サイト内
ウェブ

コーヒーで旅する日本/九州編|日本一の称号に頼らず、本質を求めて。2人で歩むことを決めた「珈琲カド」

  • 2022年12月26日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。
なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第57回は、熊本市南区城南町にある「珈琲カド」。郊外にある住宅の一角を焙煎所兼店舗にし、車でしか行けないような立地だ。「珈琲カド」のスタートは無店舗にて2021(令和3)年11月から。実店舗がオープンしたのが2022(令和4)年1月とオープンしてまもないが、すでに熊本のコーヒー好きの間では知られた店になっている。その理由の一つに店主の久保田洋平さんの経歴がある。ジャパン ハンドドリップ チャンピオンシップ2017の優勝者。つまりハンドドリップの技術を競うコンテストで日本一の栄冠を手にしたということで、九州はもちろん全国的にその名は知られている。ただ現在、久保田さんはその経歴を表立ってアピールしていないという。そこにはコーヒーとは違った側面から飲食、サービスを突き詰めてきた、共同経営者の樋口良太さんの存在が大きく関係している。「珈琲カド」が目指すコーヒーに、業界やトレンドに追従しない新たな挑戦を垣間見た。

Profile|久保田洋平(くぼた・ようへい)
1989(平成元)年、熊本県熊本市生まれ。福岡市内のダイニングバーで働いたのが飲食の世界の入口で、その後、熊本市の老舗喫茶店、岡田珈琲でバリスタとして約10年腕を磨く。2017年のジャパン ハンドドリップ チャンピオンシップで優勝。2020(令和2)年春に岡田珈琲を退職。2021(令和3)年11月に「珈琲カド」を立ち上げる。

Profile|樋口良太(ひぐち・りょうた)
1989(平成元)年、熊本県熊本市生まれ。久保田さんとは小学校からの幼馴染で、社会人になってから、より親交を深めた。ホテルマンを養成する専門学校に通いながら、フレンチレストランでギャルソンを経験。その後、関東で就職し、星野リゾートが運営する宿泊施設や横浜ロイヤルパークホテルなどで、サービスマンとしての技術、知識を蓄える。2022(令和4)年1月、「珈琲カド」が実店舗を開くタイミングで、久保田さんの誘いもあり、ともに働き始める。

■焙煎がやりたいという思いを形に
ハンドリップチャンピオンの久保田さんが店を開業したと聞いた時、勝手なイメージで昔ながらの喫茶店、もしくは久保田さんが淹れたコーヒーを絶対的な柱としたカフェを想像した。ただ、「珈琲カド」を訪れると、自宅に併設した小さなスペースで、店はどちらかというとコーヒースタンドのような雰囲気。これには正直驚かされた。しかもドリンクを提供するよりも豆売りがメインだという。久保田さんの経歴を考えるならば喫茶店やカフェが正攻法のような気がするが、なぜあえて豆売りを柱にしたのか。

「前職の喫茶店では約10年勤めました。その間、私がやってきたのは、ただひたすらお客さまにおいしいコーヒーを淹れることと、お客さまにとって居心地のいい空間を作ること。焙煎に関しては一切ノータッチだったんですね。コーヒーを毎日淹れていると、自然と焙煎をしてみたいと思うようになり、焙煎に挑戦するために独立を考えました」と久保田さん。

退職金で購入できる中古の焙煎機を探し、手に入れたフジローヤルの半熱風式の1キロ窯。これが「珈琲カド」の第一歩となった。焙煎経験はゼロだった久保田さんだが、焙煎を始めて1年を経た今、着実に知識・技術は磨かれている。淹れてもらったハウスブレンドのカドブレンドは豆由来のフレーバーを強く感じられ、香り高く、バランスもとても良い。やはり一流のバリスタとして“おいしい”“おいしくない”、“バランスに秀でている”“個性が際立っている”といった確かな味わいの指標があるのは大きいと感じる。

