八百屋さんの棚の中にまぎれていた、ハムスターのようで野菜のような謎の生き物。小さな手足でキュートな仕草を見せながら、寝床は鉢植えの土の中。pixivコミック月例賞(2022年8月投稿分)の優秀賞を受賞したハマサキ(@hmhm_hmsk)さんの漫画「べじハム」は、野菜とハムスターが融合した不思議な「べじハム」の日常を描いたフルカラーの4コマ漫画だ。
■ペット？それとも鉢植え？八百屋の野菜の中に紛れていた「べじハム」との暮らし
本作は、ハムスターのようでありながら野菜の特性を持った生き物「べじハム」と、自宅で“育てて”いる女性との日々を描いた作品だ。
第1話ではべじハムと女性の出合いが描かれる。とある女性が食材の買い物に立ち寄った時のこと。購入したジャガイモの中に1匹(？)だけ紛れていたのが、ジャガイモとハムスターがくっついたような生き物「じゃがハム」だった。
女性は他のジャガイモと同じくピーラーで皮を剥こうとするが、まな板の上のじゃがハムはけなげに抵抗。力を込めて自分の頭からジャガイモの芽を発芽させ、毒があることをアピールする。
それを見た女性は皮むきをやめると、鉢植えに土を入れ、じゃがハムをそこに植えることに。それから女性は、まさに植物を育てるように水や日差しを与えて過ごし、じゃがハムも鉢植えの中で快適な暮らしを手に入れる。
しばらくしたある日、じゃがハムが女性に何事かをアピール。外に出たいのかと女性はじゃがハムを掴むも、なぜかなかなか抜けない。力を入れて引っこ抜くと、じゃがハムの足元からは子芋が伸びており、自分を育ててくれた女性にジャガイモをプレゼントして恩返しするのだった。
■一見突飛な組み合わせでも…動物好き作者がこだわった「ハムスター要素」
その後も女性はひょんなことから「ねぎハム」や「にんじんハム」を見つけ、自室で育てることに。女性との関係はもちろん、べじハム同士も仲良くなっていく様子が描かれる。作中世界では本にまとめられるほど「べじハム」が認知されている一方、野菜同士の厳しい掟が見え隠れするシーンもあり、ほのぼのとかわいらしい姿だけでなく、不思議な世界観も気になるシリーズとなっている。
本作の作者は、『犬、バージンロードを歩く』(芳文社)や『根津さんの恩返し』(キルタイムコミュニケーション)などの作品がある漫画家のハマサキさん。これまでもネズミや犬といった動物を作品の主要キャラクターとして描いてきたハマサキさんに、「べじハム」制作の裏側を訊いた。
――野菜とハムスターが合体した「べじハム」がとてもかわいらしいです。本作を描いたきっかけを教えてください。
「以前からナガノさんの『ちいかわ』に憧れていて、いつかキャラクターものを作りたいと思っていたので始めてみました。深夜に友達と画面を共有をして『これはどう？』とキャラデザインを見せて意見をもらいつつ、シンプルなハムスターを試行錯誤していました」
――野菜をモチーフにするアイデアはそうした過程で生まれたのですか？
「その当時、着ぐるみを着た動物のかわいさにハマっていたんです。それをデザインに試しているうちに“野菜の着ぐるみを着たハムスター”を思いついて今のキャラデザができました。その瞬間、ストーリーもぶわわっと浮かび、友達にも『かわいい！』と言ってもらえたので、べじハムを描くことを決めました」
――ちなみに、野菜の中でネギ、ニンジン、ジャガイモを選んだ理由は？
「配色と育てたことがある野菜で決めました。なんとなく黄色、オレンジ、緑にしたかったので、その配色で思い浮かぶ野菜のうち、実際に育てた経験でエピソードが浮かんだ野菜を選んだところジャガイモ、ニンジン、ネギになりました」
――ハマサキさんは『根津さんの恩返し』でネズミを、pixivに掲載している「執事ハムスター」でもハムスターをキャラクターとして描かれています。ハムスターやネズミへの思い入れは深いのでしょうか？
「唯一飼ったことがある動物がハムスターでした。動物全般好きですが、それ以来ハムスターを含むげっ歯類には特に強く惹かれます」
――これまでも多くの動物を作品に描かれています。「べじハム」を描く上で動物としての描写でこだわったり変化した部分はありますか？
「正直、『べじハム』は顔以外ハムスター要素がないと思われていると思います(笑)。でも、私が思うハムスターのかわいい要素、たとえば顔はもちろん、ずんぐりした全身のフォルムであったり、むちっとした手足などを無理やり盛り込んでいるので、そこは毎回意識して描いています」
――「べじハム」の今後の展開や、目標がありましたら教えてください。
「毎回なぜかカオスな展開になってしまうので、ちゃんとゆるくてかわいい展開を描きたいです。目標は、だいぶおこがましいのですが、ガチャガチャの商品になることです(笑)」
取材協力：ハマサキ(@hmhm_hmsk)
