蓄(うんちく)は一切なし。余計なことは考えず、コーヒーを楽しんでもらうことに腐心する。「空白を意味する、カギカッコ「」のロゴは、どんな人でも気負わず、頭を空っぽにして飲んでほしいという意味を込めたもの。例えば、豆の銘柄とか、店主の肩書きとかを見て、おいしいはずという思い込みを持ってほしくないので。それは飲む人によって変わりますから、もっと自由に楽しんでいい。この空白に、人ぞれぞれの気分や感想を入れてもらえれば」。

また、日常的にコーヒー専門店のコーヒーを選択肢に入れてもらえるようにと、開店当初から抽出のワークショップを定期的に開催。「教室で楽しんでもらったら、家でも淹れてみようという行動につながる。コーヒーの知識や技術を含めて、自分自身が何かを知ることが好きなので、お客さんにも新しいことをわかりやすく共有するのも、この店の役割の1つと思っています。根本はお客さんに楽しんでもらうことなので、その過程で押し付けにならないように気を付けます。無意識になりがちなので、話に興味がなさそうならスッと引くのも大事です(笑)」

日頃から情報発信やシェアに積極的なのは、寳さん自身の旺盛な好奇心によるもの。そんなオープンな姿勢から生まれたイベントに、1年前から始まったサイフォンバトルがある。きっかけはSNSを通じて、同じサイフォンの使い手である、大阪のリロ珈琲喫茶の店長・ヒロナさんから、サイフォン抽出理論についての質問を受けたことが発端。たびたび議論を戦わせるうち、「話だけではわかりにくいから、実際に味で勝負」と、公開のサイフォンバトルへと発展。コンペ形式でサイフォンの魅力を発信する名物イベントになりつつある。

そんな寳さんの懐深さは、後進となる若い世代にも向けられている。「実は開業にあたって、姫路や播磨地域でバリスタを志望する人が、地元でその道を目指していけるようにしたい、との思いがありました。自分が目指したときは、その場がなかったので、地方と都市の違いだけでチャンスがなくなるのはもったいない。今は、この店でもエスプレッソマシンの手配や調整もできるので、姫路でバリスタを目指せる環境を作りたいですね」。昨年秋には、コーヒー店が集う大規模なイベント・播磨コーヒーゲートも開催。コーヒーを自由に楽しむ、空白のスペースは、店とお客の枠を超えて大きく広がりつつある。

■寳さんレコメンドのコーヒーショップは「CINEMA COFFEE ROASTERS」
次回、紹介するのは、兵庫県西脇市の「CINEMA COFFEE ROASTERS」。
「共通の知人を通じて店主の森さんとのご縁ができて、以来、スタッフの方々も来ていただいてます。森さんは開店を機に焙煎を始めて以降、どんどん腕を上げて、コーヒー教室や開業者・スタッフの研修にも熱心。何より、お店の皆さんの明るく気持ちのよい接客で、多くのお客さんを引き付けています。コーヒーに興味を持ち始めた方にとって、最初の一歩を踏み出すのにもぴったりの一軒です」(寳さん)

【KUUHAKU COFFEEのコーヒーデータ】
●焙煎機/ アイリオ 1キロ(電熱式)
●抽出/サイフォン、エスプレッソマシン(エレクトラ)
●焙煎度合い/浅~中深煎り
●テイクアウト/ あり(500円~)
●豆の販売/シングルオリジン5~6種、100グラム900円~

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治

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