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絶滅危惧の背景にコツメカワウソのペットブーム⁉かわいいだけではすまされない現実を飼育員が解説【会えなくなるかもしれない生き物図鑑】

  • 2022年7月28日
  • Walkerplus

野生を身近に感じられる動物園や水族館。動物たちは、癒やしや新たな発見を与えてくれる。だが、そんな動物の中には貴重で希少な存在も。野生での個体数や国内での飼育数が減少し、彼らの姿を直接見られることが当たり前ではない未来がやってくる、とも言われている。

そんな時代が訪れないことを願って、会えなくなるかもしれない動物たちをクローズアップ。彼らの魅力はもちろん、命をつなぐための取り組みや努力などについて各園館の取材と、NPO birthの久保田潤一さんの監修でお届けする。今回は、高知県立のいち動物公園でカワウソの飼育を担当する森本さやかさんにお話を聞いた。



■二ホンカワウソが最後に目撃された高知県で、3種のカワウソを比較展示
――のいち動物公園では現在、コツメカワウソのハル(オス13歳)、メメ(メス13歳)、ツメナシカワウソのララ(メス推定14歳)、ゆるり(オス7歳)、ユーラシアカワウソのへレス(オス12歳)、ミント(メス4歳)の3種6頭を展示している。この3種を比較展示しているのは、日本国内でのいち動物公園だけだ。

高知県は絶滅してしまったニホンカワウソが最後に目撃された場所なので、カワウソの展示にも力を入れ、種類を並べて比較して見てもらえるようにしています。現在、世界各地に生息しているカワウソは13種類。そのうち最も体の小さいコツメカワウソと、3番目に体の大きなツメナシカワウソ、ユーラシアカワウソがいます。

コツメカワウソは東南アジアや中国、インドなどの川沿いやマングローブの周辺などに生息し、現地では水田などにも出没。タニシのような貝を捕ったり、川魚を捕ったりしますが、農作物には影響を与えません。

ツメナシカワウソはサハラ砂漠よりも南のアフリカ、ユーラシアカワウソはコツメカワウソと重なる部分もありますが、ツンドラを除いたユーラシア大陸と、アフリカの一部にすんでいます。

比較展示をすることで、それぞれの体の大きさや顔立ちなど、違いが一目でわかります。見た目だけでなく餌の取り方や食べ方にも違いは表れているので、じっくり観察してみてください。特に注目してほしいのは前足。カワウソ類は泳ぎが得意で、足に水かきがあります。

ユーラシアカワウソは水かきが広く鋭い爪が特徴で、多くの場合前足を使わず、直接口で魚などを捕まえて食べます。もちろん、両前足でエサを押さえつけたり、はさんで持つこともありますが、水かきのついた平べったい形状なので、エサを握ることはできません。

コツメカワウソはその名の通り小さな爪をもち、前足を器用に使ってエサを探して捕まえます。食べるときも前足でしっかりエサを持って食べるのが特徴です。これに対してツメナシカワウソは、その名の通り爪が生えていません。前足はコツメカワウソよりも器用で、水かきが小さく指も長いのが特徴です。握る力も強く、前足でエサを捕まえ、持って食べます。前足はエサをつかむのに適した形ですが、後ろ足は水かきが広くついており、泳ぐときに役立ちます。このように、前足一つとっても比較するとこれだけの違いがあり、興味が尽きません。

■自然に近い環境で、器用に遊ぶカワウソたち
――同園はトリップアドバイザーの「日本の動物園ランキング」で、2年連続1位になっている。その秘密は展示の工夫にありそうだ。

カワウソの展示場は木々に囲まれた屋外施設。できるだけ自然に近い形で展示するようにしています。展示場内の倒木は、カワウソたちが登ったり、体をこすりつけてグルーミングをしたり、木の皮をはいで遊んだりと、よく利用していますね。

