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コーヒーで旅する日本/関西編|深いブルーは明石の海をイメージ。「Navy Coffee Roaster」が地元に広げるスペシャルティコーヒーの波

  • 2022年7月12日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

関西編の第21回は、兵庫県明石市の「Navy Coffee Roaster」。店主の大濃さんは、対岸の淡路島出身。一度は洋菓子職人を志すも、小学生時代からのコーヒー好きが高じてコーヒーの道へ転身。小学生時代からのコーヒー好きという大濃さんが始めた、小さなスタンドから、スペシャルティコーヒーの波が明石に広がりつつある。

Profile|大濃功一(おおのこういち)
1983(昭和58)年、兵庫県淡路市生まれ。高校卒業後、製菓専門学校に進むも、芦屋のRIO COFFEEでスペシャルティコーヒーに出合い、開業を志す。サービススキルを磨くため、スターバックス コーヒー(以下、スターバックス)に約6年勤務する傍ら、コーヒー関連のセミナーなどに通い、独学で知識と技術を学び、2020年、明石市に「Navy Coffee Roaster」をオープン。

■自分が感じた同じ驚きを、多くの人に伝えたい
神戸から伸びる国道2号線が明石の市街地へと入る手前。日本標準時の子午線を示す塔時計が見え隠れするころ、小さなコーヒースタンドが現れる。「Navy Coffee Roaster」の名の通り、濃紺に塗られた店構えは、「自分が好きな色でもあり、港町・明石の海からイメージしました」と店主の大濃さん。小学生にしてインスタントコーヒーのカフェオレを飲み始め、幼少時から父親に喫茶店に連れられて、サイフォンでコーヒーを淹れる様子などを見ていたという、根っからのコーヒー好き。高校に入る頃には、自宅でハンドミルを使ってドリップするまでになり、コーヒーは生活の一部になっていた。

当時から、先々は店を持ちたいとの思いを抱き、卒業後は製菓の専門学校に入り、その傍ら洋菓子店やカフェを巡っていた大濃さん。ところが、やがて気になりだしたのは、お菓子ではなくコーヒーの方だった。「どのお店もケーキはこだわりがありましたが、同じように、コーヒーに力を入れている店が少ないのが不思議に感じたんです」という。ケーキに合うコーヒーがあれば、もっとおいしく味わえるはず、との思いを持ち始めたころに知ったのが、スペシャルティコーヒーの存在だ。

「初めて飲んだのは、芦屋のスペシャルティコーヒー専門店・RIO COFFEEでした、“これが本当にコーヒーなのか?”と思ったくらい驚きがありました。従来の苦くて重いイメージとは正反対の、鮮やかなフレーバー、フルーティーな風味はインパクトがありました。その時は、いずれ洋菓子店をしたいと考えていましたが、“このコーヒーは何だろう?”という印象が先立ち、自分が感じたことを伝えたいと思ったんです」

それからは関心のベクトルが、洋菓子よりもコーヒーへと傾倒。当時、まだ数少なかった関西のスペシャルティコーヒー専門店を訪ねて、新しいコーヒーの体験を広げていった。

■接客スキルを磨いて、多彩なコーヒーの個性を提案
小学生の頃に始まり、長年コーヒーを飲みつけてきたからこそ、スペシャルティコーヒーの醍醐味に一気に引き込まれていった大濃さん。この頃には、すっかり開業の目標はコーヒー店に変わり、本格的に準備を進めるべく、スターバックスで仕事に就くことに。一見、当たり前の選択肢にも思えるが、それには別の理由があった。

「昔から、コミュニケーションが苦手で、まずはコーヒーのことより接客やサービスを身に着けようと思ったんです。対人スキルを磨くなら、育成システムがしっかりしているスターバックスが向いていると考えました」。いわずもがな、コーヒー店もお客を相手にするサービス業の一つ。コーヒーだけにのめり込むのではなく、自らの性格に対する客観的な判断を元に、慎重に一歩を踏み出した。

スターバックスでは、地元の淡路を皮切りに垂水、広島と店舗を移りながら約6年。日々、ショップの店頭に立ちつつ、コーヒーに関する知識や技術は、仕事以外の機会を利用して独学で体得。コーヒー会社やSCAJのカッピングセミナー、焙煎機メーカーの開放デーなど、個人でも参加できる場をフルに生かして研鑽を積んだ。

とはいえ、「コーヒー専門店での修業であれば、経験者にチェックしてもらえますが、1人で勉強していると、今やっていることが合っているのかどうか、分からないんですね。ちゃんと豆が焼けているか、味が抽出できているかの検証には苦労しました。今でも、“これでいいのか?”と、試しつつやっている部分もありますね」と振り返る。とりわけ、焙煎は、まったく経験がないなかで始めたという大濃さん、それでも、「実際に自分で豆を焼く過程は楽しかった。焼いた後の味が思ったのと全然違うこともむしろ面白かったですね」と、職人気質をのぞかせる。

