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コブの中身は?ツバのニオイが強烈なワケとは?フタコブラクダのさまざまな謎に迫る!【会えなくなるかもしれない生き物図鑑】

  • 2022年11月4日
  • Walkerplus

野生を身近に感じられる動物園や水族館。動物たちは、癒やしや新たな発見を与えてくれる。だが、そんな動物の中には貴重で希少な存在も。野生での個体数や国内での飼育数が減少し、彼らの姿を直接見られることが当たり前ではない未来がやってくる、とも言われている。

そんな時代が訪れないことを願って、会えなくなるかもしれない動物たちをクローズアップ。彼らの魅力はもちろん、命をつなぐための取り組みや努力などについて各園館の取材と、NPO birthの久保田潤一さんの監修でお届けする。今回は、静岡県裾野市の富士サファリパークでフタコブラクダを担当する伊藤良太郎さんに、お話を聞いた。



――富士サファリパークは、富士山のふもとに広がる、日本最大級のサファリパーク。1980年に開園し、ライオンやチーター、ヒョウ、ゾウなど、多彩な動物たちが、富士山の見える豊かな自然の中で飼育されている。

■広大な敷地でさまざまな動物を混合展示
さまざまな生き物を一緒に飼育する混合飼育を基本としていて、それぞれの動物のゾーンが広いのが特徴です。トラなどの肉食獣のスペースも広く、動物にとっては暮らしやすい環境だと思います。フタコブラクダは一般草食ゾーンで、キリンやシマウマ、ラマなどと一緒に暮らしています。開園翌年の1981年から飼育しているので、すでに40年以上の実績がありますね。

現在はオスがゴビ(20歳)、ソオ(10歳)、トノ(9歳)、ハリ(4歳)の4頭、メスがルブ(21歳)、サラ(21歳)、カカオ(9歳)、カラ(4歳)、ココア(3歳)、ラブ(2歳)の6頭の、合計10頭。ソオとカカオは他園からやってきたペアで、ココアはカカオの仔。ラブはルブの仔と、繁殖にも成功しています。

フタコブラクダの寿命は、飼育下では30年程度と言われています。ゴビやルブ、サラはラクダの中では中年より少し上ぐらいの部類です。繁殖は4歳から20歳くらいまで可能と考えられています。これからはカラとハリに期待がかかりますね。

■フタコブラクダとヒトコブラクダ、何が違う?
――ラクダを象徴する特徴はその背中のコブ。コブが1つのヒトコブラクダと、2つあるフタコブラクダには、他にどんな違いがあるのだろうか。

まず、性格に違いがあります。ヒトコブラクダとフタコブラクダはいずれも家畜として飼われている動物で、比較的温厚だと言われています。両者を比較すると、ヒトコブラクダの方がやや攻撃的で、フタコブラクダはより温厚だとされます。

生息域はフタコブラクダが中国の北西部やモンゴルなどに分布。ゴビ砂漠などに生息しています。ヒトコブラクダはアフリカに生息していましたが、すでに野生個体群はなくなっていると言われています。

そして、一番の違いは体格です。ヒトコブラクダは足が細長く、すらっとしているのが特徴。フタコブラクダは骨格がしっかりしていて、脚が太い。体重も重く、ずっしりしています。

■背中のコブには何が入ってる?
――誰もがラクダと聞いて思い浮かべる背中のコブには「水が入っている」と言われることもあるが、実際には何が入っているのだろう?

そう思われがちなコブですが、実際は結構堅い脂肪の塊が詰まっています。コブにエネルギーを蓄えておくことで、1週間くらいは飲まず食わずでも生きていけるそうです。砂漠やモンゴルの草原など、野生下の厳しい環境で生き延びるためのエネルギーが蓄えられているということですね。もちろん、エサを食べないとコブはどんどん小さくなっていきます。

――飲まず食わずでも何日か過ごせるフタコブラクダ。気になるのは、園内での食生活だ。

水を飲むときは一度に大量に、一気に飲みます。体が大きいので、ためておけるんです。エサはカナダ産のチモシーという、イネ科の牧草を干したものを主に与えています。園内には樹木や草が生えているので、そういったものも食べますが、主な食べ物は干し草です。

