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コーヒーで旅する日本/関西編|ヒト・モノ・コトが集まるコミュニティスペースとして、地元の人々の“お気に入り”の場所を目指して。「FAVORITE COFFEE」

  • 2023年5月23日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

関西編の第62回は、和歌山市の「FAVORITE COFFEE」。古きよきアメリカンテイストを再現したコーヒーショップは、意外にも地元の人気ラーメン店・丸田屋が手掛けるカフェ業態として開店。和歌山ラーメンの老舗・井出商店で修業を積み、弱冠20歳で独立したオーナー・丸田征吾さんは、東京のカフェシーンに触れたのを機に、2011年に「FAVORITE COFFEE」を開業。10年余を経て、すっかり界隈の憩いの場として定着している。“単なる飲食店ではなく人が集まれる場所”を目指した店は、街のコミュニティスペースとして、地元の人々にとってお気に入りの場所になるべく、今も進化を続けている。

Profile|清滝直也 (きよたき・なおや)
1987年(昭和62年)、和歌山県紀ノ川市生まれ、泉大津育ち。高校時代にアメリカに4年滞在し帰国後、大学で建築を学ぶ。一度は建築関係の仕事に就くも、25歳で料理人に転身。フレンチのシェフとして丹波のニッポニアの料理長などを経て、和歌山に戻る。知人を通して丸田さんとの縁を得て、2021年に「FAVORITE COFFEE」の店長に就任。

■人が集まり、コミュニティが生まれる店への憧れ
白亜の天守を擁する街のシンボル・和歌山城のお膝元。オフィスや商店が集まる繁華な街なかにあって、どしっと重厚な「FAVORITE COFFEE」の店構えは、ひときわ目を引く存在だ。キャメルカラーのレンガにアールの付いた大きな窓、温もりのあるクラシカルな佇まいは、古きよきアメリカのダイナーを思わせる。細部まで意匠を凝らしたこの店が、実は地元の人気ラーメン店が手掛けているとは、よもや思うまじ。「お客さんの回転が速いラーメン店にとって、ないものねだりというか、あるときから、いろんな人が集まって、コミュニティが生まれる店に憧れを持つようになったのが、そもそもの始まりなんです」というオーナーの丸田さんが、コーヒー店を開業するに至った原点には、あるカフェとの出会いがあった。

「創業からしばらくして、店作りの勉強も兼ねて大都市の店を見に行くようになったんですが、東京で紀行作家の高橋歩さんが開いたFREE FACTORYというカフェバーを訪ねたときの印象が強烈で。アーティストによる展示やライブ、トークイベントなども頻繁に開催していて、単なる飲食店ではなくおもしろい人が自由に集まれる場所にショックを受けて、和歌山にもこういう店があったらなと思ったんです」

丸田屋が創業した時期は、ちょうどシアトル系のカフェが和歌山にもでき始めた頃。多くの人が毎日のようにカフェに通う光景を不思議に思っていたそうだが、この体験を機に心境は一変。元々アメリカのカルチャーに関心が高かったこともあり、自らの“お気に入りを詰め込んだ空間”をイメージして、2011年、雑貨や本などのアイテムの販売と共に、イベントやライブも開催する複合型ショップ・FAVORITE TRUNKを岩出市にオープン。最初はコーヒーショップというより、ちょっと都会的な、非日常を楽しめるコミュニティスペースをイメージした場所だった。この時、「FAVORITE COFFEE」もスタートしたが、当時はショップの中の一部門という位置づけだった。

■純喫茶×アメリカンテイストの絶妙なハイブリッド
とはいえ、郊外の町に突如現れたカルチャースポットは、今までになかったスタイルがゆえに戸惑うお客も多く、受け入れられるまでに苦労したという。そこで、開店から3年ほどして、店のあり方を明確にするために「FAVORITE COFFEE」に屋号を改め心機一転。自家焙煎のコーヒーショップとして、再スタートを切った。

当初は、古きよき時代のコーヒー店をイメージして、純喫茶の定番を中心にメニューを提案。サイフォンで淹れるコーヒーも、その1つだ。「自分が子供の頃、喫茶店で大人が話している横で、サイフォンの動きを眺めていた記憶が残っていて。思い入れがある器具ですね」と丸田さん。その後、パンケーキから人気に火が付いたことで、徐々にアメリカンテイストのメニューも充実。いわば純喫茶とダイナーのメニューが共存するミクスチャーカフェとして、オリジナリティを発揮していった。

