
X(旧Twitter)やインスタグラムをはじめとするSNSは、アマチュアだけでなくプロの漫画家も自身の作品を発表する場となっていて、名作が日々誕生している。今回紹介するのは、漫画家・ぴのこ堂(@pinokodoaonoshu)さんの“百合”を題材とした「Black Lily 黒百合短編集」。
師匠とアシスタントの間柄が逆転し、人気漫画家にのし上がった後輩漫画家と、彼女の先輩アシスタント兼ゴーストライターとして働く先輩漫画家との関係を描く「交換」シリーズは、プロとして長いキャリアを持つぴのこ堂さんゆえの説得力あふれる描写と、互いの強い感情が交錯する二人の姿に引き込まれる作品。「漫画家漫画をいつか描いてみたかった」というぴのこ堂さんに、同作の創作秘話を訊いた。
■今まで一番描きたいけど描けなかったテーマ
「交換」シリーズ制作のきっかけについてぴのこ堂さんは「『Black Lily 黒百合短編集』は、百合とミステリーはとても相性がいいのではないかと思い、実験的な作品として意図しました」と、創作の舞台裏を告白。5ページで完結してラストにはびっくりするようなどんでん返しを用意するシリーズとして描いた作品なのだそう。
1本目の「瞳」は女子高生の先輩と後輩、2本目の「秘密」はパワハラ上司と気の弱い部下、というように「関係」から起こる愛憎劇を描き、3本目はどんな関係を描こうか考えていたのだという。
「3本目は最後だから一番描きたいけど描けなかった『漫画家とアシスタント』という関係にしようと思いました」
漫画家を題材にした漫画を描くうえで感じたことや、こだわっている・楽しんでいるポイントについては、「自分も漫画家ですので一番よく知っている」と答えた。続けて、「というかそれしか知らない職業です」とも。
ただ、自分の分身とも言えるキャラクターが苦しんだり怒ったりするのは、若い頃の自分と重なって複雑な気持ちになったとのこと。同時に、俯瞰で眺められるようになって「昔の自分を励ましたいという気持ちにもなります」と語った。
二人の漫画家を中心にした展開はスリリングで、今後の展望も気になるところだ。
その点については「本当ならもうとっくに完結しているはずなのですが、思ってもいなかったエピソードが生まれたりしてなかなか終わりません」と笑った。ほかの仕事との兼ね合いもあり思うように集中できないときもあるようだが、ラストについてはイメージが固まっているそう。「時間をかけてでも最後まで描き切りたいです」と意気込みを語ってくれた。
「愛が束縛、嫉妬、憎しみに変わりつつも、また愛に戻るような……。そんなラストを描くことができれば感無量です」
取材協力:ぴのこ堂(@pinokodoaonoshu)