サイト内
ウェブ

いのちを支える保健予防課とは?「本当は生きたかった」後悔しないように、周りに信頼できる人を増やして少しずつ歩んでいく【作者に聞いた】

  • 2023年5月15日
  • Walkerplus

基羊介(もといようすけ)は、ある日、職場の上司が自殺したことをきっかけに脱サラをし、保健所の保健予防課に転職した。保健所では、自殺未遂や自傷行為をしてしまう人の心の支援をしている。生きづらさに追い詰められた人々の相談に応じながら、自殺志願者(とその家族)たちと共に苦悩しながら生きる意味を模索する、中原ろくさんの「死にたいと言ってください―保健所こころの支援係―」(双葉社)が注目を集めている。今回は作者の中原さんに本作を描くことになったきっかけや読者に届けたいことについて話を伺った。
※作品のテーマ上、センシティブな表現がありますので、閲覧にご注意ください。


■まずは「話して」欲しい。時間をかけてどうしたいか見つけていく
5年前からうつ病と言われた娘のことを、保健予防課に相談にきた母親。父親は10年前に他界し、現在は母親と留美の二人暮らしだ。

留美には軽度の知的障害があり、昔からいじめられたり、虐げられてきた。イジメの過去から「またいじめられるかも」「無視されるんじゃないか」という不安が強く、引きこもっている。

ーーまずは、本作を描いたきっかけを教えてください。

以前、私は自殺対策の仕事に関わっていたため、その経歴をもとに漫画を描いてみないかと担当編集に言われたことがきっかけです。

新人の精神保健福祉士の基 羊介(もといようすけ)は、保健予防課の先輩冴木と共に留美に会いにいくことにした。

ーー本作を描くにあたり、どのような取材を行いましたか?

全国の保健所、保健師、精神保健福祉士、看護師、そして「死にたい」と悩んでこられた当事者の方々に取材をさせていただきました。また、NPO法人全国自死遺族総合支援センター、日本精神衛生会、NPO法人OVAの方々にも取材させていただきました。

ーー第1話では、社会に上手く馴染めず自責の念で引きこもってしまった女性を描いています。こうした生きづらさを抱える人たちを支える役割をしているのが保健所ということでしょうか。

保健所を含む各自治体は、精神障害を抱えた方の支援をしたり、自殺対策を実施しています。精神疾患が疑われているけれど、治療につながっていなかったり、治療につながっていても地域で生活するのに何らかの問題(ひきこもり、DV、虐待、経済的な問題、近隣トラブル、ごみの問題など)を抱えている方の支援をすることが多いです。今回漫画で描いた女性は子供の頃からリストカットを繰り返しており、自殺してしまうリスクがあるということで保健所が介入することになったケースです。

ーー「死んだら『本当は生きたかったのに』と後悔することもできないでしょう?」というセリフが響きました。コメントを見ると、多くの人たちの気づきになっているようですが、いかがでしょうか。

多くの方々に読んでいただき、とてもうれしいです。「死にたい」と悩んでいる方は「生きたい」と「死にたい」の狭間で心が揺れ動いているといわれています。「死にたいくらい現実で生きていくことが辛すぎる」状態なのに、安易に「生きて」というのは本人にとって地獄です。でも、死んでしまうとその人の時間は永遠に止まってしまいます。死にたい気持ちを抱えながら、周りに信頼できる人を少しずつ増やして、ゆっくりゆっくり歩んでいくことで、いつか地獄だったところに小さな明かりが灯るかもしれない。前は死にたい気持ちが10だったのが、0じゃないけど4や5くらいにはなるかもしれない。作中の冴木が言っているように、「だからとにかく死ななきゃいいんです」ということを伝えたくて描きました。

ーー読者の皆様にメッセージがあればお願いいたします。

作品を読んでいただき、ありがとうございました。この作品を通して、身近な方から「死にたい」と言われたとき、自分ならどうするか考えてもらうきっかけになったらうれしいです。また、もし気に入っていただけたなら、周りの方に勧めていただけるととても喜びます。これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。




「普通」になりたいと言う留美。働いて、お金をもらって、ご飯を食べて寝る。そんな当たり前のことをしたいと願う。辛いと思っていた毎日から目標ができた瞬間だった。「働けない」と決めつけていた母親も留美が前向きになったことで、応援する姿勢へ変わっていく。第三者が関わることで、行き詰まった家族に少しずつ変化が起きた。本作は現在、2巻まで発売中。誰かにとって支えになる一冊になって欲しい。

■取材協力:中原ろく(@rokurockvi)

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
Copyright (c) 2024 KADOKAWA. All Rights Reserved.