だいたい1頭当たり1日10キロほど、かなり大量に食べます。昼間は群れ単位で、1回につき15~20キロの牧草を数回与え、残りは夕方に動物舎へ戻ってきた時に与えています。

■夏のラクダは坊主頭?冬毛と夏毛でこんなに違う
――コブのほかにも、厳しい自然環境に耐えられる体の仕組みなどはあるのだろうか。

ラクダのもう一つの特徴として、寒暖差に強い点があります。ラクダは体温調節できる幅が広く、34~40度ぐらいで自動的に体温が変化。暑い時、人間は汗をかいて体温を調節しますが、ラクダは体温を上げることで汗をかかないようにし、体内の水分をなるべく逃さないようにして、暑さに耐えます。体温が40度以上になった時、初めて汗をかくそうです。

一方、冬の寒さは体毛で調節。冬毛はかなり長く保温性と保湿性に優れているため、厳しい寒さでも体温を維持できます。富士サファリパークは冬場、マイナス5~6度くらいになったりしますが、それくらいの寒さにはビクともしません。

なお冬と夏では、見た目も結構変わります。冬は毛がすごく長いのですが、夏になると坊主頭くらいの短さに。同じ動物なのに印象が随分違うので、冬も夏も両方見に来ていただきたいですね。

冬毛から夏毛に代わるとき、うちの園では岩組みや樹木に体をこすりつける姿が見られます。冬毛を落とす目的のほかに、どうやらかゆみもあるようです。大きい体をこすりつけるしぐさが、一生懸命で愛らしいんですよ。ほかの動物も体をこすることはありますが、フタコブラクダほど一生懸命になる動物はいませんね。

■生まれてすぐ起立することが、赤ちゃんには一番大事
――同園ではこれまで41年にわたりフタコブラクダを飼育する中で、何度も繁殖に成功している。フタコブラクダの育児はどのようなものだろうか。

ほかの草食動物と変わりませんが、一番重要なのが生まれてからすぐに起立すること。出産直後は体が濡れているので、母親が体をなめて乾かしたり、刺激を与えて子供を立ち上がらせます。立ち上がらせた後は子供も乳を飲みたいので、自力で母親の乳房を探しますがその際、親が足を開いたり、顔で子供をつついたりして誘導し、授乳させます。

当然ですが、親が自分の子どもを育てるのが最も良い形なので、なるべく自然に自分の子供と認識させるため、飼育員は立ち上がらせる時の手助けや授乳時の導きなど、サポートを少々行う程度にとどめています。

ただ、メスのカカオは初産の時、産んだ仔のココアを自分の子とは認識しているものの、授乳させるのが嫌だったのか、子供を近づけても反抗したり、離れたりしたため手こずりました。なので、ココアに関しては人工乳を作り、私たちが人工哺育をすることに。

それでもなるべく母子を一緒にいさせたいので、母親をエサでおびき寄せて、その間は仔を近くにいさせて授乳させるようにしていましたね。このカカオとココアは例外でしたが、カラとハリやラブなどは、自然に授乳に成功しているので、比較的スムーズに育児ができました。

■フタコブラクダはなぜ唾を吐く?その意外な目的とは
――このココアの人工哺育の際、伊藤さんはカカオから思わぬ攻撃を受けた。

フタコブラクダに決まった天敵はいないのですが、野生下ではたまにオオカミに襲われることが。その際に防衛本能として、自分の身を守るために唾を吐きかけるそうです。この唾がただの唾ではなく、胃から出てきた胃液なのですごく臭い。敵に悪臭をかけることで自分のニオイを紛らわせたり、相手をひるませた隙に逃げたりします。

