
幼少期から絵を描くことが大好きで、漫画家として活動中のアヤさん。現在は看護師・看護学生向けの総合WEBメディア「ナース専科」にて看護師のエピソードを基にした漫画を連載している。今回は、ナース専科にて公開されているなかから「必要とされていたの?一つの命」を紹介するとともに、著者のアヤさんに本作の原稿を読んだ感想や苦労したことなどについても詳しく聞いた。
今から何十年も前の話、ある病院の内科病棟に10代のAさんが栄養失調で入院してきた。かなりの脱水症状のようで、入院当時は胃には何も入ってなかった。Aさんはきれいな顔立ちだが、どこか怯えたような表情だ。
病室にはいつも弟さんがお見舞いに来ていたので、看護師は「ご両親は面会に来られたことがないようだけど…」と聞いてみると、弟さんは暗い表情で「忙しいので」と一言だけ答える。普段は明るい弟さんだけど、両親の話になると表情が暗いように感じる。
ある日、Aさんの背中を拭いているとたくさんのあざがあることに気付き、Aさんに「このあざは?」と聞くと、「私…そそっかしくてよく転んでしまうんです」と笑いながら答える。このあざは転んでできるようなものではないので、きっと何か事情があるのだろうと思う看護師。
入院して数日経ったある日、食事を持ってAさんの病室に入ると、Aさんがベッドでぐったりしている。看護師はすぐに心臓マッサージをしてナースコールで応援を呼び、「Aさん!!がんばれ!!生きて!!」と大きな声で必死に呼びかける。
しかし、看護師の努力の甲斐もなく、Aさんはそのまま息を引き取り帰らぬ人となってしまう…。数時間が経過した頃、病院にAさんの両親がやって来た。なんと、ベッドに横たわるAさんを見て笑顔になる母親。
Aさんの両親は淡々と葬儀の手続きをし始め、看護師が「娘さんに着せたい服などありますか?」と聞くと、無表情で「特にありません」とだけ答える母親。Aさんの死後の処置は、同僚の看護師と一緒に対応した。
Aさんの死体を見ると、自然と涙がこぼれる看護師。遺体を両親に引き渡した後、彼女の忘れ物に気付いた看護師が両親にAさんの遺品について電話すると、「捨てておいて」の一言だけ。Aさんに対する両親の冷たい態度に、看護師は今まで本当に何もできることはなかったのかと後悔の気持ちが湧いてくる。
虐待だと決めつけることはできないが、当時は虐待に対する法律の整備や調査が不十分だったのではないかと感じる看護師。この家族にどんな事情があったかはわからないが、Aさんからは両親の悪口を一言も聞いたことは一切ないという。どうか虐待が早く発見されて、すべての子供たちが幸せに過ごせる世の中になってほしいと願うばかりだ。
本作以外にもさまざまなナース漫画を投稿しているアヤさん。本作の原稿を読んだときどのように思われたか聞くと、「こんなことがあっていいの?という信じられない気持ちと、実際にこんなことが起こってしまったという現実に胸が締め付けられる思いになりました」と話してくれた。
本作を描くにあたり苦労されたことについて伺うと、「何が原因でこのようなことになってしまったのか想像もつきませんが、一つわかることはとしては、やはり患者さんはご両親を全く恨んでいなかった…。むしろ、愛してほしかったのだろうなという内情が伝わってきたので、そのあたりの患者さんの気持ちが表現できるよう表情を意識しました」と語る。
「ナース専科」にて連載している漫画は、実際に看護師から募集したエピソードばかりだ。他の作品もあるので、気になればぜひ読んでみて!
取材協力:アヤ(@aokitajimaru)