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コーヒーで旅する日本/九州編|女性ロースターが営む自家焙煎店「豆乃木」。香りを大切に、ひたむきに焙煎と向き合ってきた16年

  • 2022年10月17日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第47回は、福岡県北九州市にある「豆乃木」。目の前に足立山を望む小倉北区の郊外にあり、住宅街になじんだ小さな豆売り専門店だ。開業したのは2006(平成18)年11月。店主兼ロースターの板倉寛美さんは会社員時代に感じた“コーヒーがもたらす和み”をきっかけに、ふとカフェ巡りを始め、自然な流れで焙煎に興味を抱いた。昔から「コーヒーショップをやりたい」と思っていたわけではなかったが、コーヒーや焙煎の世界に魅了されてからは一気に惹き込まれた板倉さん。16年にわたり、北九州市で愛される「豆乃木」の魅力を探ってみたい。

Profile|板倉寛美(いたくら・ひろみ)
福岡県北九州市生まれ。高校卒業後、ケーキショップの店員として約10年勤務。その後、事務員としておよそ3年働く中で、趣味でコーヒーショップ巡りを始める。焙煎に興味を抱き、とある雑誌で偶然目にした東京のカフェ・バッハの2日間の焙煎セミナーに参加。右も左も分からなかったが、純粋におもしろさを感じ、本格的に焙煎を学ぶために福岡市・平尾の日々ノ珈琲の焙煎教室に約半年間通う。2006(平成18)年11月、「豆乃木」を開業。

■女性だからと軽んじられたくない
「豆乃木」の店主兼ロースターの板倉寛美さんは、とにかく勉強熱心だ。とてもマジメで、2006(平成18)年に店を開業してから16年、常に真摯にコーヒーと向き合ってきた。米国スペシャルティコーヒー協会のルールに則ってコーヒーの味わいを評価できることを証明するQグレーダー、J.C.Q.A.(全日本コーヒー商工組合連合会)認定のコーヒーインストラクター2級など、さまざまな資格を取得してきたのはもちろん、2010(平成22)年、2011(平成23)年には、全国のエリアごとにチームを組み、焙煎技術を競うロースト マスターズ チーム チャレンジのメンバーの一員として競技会に参加。すべては、自身の知識を深め、技術を磨き、焙煎を通してよりおいしいコーヒーを多くの人に届けるためだ。

「焙煎に興味を抱いた時、『女性でも焙煎ができるのか』ということを気にしていたんですね。ただ、カフェ・バッハさんのセミナーでも、日々ノ珈琲のオーナーさんも、『まったく問題ない』と言っていただき、焙煎のことをちゃんと勉強したいという思いを強くしました。私が理想とした味わいは日々ノ珈琲さんのコーヒーで、開業を考えている人向けに焙煎指導をしていると聞いて、すぐに受講を決めました」と板倉さん。

板倉さんの焙煎の土台を築いた日々ノ珈琲が、東京にある堀口珈琲が運営するリーディングコーヒーファミリー(LCF)から生豆を仕入れていたことから、「豆乃木」開業に際し、堀口珈琲に生豆を仕入れさせて欲しい旨を伝えた板倉さん。「堀口さんから『一度お店に来て、セミナーを受けてみませんか?』とお誘いいただき、その翌週には東京に向かいましたね。今はLCFに加盟するのはハードルが高いのですが、私がお願いした時期はメンバーを募っていて、タイミングにも恵まれました。以来、ずっと生豆の仕入れはLCFにお世話になっています」

■香りに重きを置いた焙煎
一方で、開業に際し、日々ノ珈琲の焙煎指導で使っていた焙煎機とは違うメーカーのものを選んだ板倉さん。「自分なりの味わいを表現したいという考えから、ラッキーコーヒーマシンの直火式を選択したのですが、最初は苦労の連続でした。メーカーが違うだけで、こんなにも焼き上がるコーヒーの味わいも変わるのか、と…。日々ノ珈琲さんと同じ原料なのに、自分で焙煎すると、私が理想だと思っている味わいが表現できない。本当に毎日悩んでいましたね。ただ、ラッキーコーヒーマシンのグループ会社であるUCCのご担当者さんがとても親身になってくださいまして。たくさん相談にのっていただき、少しずつ自分が理想とする焙煎に近づけることができました」と、板倉さんは焙煎を始めた当時を振り返る。

「焙煎のプロファイルの大枠はできましたが、もっと研究して、ブラッシュアップできる点はたくさんある」と話すように、店を開いて16年経った今も、よりおいしいコーヒーを焙煎するために日々努力を重ねる板倉さん。大切にしているのは豊かな香りだ。「コーヒーの第一印象はやはり香りだと思うんです。生豆が本来持っている香りのポテンシャルを、熱を加えることでどれだけ消さずに、ひいては引き出せるか。どんな豆でもこの点を最も重視しながら焙煎しています。最初に感じる香り、余韻に残る心地よい香り。そして、コーヒー豆が持つ甘さ。飲んだ方にそんなことを感じていただけたらうれしいです」

その言葉通り、板倉さんが焙煎したコーヒーは深めの焙煎でも、豆ごとに香りの個性を感じられる。ただ、際立った個性というよりも、どこか優しく、ホッとする印象。これは女性ロースターならではかもしれない。

■今の自分にできる精一杯を
「豆乃木」は豆の種類が多い。同じ産地の焙煎度違いを合わせてストレートは20種以上、ブレンドは定番5種に加えて、毎月1つは必ず出すシーズナルブレンド1、2種が基本的なラインナップだ。「日常的に通っていただくお客さまでも、毎回違う豆を購入されることが多いんです。それもあり、できるだけ種類は多めに、その季節をイメージしたシーズナルブレンドも出すようにしています」。毎月違ったブレンドを作るのはきっと大変だ。ただ、そうやって新しいことに挑戦を続けてきたことで、板倉さんのロースターとしての知識、技術は磨かれてきたのだろう。

現在は豆売りに特化している「豆乃木」だが、板倉さんはカフェを開くこともひそかに夢見ている。「私は旅行が趣味で、理想とするのは由布院 玉の湯に併設したティールーム、Nicolのような空間。窓の外に緑が広がり、いつまでも長居したくなるようなカフェをいつかは営んでみたいですね。ただ、背伸びをしすぎてもダメ。お客さまがどれだけ気持ちよく買い物いただけるか。また来たいと思っていただけるか。16年間、それだけは忘れないように店を営んできました。今後も今の自分ができる精一杯をお客さまにお届けしていきたいですね」と笑顔で話す板倉さん。

板倉さんと話していると、ほんわかとした雰囲気の裏側に、凛とした強い意思も端々に感じる。その思いの強さこそ、「豆乃木」が地元で長く愛される理由かもしれない。

■板倉さんレコメンドのコーヒーショップは「UNITED FLAG COFFEE STAND」
「熊本県小国町に旅行に行った際に立ち寄った『UNITED FLAG COFFEE STAND』。偶然にもオープン当日だったこともあり、記憶に残っています。スタッフさんもとても良い方で、また小国町に行った際には会いに行きたいですね」(板倉さん)

【豆乃木のコーヒーデータ】
●焙煎機/ラッキーコーヒーマシン直火式4キロ
●抽出/ハンドドリップ(KONO名門フィルター)
●焙煎度合い/中煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム788円〜




取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)

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