また、展示場内や周辺にもたくさんの木が植えてあるので、落ち葉や木の実が落ちてくるのですが、その落ち葉を散らして遊んだり、巣材にするために運んだりする様子も観察できます。コツメカワウソやツメナシカワウソは前足が器用なので、木の実や石を拾って転がしたり、投げ飛ばす様子も見られます。

■カワウソの子育ては意外にもスパルタ教育。カニもバリバリかみ砕く
――愛嬌たっぷりのカワウソだが、時には意外な一面を見せることも。

あごの力が結構強くて、カニをバリバリかみ砕く姿を目撃することも。動物公園では川魚を中心に時々肉を与えていて、カニは寄生虫の問題があるため、生きたまま与えることはできません。ただ、自然に近い環境なので、まれにサワガニなどが裏の山から下りてきて展示場に紛れ込むことがあります。そんな時には捕まえて遊んだり投げたりして、最終的には食べてしまいますね。

また、ユーラシアカワウソの母親が子供に泳ぎを教える姿も、日ごろのカワウソからは想像できないスパルタぶりが印象的でした。カワウソって、実は最初から泳げるわけではなく、子供のころは水を怖がって泳げないのです。

ユーラシアカワウソが繁殖に成功した後、その子供が生まれて初めて展示場に出たときは、水を怖がってピーピー悲鳴をあげていました。しかし母親は、水に引きずり込んで泳ぎを教えていました。岸に上がろうとしても何度も引きずり込んで特訓をしていて、そのスパルタぶりに「そこまでしなくていいのに…」と衝撃を受けたのですが、これがあるからカワウソは泳ぎが上手なんだなとも思いました。少しずつ泳ぎが上達していく子供の成長を観察できて、とても貴重な経験でしたね。

■文句も言うし、しょんぼりもする。表情豊かなカワウソたち
カワウソはよく寝ているイメージがあるので、のんびりしているように思われますが、動きはかなり俊敏。喜怒哀楽が分かりやすく、パワフルで表情豊かです。

エサを食べているときは本当にうれしそうに食べますし、ちょっとエサの時間が遅くなるとコツメカワウソなんかは文句を言いながら食べていることがあります。怪我をしたり調子が悪い時はしんどそうで、しょんぼりしているようなときもあって、表情が豊かでわかりやすい。いくら観察しても飽きることがなく、惹きつけられる動物です。

■まだまだ謎が多いカワウソの生態
――同園ではユーラシアカワウソの繁殖に成功しているが、実はカワウソの繁殖は難しいといわれている。

カワウソのメスは4歳ぐらいから繁殖が可能になりますが、野生下での繁殖についてはまだわかっていないことも多いのが現状です。うちの個体も仲はよいのですが、ペアリングして相性がよくても繁殖に至らない場合があります。

また、日本国内のカワウソは個体数が少なく、コツメカワウソとユーラシアカワウソについては全国の動物園や水族館と共同で管理して、「この個体とこの個体で繁殖させよう」といった計画を立てて進めています。しかし、兄弟など血統の問題もあるので、単純に年齢が合えばいいというものでもないのです。

――繁殖だけではなく、カワウソの生態はまだまだ分からないことが多いそう。重要な「健康」についてもそうだ。

カワウソは腎臓に結石ができやすい動物ですが、なぜできるのかわからないことも多く、予防方法についても全国の園館で協力して調べています。年に一度定期検診はしていますが、日ごろからの健康管理が大切で、難しいなと感じています。

カワウソは比較的表情に気持ちが出やすく、どこか痛いときは痛そうな顔に。そんな時は怪我をしていないか、動きがおかしくないか毎日よく見て、少しの変化にも気付けるよう心がけています。体を触ったり、前足を見たり、口腔内を確認したりして、異常がないか確認します。チェックさせてくれたらエサを与え、お互いが嫌な思いをしないように慣れてもらう。これを「ハズバンダリートレーニング」といいます。