開店前にはフジローヤルの1キロ釜やディスカバリーなど、小型の機体を経験してきたが、「自店の焙煎機を使ったのは開店前からのぶっつけ本番でした」と大濃さん。自らがイメージする、クリーンな味わいのコーヒーを目指して、購入前にさまざまな機体を試した末に、自店に導入したのはアメリカのディートリッヒ製焙煎機だった。「吸排気のパワーが強く、クリーンに焼けるという印象を持ったことと、釜の蓄熱性があって、安定して豆が焼けるというポイントが決め手になりました」

現在、店頭に並ぶ豆はブレンド3種、シングルオリジン5~6種をラインナップ。なかでも、店の顔である定番のオリジナルブレンドは、開店前にイベント出店していた頃から試行錯誤を重ねた自信作だ。酸味が苦手なお客が多い地域性を考慮して、焙煎度は全体に深煎りが中心。常連客の注文は、深煎りのオリジナルブレンド、シングルオリジンのブラジルが6割ほどを占める。

「本当は浅煎りが好みですが、いきなりお客さんに勧めるのは難しい。近くに保育園があって、女性のお客さんが多いので、まずは普段使い出来る味わいと価格帯で、徐々に幅広く試してもらいたいですね」。そんな大濃さんの思いが垣間見えるのが、豆のフレーバーチャートに“苦味”の要素が入っていないこと。「できるだけ、コーヒー=苦いものという先入観にとらわれないように」という、大濃さんの密かなこだわりだ。

■明石に広がり始めたスペシャルティコーヒーの波
店は交通量の多い国道沿いにあるが、実は地元の憩いの場でもある大蔵海岸までは、南へ歩いて5分ほどの距離。コーヒーを携えて出かけるお客や、近隣のベーカリーでパンを買ってからここに寄るお客も多い。おやつ時なら、この店ならではのコーヒーのお供、どら焼きをぜひ。淡路市岩屋で創業130年を誇る和菓子の老舗の名物は、大濃さんも幼いころから親しんだ地元の味。ふっくらした生地で挟んだ自家製粒あんの濃厚な甘味は、華やかな香りとキレの良い香味をもつコーヒーと相性抜群だ。

開店にあたり、当初は出店する場所を淡路にするか明石にするか悩んだという大濃さん。「淡路は物件のサイズが総じて大きく、1人で切り盛りするのが難しくて、また観光客が主になるので波が大きい。明石は小さい時から馴染みもあり、人口に比してコーヒー店が少なかったことも理由の一つでした」。実際、「Navy Coffee Roaster」のオープンと同時期には、市内でもスペシャルティコーヒーを打ち出す店がいくつかできはじめ、大濃さん自身も明石や加古川に豆の卸先を広げるなど、界隈のコーヒーシーンにも新たな波が到来しているようだ。

「お客さんから、さらにほかの人に紹介してもらって、口コミで店に来てもらえることも増えました。店の中にいると実感が持ちにくいですが、実際に提供しているコーヒーが評価される声を聞けるのは嬉しい。店を始めてみると、すべてを自分一人でしないといけないので大変ですが、逆にすべてを自分で決めていくのは楽しいですね」。開店から2年、日々少しずつ、自分の仕事に手ごたえを感じている大濃さん。

「この界隈で、スペシャルティコーヒーを求めていた方は、思っていたよりも多い。今はスタンド風の店ですが、先々は、洋菓子の技術を生かして、手に取りやすい焼菓子を置いたカフェもやってみたいですね。近隣の喫茶店も減ってきているので、お客さんが日常的に会話を楽しめるような場所にしたい」と、次なる目標に向かって着実に歩を進めている。

■大濃さんレコメンドのコーヒーショップは「Nakazaki Coffee Roaster」
次回、紹介するのは、兵庫県姫路市の「Nakazaki Coffee Roaster」。
「コーヒー業界で20年以上の経験を持つ、店主の中崎さんが始めた姫路で評判の一軒。とにかく人柄が素晴らしく、初めてお会いした時に、“この人が作るコーヒーなら絶対においしい”と確信したほど。以前は豆の販売だけでしたが、最近、新たにスタンド併設の姉妹店をオープンされたので、早く訪ねてみたいですね」(大濃さん)

【Navy Coffee Roasterのコーヒーデータ】
●焙煎機/ディートリッヒ 2.5キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)、エスプレッソマシン(ラ マルゾッコ リネアミニ)
●焙煎度合い/浅煎り~深煎り
●テイクアウト/あり(430円~)
●豆の販売/ブレンド3種、シングルオリジン5~6種、100グラム650円〜

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治




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