■コーヒーの本質ってなんだ?
「珈琲カド」ではブレンドがメイン。ハウスブレンド2種とシーズナルブレンド1種を基本用意し、スペシャルビーンズと銘打ったシングルオリジンなどもスポットで出している。これは久保田さんの考えによるところもあるが、その商品ラインナップのバランスや焙煎度合いに関しては、共同経営者の樋口さんの多様な経験も生かされている。久保田さんは「樋口はコーヒー業界に身を置いていたわけではないですが、だからこそ逆に私とは違う視点を持ってアプローチしていると感じています。長くホテルやレストラン業界にいたことから、ワインに造詣が深いのも強み」と評価。

そんな樋口さんは「コーヒー業界のここ数年の流れは、いち消費者として見てきていて、なんとなく違和感を感じていたのが正直なところなんです。なんというか、スペシャルティコーヒーが持つフレーバーといった部分に重きが置かれすぎて、そこが独り歩きしているような…。時として浅煎り一辺倒になっていた時期もありましたが、それもやはり疑問でした。だから、久保田にはトレンドに左右されない本質を大切にした味作りが必要なのでは、とアドバイスしました」と話す。

そうやって生まれたのが2つのハウスブレンドだ。中煎りのカドブレンドはとにかく酸味・甘味・コクのバランスに秀でた味わいを意識。そこに樋口さんが持っているワインの知識や意見も参考にしながら、エチオピアナチュラルをベースにするなど華やかさもプラスしている。もう一つのハウスブレンドがキッサテンブレンド。こちらは喫茶店のコーヒーにリスペクトを込めて、ローストによって生まれるコクを重視しながら焙煎している。ともに“日常的に飲む”ということに重きを置いており、これからも「珈琲カド」の名刺代わりになるようなブレンドにしていきたいと、その存在意義は明確だ。

■真逆の2人だからこそできること
久保田さんはジャパン ハンドドリップ チャンピオンシップで日本一になるぐらい一つのことを突き詰めるタイプ。一方、樋口さんはさまざまな場所で多様な経験をしてきたこともあり、俯瞰して冷静に物事を見ることができる。ゆえに久保田さんは「私一人だったら、きっと考えすぎて行き詰まることもあると思うんですが、樋口が違った見方、考え方を提案してくれることで、店としては格段に広がりをみせていると思っています。実際、店を開いてから、わざわざこんな辺鄙な場所まで豆を定期的に買いに来てくれる常連さんもついてくださっていますし、卸し先も少しずつ増えてきています。それって当店のコーヒーを日常的に飲みたい、提供したいと思ってくださっている証だと私は感じていて」と話す。

もうすぐ実店舗をオープンして丸1年が経つ「珈琲カド」。店にはジャパン ハンドドリップ チャンピオンシップの優勝者の証であるトロフィーは置かれていない。これもまた樋口さんのひと言があったから。

「実績としては素晴らしいし、この店を初めてのお客さまに知っていただく上では大きなフックになる。だけどそれって焙煎・豆売りを主とした『珈琲カド』が目標とする、コーヒーの本質の追求とは真逆のアプローチにならないか」。小学校からお互いをよく知り、さらに社会に出てからも親交を深めた2人の信頼関係の深さ。お互いをリスペクトし合っているからこそできる日々のディスカッション。久保田さんは樋口さんという最高のパートナーを得て、「珈琲カド」だからこそできるコーヒーの楽しみ方の提案を、これからも続けていく。

■久保田さんレコメンドのコーヒーショップは「小さな焙煎所 花待ち雨珈琲」
「福岡市・六本松にある『小さな焙煎所 花待ち雨珈琲』。店主の安川さんは2019年のジャパンハンドドリップで4位、さらに2020年には見事準優勝に輝くなど、確かな技術を持つバリスタです。少し前にイベントで安川さんがドリップしたコーヒーをいただいたのですが、これがすごくおいしくて!こんな味わいを引き出せるのかと、正直驚きましたね。会う度に刺激をいただくバリスタの一人です」(久保田さん)

【珈琲カドのコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル半熱風式1キロ
●抽出/ハンドドリップ(Kalitaロト)
●焙煎度合い/中煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム850円〜




取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)

※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

※記事内の価格は特に記載がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
Copyright (c) 2024 KADOKAWA. All Rights Reserved.