私はどうしても母親の乳を搾りたかったので、ほかの何人かで乳を搾ろうとしていた時に、唾を吐きかけられました。滅多に起きることではないのですが、このときはあまりの臭さに閉口しました。制服についた匂いはなかなか取れず、長い間着られませんでした。恐らく、近づきすぎるとそういう行動に出るのだと思います。パーソナルスペースに踏み込むと、それに反応して唾をかけたのかなと。普段、動物園でラクダを見る場合には十分離れているので、唾を吐きかけられる心配はないと思います。走って急に近づくと、反応してしまう可能性はありますが…。

――たまには唾で攻撃するフタコブラクダだが、性格は温厚でおとなしい。ただ、時に好奇心に突き動かされることがある。

基本的にラクダはおとなしい動物ですが、何か気になることがあると、そちらに向かっていってしまうことがあります。ほかの動物を追いかけまわしたり、お客様の自動車が気になったら、それを舐めに行ったり、エスカレートすると体をこすったりと、思わぬ行動に出る場合も。何かしら行動に出そうなときは飼育員がエサで釣って止めるのですが、その前に走り出すこともあるので、見極めがなかなか難しいところです。

■広い飼育スペースで、できるだけストレスを与えないのが健康の秘訣
――飼育員にとってはなかなか大変そうなエピソードだが、ラクダの立場になればかなり自由に暮らしていると言えるだろう。

日々の健康管理で気を付けているのは、ストレスを与えないこと。なるべくエサや水、行動は制限しないようにしています。飼育スペースも可能な限り広くとり、ラクダが思い思いに動けるように努めています。ただ、エサの食べすぎはよくないので、夜は与える量を決めています。広い場所にいるため、運動不足になる心配はなく、足の爪も伸びすぎたりはしませんね。

フンの量や形、残っているエサの量などは、健康を管理するために毎日チェック。監視できる場所では車で近づいて個体に傷がないか、鼻水が出ていないかなども見ています。体調を崩すこと自体が少ないので、採血などはあまりしていません。

■野生下では絶滅の危機。毛皮を狙った乱獲などもその原因に
――古くから家畜として人間と共生してきたフタコブラクダ。温厚な性質に加え、頑健な体質もその理由の一つと言えるだろう。しかし、野生下では非常に個体数が減少し、絶滅が危惧される動物に登録されている。

主な原因の一つが乱獲。昔の話なので、乱獲の理由はよくわかりませんが、毛皮の利用や、家畜にすることが目的だったのではないかと考えられます。もう一つの理由が、農地や牧草地の拡大による生息域の減少。家畜としてのフタコブラクダは増えていきましたが、野生種としては減少していったと言われています。

現在、各園館で行われている繁殖が、野生個体の生息数の増加に直接繋がることはないかもしれません。しかし、動物園での飼育を通して、野生種の繁殖につながる新たな知見などが確認できれば、間接的にでも野生個体の保全につながると考えています。

■ラクダの間近でエサを与えられる「エサあげ」をぜひ体験して
――野生では滅多に会えないであろうフタコブラクダだが、富士サファリパークでは「ジャングルバス」に乗車してエサを与える「エサあげ」体験ができる。もちろん、フタコブラクダも「エサあげ」の対象だ。

直接、手でエサを与えるわけではなく、受け皿にエサを入れて倒すと、バスの外にいるラクダが食べられる仕組みになっています。私たち飼育員はサファリゾーンで、車に乗って仕事をしていることが多いので、お客様と直接お話しする機会は少ないのですが、ジャングルバスの「エサあげ」体験はお客様の様子が見えたり、歓声が聞こえたり、ラクダをよく見てくださったりするので、そんな時には飼育していてよかったな、と感じます。

フタコブラクダは体が大きいので、初めて見る方はすごく驚かれます。でも、顔立ちは意外にかわいらしい。特にまつげが長くて目がくりくりしているところが魅力的ですね。

砂漠で砂埃をよけるために、鼻の穴も自在に閉じたり開いたりできます。カタチも結構キュート。こうした体の部位やコブの大きさ、体の大きさなどをじっくり見ていただけると、愛着がわいてくるのではないでしょうか。生命力や力強さがあふれるフタコブラクダを、ぜひ見に来ていただけると嬉しいです。

取材・文=鳴川和代
監修=久保田潤一(NPO birth)

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