2017年に和歌山市内に2号店をオープンし、着実に支持を得てきた「FAVORITE COFFEE」。当初から、メニューは自家製にこだわりたいと、自家焙煎で提供してきたコーヒーは、2020年に焙煎士が独立したのを機に、改めて店に相応しい味わいを再考。各地のロースターから豆を取り寄せて試す中で、縁を得たのが神戸のLima Coffeeだった。訪ねたのは偶然だったが、同じサイフォンを使っていて、豆のクオリティとすっきりとしたクリーンな味わいに驚き、すぐに豆を仕入れることを決めたという。「FAVORITE COFFEE」では、定番のオリジナルブレンド2種と、月替りのブレンド、シングルオリジン各1種を提案。もちろん、豆はすべてスペシャルティグレードだが、深めの焙煎で親しみやすい味わいは、幅広い世代に好評だ。

■地元の人々にとっての“FAVORITE”な場所を目指して
さらに、充実した軽食、スイーツが揃うのも、この店の大きな魅力の1つ。「メニューに使う野菜や果物はほとんどが地元産。バーガーやホットドッグのバンズは、独立したスタッフのパン店から、うちのテイストに合わせたものを特注しています。ラーメン店のノウハウを生かして、自家製麵を使ったナポリタンもここならでは」という店長の清滝さん。なかでも、コーヒーのお供に人気の看板スイーツがアップルパイ。N.Y.・ブルックリンのパイ専門店のスタイルも参考にした一品は、ゴロゴロとリンゴが詰まった重量感も現地さながら。ただ、分厚い見た目に比して、果実の甘さを生かした優しい甘味で、ついもう1つと手が伸びる軽やかさ。また、季節替わりのスイーツは旬のフルーツを使って、タルト、パンケーキ、パフェ、フレンチトーストと多彩なメニューを展開する。

2023年2月からは、清滝さんが「ずっとやりたいと思っていた」というティラミスが新たにオンメニュー。「コーヒー店ならではのメニューとして定番ですが、ほかにない食感を出したいと思って。口の中で溶けてなくなるような、ギリギリの柔らかさを保つ生地を追求しました」という自信作だ。言葉通り、口に含むやするりとほどけ、ジュワッと染み出るコーヒーの香味が広がる、まろやかでビターな余韻は、男性客にもファンを増やしている。「軽食ではハンバーガー、タコス、ホットドッグが定番人気。特に、月替りのハンバーガーは、楽しみにきてくださるお客さんも増えています」と、老若男女を問わないメニューで、幅広い客層に応えている。

開店当初は、ラーメン店のブランドに頼りたくないと、あえて丸田屋とのつながりを出さず、新たなブランドとして一から立ち上げた「FAVORITE COFFEE」。スタッフのアイデアを積み重ねて、作り上げてきた店のスタイルは、10年を経て地元に徐々に定着。コロナ禍で自粛していた店内でのライブやイベントも、今後再開していく予定だ。
その上で、目指すべきは、流行に左右されず、地元で長く愛され続ける店作りにある。「今後、大きく展開することはないですが、普段使いしてくれるお客さんであふれるような店にしたい。飲食店というよりは、いろんなヒト・コト・モノが交わる場所として、地元の人が県外の方にも自慢できるような存在になれればうれしい」。原点であるFAVORITE TRUNKでイメージした、街のコミュニティスペースとして根付いたとき、ここは地元の人々にとっても、“FAVORITE”な場所になっているはずだ。

■丸田さんレコメンドのコーヒーショップは「GRANKNOT coffee」
次回、紹介するのは大阪市西区の「GRANKNOT coffee」。
「大阪に出かけた際は、堀江で街歩きや買い物をして、『GRANKNOT coffee』に立ち寄るのがお決まりのコースの1つ。店主の芝野さんは、開店時からひたむきにコーヒーに向き合っている姿勢が印象的で、飾らない芯の強さを感じます。地道にお店を続けて、しっかりローカルのコミュニティに溶け込んでいる一軒。今年、堺に焙煎所をオープンされたので、新しい展開が楽しみです」(丸田さん)。

【FAVORITE COFFEEのコーヒーデータ】
●焙煎機/なし(Lima Coffee)※岩出店にコーノ焙煎機2.5キロ(半熱風式)あり(未稼働)
●抽出/サイフォン
●焙煎度合い/中浅~深煎り
●テイクアウト/ あり(550円~)
●豆の販売/ブレンド3種、シングルオリジン1種、200グラム1400円


取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治




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