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コーヒーで旅する日本/九州編|明日も明後日も、毎日当たり前に飲めるコーヒーを。「Morrow珈琲」が郊外で愛される理由

  • 2023年11月14日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第83回は福岡県小郡市にある「Morrow珈琲」。2017年11月に実店舗を開業し、今や小郡市にある本店に加え、筑前町のガーデニングショップ内に「Green Cafe Morrow」、筑後市に「Little Morrow」と計3店舗を展開する人気ぶり。なにより市街地ではなく、郊外からコーヒーの魅力を発信し、3店舗を営むまでに規模を拡大していることがすごい。その人気の理由はなんなのか。原点に、店主兼ロースター・三宅淳司さんの「もともとコーヒーが嫌いだった」という経験があったことが大きいと感じる。“コーヒー嫌いが開いたロースタリー”。その人気の秘密に迫る。

Profile|三宅淳司(みやけ・あつし)
福岡県小郡市出身。大学卒業後、問屋営業を経験。自家焙煎珈琲専門店 伽楽との偶然の出会いから、コーヒーのおいしさに気付く。コーヒーが秘めたポテンシャル、おもしろさを自身がそうだったように多くの人に伝えたいと転職を決意。サラリーマンをしながらさまざまなコーヒーショップ、ロースタリーで学び、2015年に「Morrow珈琲」の屋号を掲げ、焙煎士として歩み始める。2017年11月、小郡市内に実店舗を開業。2018年9月にガーデニングショップ併設の「Green Cafe Morrow」、2021年4月に「Little Morrow」をオープン。今に至る。

■コーヒーのおいしさに気付いてからは
三宅淳司さんはコーヒーの世界に足を踏み入れる前は、もともとサラリーマンで、スーパーマーケットやドラッグストアに商品を卸す営業職だった。休憩中などに缶コーヒーやインスタントコーヒーを飲むことはあれど、おいしいと一度も思ったことはなく、むしろ“コーヒーはおいしくない飲み物”という印象の方が強かったという。

それが変わったのは、職場の上司からふとしたときにもらった自家焙煎珈琲専門店 伽楽のコーヒーを飲んだとき。「今まで飲んでいたコーヒーとはなんだったんだ、というぐらい衝撃なおいしさでした。もともと私もスーパーマーケットやドラッグストアに商品を卸す仕事だったこともあり、こんなおいしいコーヒーを作ることができたら必ず売れる、と直感的に感じたんです」と三宅さん。

それから三宅さんの心は一気にコーヒーに傾いた。仕事を続けながら、休みの日はコーヒーショップの手伝いをする日々。「そのときにお世話になったのが、伽楽の増田さん夫妻や前川さんでした。福岡市東区のNanの木さんにもコーヒー屋になるために必要なことなど、たくさんのアドバイスをいただきました。ちなみにNanの木の代表、芹口さんには『君だったらコーヒー屋として成功できると思う』と言っていただくなど、伽楽さん、Nanの木さん、そして佐賀のいづみや珈琲さんら業界の大先輩たちに、背中を力強く押していただいたのは大きかったですね。そのときにはすでに私の中でコーヒー屋になりたいという新たな目標ができていて、それを妻をはじめ家族みんなが支えてくれて、今があります」と、三宅さんは開業当時を振り返る。

■当たり前に毎日飲める一杯を追求
もちろん最初から順風満帆ではない。始めは小郡市の目立たない場所に小さな焙煎所を設けてのスタート。店舗として営業できる環境ではなかったため、移動販売をすることに決めた。「焙煎所なので豆を購入してもらうことが最終目標ですが、まずは飲んでもらうことが大切。幸運なことに同じ小郡市内にある人気ベーカリーの『パンネスト』さんの店頭でコーヒーを販売させていただけることになり、そこで約2年出店させていただきました。少しずつ名を知ってもらうことができ、ファンがついて…。おかげさまで店舗を構えることができたんです」

それが2017年11月のこと。「Morrow珈琲」の本格的な営業開始だ。三宅さんが目指したのは、自身も憧れ、惚れ込んだ、伽楽・Nanの木・いづみや珈琲のようにデイリーで通いたくなるコーヒー屋。特別や至福ではなく、毎日飲める一杯をとにかく追求し続けた。

三宅さんは「私はコーヒーの知識はゼロ、むしろおいしくないと思っていたぐらいなのでマイナスからのスタートと言ってもいいかもしれません。それでも偶然出合ったコーヒーの味わいに感動し、人生が変わりました。そこまで大げさじゃなくても、『ここのコーヒー、おいしいね』『また買いに行こうか』という気持ちになるようなコーヒーを焙煎したいと思いました。そのためには、わかりやすさをはじめ、お求めやすい価格帯は必須です」と説明する。

言葉通り、ハウスブレンドのMorrowブレンドは100グラム486円、地名を冠したおごおりブレンドやたなばたブレンドは100グラム594円など、リーズナブル。エチオピアのゲイシャ種、ゴールデンマンデリン グリーンフォレストといったプレミアムラインの豆でも100グラム864円〜だ。コーヒーは嗜好品とはいえ、毎日飲むもの。その思いが豆のラインナップや価格に表れている(価格は2023年11月時点のもの)。

■ドリップバッグからもファンを増やす
さらに「Morrow珈琲」ならではだと感じるのが、ドリップバッグ商品の豊富さ、選択肢の多さだ。日常的にコーヒーを飲む人なら豆もしくは挽いた粉を購入するのが一般的ゆえ、ドリップバッグを購入するという選択肢はほぼないが、小郡市は福岡市のベッドタウンとして栄え、そこに暮らす家族間のコミュニティが形成されている地域。例えば、ママ友へのちょっとした手土産、野菜をもらったお隣さんへのお礼の品など、淹れる環境を選ばないドリップバッグは相当需要があるという。これもやはり“日常的にコーヒーを淹れて飲む習慣がなかった”三宅さんならではの観点。普段コーヒーは飲まなくても「ドリップバッグなら淹れて飲む」というシーンに寄り添うことができ、それを機にファンを増やすことに繋がっているのだと思う。

2000年代初頭に市場に出回り始めたスペシャルティコーヒー。約20年をかけて一般的になったとはいえ、さらに農園、豆の品種、生産処理などマニアックにコーヒーの銘柄まで追求するという人はごくわずか。あくまで「コーヒーはシンプルに好き。さらに、おいしければなおよし」というライトなコーヒーラバーが大半を占める中、大衆に求められるのは「Morrow珈琲」のような店。「Morrow珈琲」を訪れて、三宅さんの話を聞くにつれ、それを強く感じた。

■三宅さんレコメンドのコーヒーショップは「いづみや珈琲」
「佐賀市にある『いづみや珈琲』は老舗のロースタリーで、焙煎量も相当あると思います。私自身、開業前に店主、前山さんに大変お世話になりました。前山さんのコーヒーに対する考え方に感銘を受けましたし、なによりすごいバイタリティをお持ちで、常に前に進み続ける姿勢を尊敬しています」(三宅さん)

【Morrow珈琲のコーヒーデータ】
●焙煎機/富士珈機半熱風式5キロ、10キロ
●抽出/ハンドドリップ(メリタ アロマフィルター)
●焙煎度合い/浅煎り〜極深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム486円〜




取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)

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