■個体数減少の一因はペットブームにあり
――ユーモラスでかわいらしいカワウソだが、それだけでは済まされないショッキングな話もある。現在、カワウソ類の多くが絶滅危惧種に指定されている。しかもその一因が、日本も含め、近年起こったカワウソのペットブームにあるというのだ。

個体数が減少してしまった大きな原因は生息地の環境破壊や環境汚染ですが、野生動物が車と接触して死んでしまうロードキルや、ペットブームによる乱獲も問題になっています。近年、コツメカワウソがペットとして人気になり、カワウソカフェなどもオープンしているようですが、見た目の「かわいい」部分だけが取り上げられているように感じます。かわいい=家で飼いたい、触わりたいだけでいいのでしょうか?身近なカフェやSNSでの人気によってカワウソが、犬や猫と同じように「飼える」という、誤った認識が浸透してしまったように感じます。

アジアでのペットブームで生息数が減少したため、2019年に法律が改正。コツメカワウソの輸出入が原則禁止になりました。でも、日本ではいまだに「カワウソ=ペット」という認識が根強く残っているように日々感じます。

そもそも、コツメカワウソが野生下でどのように暮らしているかという情報が少なく、研究者も多くはありません。繁殖や健康も、わからないことだらけです。そんなことを知らずにペットとして飼った場合、病気になった時に近くの動物病院で診てもらえるかというと、そういう訳にはいかないように思います。

動物園、水族館での飼育は、ペットとして飼うことと全く違う意味合いがあります。飼育技術を確立してデータを蓄積し、野生の個体を守る活動は、動物園や水族館が存在している意義の一つでもあるのです。

まずは野生のカワウソについてよく知ってほしい。そのためには、動物園側からの情報発信が重要です。例えば、毎年5月の最終水曜日は「世界カワウソデー」で、世界中の水族館や動物園が協力してTwitterの投稿などを通じてカワウソの現状を伝えようとしています。今はコロナ禍でお休みにはなっていますが、エサを与えるお食事タイムなどに野生での現実についても話に盛り込むようにしていました。来園したお客さんも、そうした話には興味深く耳を傾けてくれます。

■まずは実際にカワウソを見て、どんな動物かを知って
――そんな見過ごせないカワウソの現状を踏まえ、森本さんから来園者へのメッセージを語ってもらった。

カワウソの魅力は水の中を自由自在にスイスイ泳ぐ姿や、石を転がしたりして遊ぶ姿。ぜひ動物園に来て、実際にそんな姿を見ていただきたいと思います。その一方で残念なことに、現在カワウソ13種のほとんどが絶滅の危機に瀕しています。そして日本のコツメカワウソのペットブームが、野生のコツメカワウソに大きな影響を与えているのも事実です。

過去にはニュースにもなりましたが、まだまだ認識されていないように思います。来園された方の中にも、「ペットで飼ってみたい」と話している人を見かけることも。自分には関係ない出来事だと思うかもしれませんが、乱獲されたカワウソの赤ちゃんの密輸先の多くは日本で、しかもたくさんのカワウソの赤ちゃんが死んでいるという背景を知ってもらえるよう、私たちも伝えていきたいです。

「カワウソはかわいい。だから飼いたい」でいいのでしょうか。かわいいからこそ、魅力的だからこそ、彼らがこの先も暮らしていけるよう、私たちの意識を変える必要があるのではないでしょうか。カワウソをペットにしたいと言っている人ほど、実はカワウソについて詳しく知らず、見た目以外には興味がないようにも感じています。まずは「カワウソ=かわいい」だけで終わるのではなく、カワウソがどんな所にすんでいて、どんな生活をしているのか、どんな動物なのかなど、カワウソについて正しく知ってください。

皆さんがカワウソについて知るきっかけを作れるよう、これからも動物園側から情報を発信したり、イベントを実施したりしたいと考えています。まずはぜひ動物園に足を運び、実際にカワウソたちを見てください。

取材・文=鳴川和代
監修=久保田潤一(NPO birth)

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