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なぜこれがこうなる…?光を当てると浮かび上がる「影アート」、身近なものが名画に

  • 2022年6月9日
  • Walkerplus

一見なにかわからない物体に光を当てることで、見えざる姿が浮かび上がる「影アート」。その国内における第一人者が佐藤江未さんだ。元々は舞台照明家であり、現在も舞台現場で働きつつ創作活動を行っている。そんな彼女に、影アートを始めたきっかけやおもしろさ、難しさなどを教えてもらった。

■きっかけは「たまたま」本格始動は周囲の後押しが大きかった
――佐藤さんのプロフィールを教えてください。

【佐藤】舞台照明の仕事は、短大卒業後に就職しました。一度辞めて別の仕事を経験したあと、またこの仕事に就いて今に至ります。影アートを始めたのは2015年ですが、本格的に活動開始したのは2020年からです。

――影アートを始めたきっかけは?

【佐藤】まず、舞台照明の仕事は高校の時に初めて舞台を観て、感動するとともに裏方に興味を持ちました。その中で特に惹かれたのが照明です。一度、その仕事から離れていた時期にたまたまネットで海外アーティストの影アート作品の記事を読み、自分でもやってみようと思ったのが最初のきっかけです。

でもその時は特に理由はなく、「なんとなく暇だしやってみようかな」という軽い気持ちでした。作ったのも2~3作品程度です。そのあと本格的にやろうと思ったのには、いくつか理由があります。ひとつは、舞台照明の仕事に戻ったのもあり、直接的ではないのですが、スキルアップに繋がる気がしたからです。

ほかには、自分が思った以上に周りの反響が良かったからです。後押しもありましたし、舞台で使っていただく機会もありました。特にワーキングホリデーに行った時に、尊敬する舞台照明家の方から「影アート、もっとやったほうがいいよ」と言われたことが大きいですね。

ワーキングホリデーに行ったのは、2017~2018年の約1年間。海外の舞台照明現場に興味があり、英語圏でなおかつ現地の舞台に興味があった、カナダのモントリオールを選びました。そこで出会ったのが、前述の舞台照明家です。その方から背中を押されたことが、舞台照明以外の新しいことをやる行動力にも繋がっています。

――そして2020年から本格始動したと?

これも理由はいくつかあります。元々海外を旅(有名観光地ではなくローカルを巡る旅)するのが好きだったのですが、2019年の時はなぜか意欲が湧きませんでした。でもなにか刺激的なことをしたいと思い、ふと影アートをまたやってみようと思ったんです。

これもなんとなくだったのですが、初めて影アートで個展を開こうと目標を立てたのが2019年の暮れです。そして年明けの2020年から本格的に作品制作を始めました。タイミング的にはコロナ禍になる直前でしたが、その後は舞台が中止になるなどして仕事がなくなり、結果的に創作の時間は増えましたね。その年の8月には初の個展「Lost and Found おとしもの」を開催することができました。

■創作が難しく複雑な作品ほどおもしろい
――影アートと、影絵との違いは?

【佐藤】影絵も、それを使った演劇などさまざまな表現方法や楽しみ方がありますが、影アートは光を当てる対象物を含めた作品。影絵の多くが影だけを楽しむということに対し、影アートは三次元で楽しめるところがおもしろいと思います。

――影アートならではのおもしろさや難しさは?

【佐藤】物体から出る影が想像しづらいようにずらしたり、複雑にしたりするのですが、それがわかりづらいほど驚きがあっておもしろいと思います。創作の難しさも、どれだけわかりづらくするかというところです。

どんな影が出るのか想像ができそうで、できないというのがポイントです。なので、光を当てる対象物に特徴があればあるほど、難しければ難しいほど作り手としてはおもしろいです。

――影アートで得意、または好きなジャンルは?

【佐藤】基本的には人物の影が好きですね。人が出ることで、ストーリーが生まれます。例えば、落とし物や電車内の忘れ物で作った「Lost and Found series」は、持ち主の思いが浮かび上がったように見える作品。観る人によって「こういう人が使っていたのかな?」「この物たちはどういう気持ちなのかな?」と、物体を影と一緒に観ることで、それぞれの違ったストーリーが浮かび上がるところがおもしろく、感想を聞くのが楽しいです。

――ひとつの作品を作るまでどれくらい時間がかかりますか?

【佐藤】素材が揃った状態であれば、早くて2日。一方、素材が扱いにくい場合は1カ月程度かかりますね。扱いにくいというのは、例えば古着などの布。作品でいえば「Pride of Used clothing : type overreach adult」です。

布はフワッとしていて形が変わるので、樹脂などでコーティングさせますが、固めるだけで約2日かかります。さらに、固めた布の仕上がり次第で微調整が必要になりますから、布を使う作品は時間がかかります。

■一番反響の大きい作品は食パンのクリップから生まれた
――最も気に入っている作品は?

【佐藤】いくつもあるのですが、ひとつは「Lost and Found series NO.1」。このシリーズは電車やバスの中の遺失物を、忘れ物市などで買い取って仕上げた作品集です。それらを発表したのが初の個展「Lost and Found おとしもの」で、メイン的な作品がNO.1です。

「Lost and Found series NO.9」もお気に入り。これは、舞台美術で使われた木の葉っぱを活用したものです。普通は公演が終わると廃棄するのですが、それはもったいないと思いまして。また、葉っぱは平面で固定しづらく扱いにくい素材ではあるのですが、表現してみたらうまく作ることができました。それも気に入っているポイントです。

「Pride of Bag closures : type Free」は個人的に好きで、なおかつ最も反響をいただいている作品だと思います。これは身近にあるパンのクリップを使って、ドラクロワの有名な絵画「民衆を導く自由の女神」の一部を表現した作品です。

光を当てた影を見たあとでも、どのクリップがどの部分を形成されてるかが特に分かりにくくできています。使い道があまりない身近な素材が、美しい名画になるギャップが反響の大きさになっているのかな、と思います。

もうひとつ挙げたいのが「Pride of Magnets : type Parasol」。水道屋さんがポスティングするマグネットを活用し、モネの「日傘をさす女(左向き)」を表現した作品です。

これは派手な主張がある広告マグネットから、美しくきれいなものを表現したくて作りました。また、舞台照明のカラーフィルターを使って背景の色を変えることで、原作の世界観に近付けています。

――今後の目標を教えてください。

【佐藤】個展では、ダンスなどを取り入れたパフォーマンス公演をやったことがあるのですが、今後はさらにバージョンアップさせた舞台作品を作るなど、影アート×○○といったようなさまざまなジャンルとコラボレーションしたいですね。あとは、これまでにない大きなサイズの作品にも挑戦したいです。

――この記事を読んでいる人にメッセージをお願いします。

【佐藤】影アートは、ライトを点ける前後の驚きを楽しめる、ビフォーアフターが醍醐味な、体験型の作品です。今後も直接楽しめる機会を作っていきますので、ぜひSNSやホームページなどを参考に遊びに来てください。直近は、2022年6月18日(土)から福島県の郡山市立美術館で開催される「光と遊ぶ超体験型ミュージアム 魔法の美術館」に出展予定です。

※新型コロナウイルス(COVID-19)感染症拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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