真剣勝負のプロ棋士、頭の中は「天ぷら」に「動画収入」!?雑念多き“非本格将棋漫画”が面白い

  • 2022年6月22日
  • Walkerplus

将棋のプロ棋士と言えば、才能あふれる者の中でも、狭き門をくぐり抜けた一握りだけがなることのできる厳しい世界。盤上に全身全霊を捧げるはずのプロ棋士の、雑念あふれる日常を描いた漫画が今、注目を集めている。

■横道に逸れすぎ!集中できないプロ棋士の頭の中に引き込まれる
話題を呼んでいるのは、漫画家の増村十七(@masumura17)さんがTwitterやpixivコミックで連載中の「花四段といっしょ」。『“非”本格将棋漫画』をうたい、主人公である花つみれ四段の、将棋そっちのけで思考が散らかってしまう日常にフォーカスした異色の将棋漫画だ。

昨年Twitterに投稿され、9000件以上のいいねを集めた第一話では、対局中の花四段の様子が描かれている。その日、順位戦の対局に臨んでいた花四段。順位戦は、数ある対局の中でも、「名人」のタイトルに挑むための唯一の道のりであり、棋士にとっては重要な意味を持つ戦いだ。花四段も当然、目の前の盤面に集中……、と思いきや、彼の脳裏をよぎったのは「お金がほしい」という将棋とは無関係な煩悩。「旬の野菜の天ぷらが食べたい」、「フラッと名店に入って行けるような暮らし」と、肝心要の将棋についてはそっちのけで、思考の脱線は加速していく。

よく考えず上の空で指し続け、局面が進行していた盤上を見て我に返る花四段。子供の頃からいろいろな物事にすぐ気を取られてしまう悪癖があった――と、今度は幼少期の思い出にとらわれかける。そう、プロ棋士になった今でも、頭の中の雑念の多さは変わっていなかったのだ。

そのたびに余計な考えを振り払おうとする花四段だったが、その後も対局相手の海老六段の新しい財布が目に入り、海老六段の最近の羽振りのよさ、YouTuberをはじめたこと、広告収入はいくらだったか、と思考は連想ゲームのような状態に。相手を唸らせる鋭い手を指したその時、花四段の脳髄が計算していたのは、その先の局面ではなく、海老六段がYouTuberとして稼いだ収入額なのだった。

花四段の脱線っぷりや、随所で光るくすっと笑えるユーモアが読者の反響を呼び、SNSでのエピソード掲載時には1万いいねを超えることもある本作。2022年6月7日には、朝日新聞出版より描き下ろしも収録した単行本の第1巻が刊行され、好評を受け既に第2巻の制作も決定しているという。

■遠い世界に思える“プロ棋士”の、親しみある一面に着目
作者の増村さんに話を聞いたところ、本作が誕生したきっかけは将棋連盟会長でもあるプロ棋士の佐藤康光九段を紹介する自主制作漫画だったという。

「以前、コミティア(※一次創作作品の即売イベント)で無料で頒布していた、佐藤康光九段の紹介漫画が、現在の朝日新聞出版の担当編集者の目に留まり、『こうしたコメディタッチの将棋漫画が作れないか』とお話を受けたことが直接のきっかけになります。ちなみにその漫画は、将棋を全く知らない方たちに、少しでも興味を持ってもらえればと思ってかなり誇張して作ったのですが、ネットに公開したところ、予想外に将棋関係者の方々にも広まってしまい、最終的にご本人にも伝わってしまったようです」


もともと将棋ファンだという増村さん。真剣勝負のプロ棋士の世界を追いかけてきたこともあり、コメディとして描くことも当初は自信がなかったと語る。

「プロの棋士の皆さんには、本当に尊敬の気持ちしかなかったので、前述の漫画は、誇張した表現でご本人の気を害していないか、心苦しい気持ちもありました。

ですが、取材で実際に、プロの方々や棋界の関係者にお話をうかがっていくと、決して勝ち負けだけに人生の全てを捧げているばかりではなく、人間的な生活の側面も見えてきました。強い誇張でギャグを連発するのではなく、対局中やそれ以外の時間に起こる小さな出来事をちゃんと拾っていけば、少し遠い存在に感じがちな棋士という存在を、読者が自分と“いっしょ”の人間と感じられて、それだけで楽しい作品になるような感触が湧いてきて、制作を本格的にスタートすることができました」

本分は対局にあるプロ棋士自身、初心者やアマチュア向けのイベントや番組への出演など、さまざまな形で、より多くの人に将棋に興味を持ってもらえるよう振興に取り組んでいる。「“非”本格将棋漫画」と銘打っているのも、そうした棋士と将棋界への尊敬があればこそだ。

「この漫画は、将棋の知識ゼロの方でも楽しめる作品となっています。これをきっかけに将棋にも興味を持っていただければ、さらに嬉しいです!いま、現実の将棋界も、藤井聡太五冠のご活躍以外に、ABEMAトーナメントという番組でリアルタイムで素早い応酬の勝負を見ることができたり、里見香奈女流四冠によって女性初のプロ棋士誕生の可能性も出てきたりと、とても盛り上がっています。

将棋は指したことがないけれど将棋観戦には興味があるという人にも、『観る将のための将棋ガイド』(山口絵美菜)など、分かりやすい入門書も現在たくさんあるので、ぜひ楽しんでみてください」

勝負の世界であると同時に、伝統文化としての側面、さらには棋士の親しみあふれる個性も含め、多種多様に広がっている将棋の世界。まさに「花四段といっしょ」に、そんな将棋界をのぞいてみてはいかがだろうか。

取材協力:増村十七 / 朝日新聞出版

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