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コーヒーで旅する日本/関西編|多彩なブレンドとキャッチーな提案で、コーヒーをもっと身近に親しみやすく。「KAMIN COFFEE ROASTERS」

  • 2022年5月17日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

和歌山市の隣、岩出市にある「KAMIN COFFEE ROASTERS」。店主の西田さんは、「自分の手で作ったものをお客さんに届けたい」と百貨店の仕事から転身し、焙煎士として生来の職人気質を発揮。和歌山では数少ない、スペシャルティコーヒー専門の新たなビーンズショップとして注目の存在だ。2年前の開店以来、モノ作りへの強い思いと共に、コーヒーの魅力を広める柔軟な発想で、着実に地元の支持を得つつある。

Profile|西田武史
1981(昭和56)年、和歌山県紀の川市生まれ。大学卒業後、百貨店で8年勤めた後、コーヒーの道へ進むため大阪のカフェに転職。地元和歌山で、ラーメン店が手掛ける自家焙煎のカフェ・フェイバリットコーヒーの立ち上げに携わる、店長・焙煎士として9年を経て、2020年に和歌山県岩出市に「KAMIN COFFEE ROASTERS」をオープン。

■モノ作りへの思いが拓いた焙煎士への道
「KAMIN COFFEE ROASTERS」の一日は、焙煎からスタートする。7時ごろから、店主の西田さんが豆を焼き始めると、店の煙突からは白い煙がふわふわと朝空へ立ち上っていく。「KAMINはドイツ語で煙突の意味。英語も候補にあったんですが、より職人ぽい響きが気に入って」という西田さんが、コーヒーの焙煎を生業としたのも、根っからの職人気質ゆえだ。大学を卒業後、一度は百貨店に勤めるものの、「当時から、先々は喫茶店をしたいな、という思いはありました。百貨店は、すでに完成した商品を販売する場所ですが、徐々に、自分で作ったものを提供したい、モノ作りに関わりたいという思いが強くなっていきました」

地元でラーメン店を営む知人から、新たなカフェを立ち上げる話が舞い込んだのは、百貨店に勤めて8年が経った頃。「ラーメン店はお客さんの滞在時間が短いので、別でゆっくりしてもらえる場を作りたいという相談でしたが、コーヒーの焙煎も担当できるというのが決め手の一つになりました」と、新たなカフェ・フェイバリットコーヒーの立ち上げに向けて動き出した西田さん。修業も兼ねて大阪のカフェでキッチンやサービスを経験し、東京のコーヒー器具メーカー・珈琲サイフォンのセミナーにも参加。とはいえ、焙煎に着手できたのは、フェイバリットコーヒーの開店直前のことだった。

「家でも手焙煎をしていたものの、初めて焙煎機に触った時は、豆の見た目こそ手焙煎の時と同じでしたが、なぜかおいしくなくて(笑)。当時は定番のブレンド2種と日替わりを1種、カフェで使う分だけでしたが、それでも、焙煎を任せてもらったことで、試行錯誤ができたのは貴重な経験でした」と振り返る。
■地元の嗜好に応える5種類のオリジナルブレンド
焙煎士とともに店長も兼任し、やがて支店もできるなど一見、順調に見えたが、ここで再び西田さんの職人気質が頭をもたげる。「規模が大きくなってくると焙煎から離れる時間が長くなったのもあって、もっとコーヒーのことに集中したいと思ったんですね。和歌山に戻ってから、料理人さんと知り合うことが多かったのですが、皆さんジャンルやメニューなどに特化して個性を打ち出していた。カフェというのは何でもありの分、個性としては曖昧な印象だったので、自分も専門性を持ちたかったんです」。

9年勤めたフェイバリットコーヒーでの経験を土台に、2020年に独立。前職では深煎りのコーヒーがメインだったが、自店では中浅煎り~深煎りまで、焙煎度も幅広く提案。その柱となるのはオリジナルのブレンドだ。「扱っているのはスペシャルティコーヒーですが、シングルオリジンだと農園や産地の特徴が前面に出ます。ブレンドなら、配合で店のオリジナリティを出せると思ったんです。ブレンドをベースにして楽しんでもらうため、バラエティも増やし、飲みやすさを打ち出しています」

店の顔であるKAMINブレンドを中心に、焙煎度が浅めのKOYA、NEGORO、深めのHINATA、KUMANOと、地元・和歌山の地名を冠したブレンドは現在5種、シングルオリジンは7種を用意。そのうち、お客が購入する6割がブレンド、さらにその4割をKAMINとKUMANOが占める。「界隈で豆を購入してくださるのは40~60代の方が多く、酸味を抑えた深めの焙煎で、冷めても飲み飽きない味が好まれます。深煎りのマンデリンも、比較的、上の世代の方に喜ばれますね。カフェの運営でお客さんの好みをとらえる難しさを体感してきたこともあり、まずは地元の嗜好やニーズに応えて、そこで認めてもらえたら、徐々に味の幅を広げて自分の志向も出していければと考えています」

「KAMIN COFFEE ROASTERS」の味作りを担う焙煎機は、前職で使っていた半熱風式から直火式にシフト。「半熱風は扱いやすいですが、どこか中庸な味わいに仕上がる印象があって。直火だとコントロールは難しいですが、ハマれば豆による違いをしっかり出しやすい。まさに炎で豆を焼いて“調理する”感覚で捉えています。直火式は周りで使っている人も多いので、検証がしやすいというのも理由の一つ」と西田さん。KAMINブレンドの、柔らかな口当たりとまろやかな酸味、ふっくらと広がる甘い余韻と飲みごたえは、直火による火入れならではだ。

■コーヒーに対する間口を広げる、テイクアウトの名物メニュー
ブレンドを中心とした豆のラインナップで地元の嗜好に応える一方、テイクアウトのコーヒーには、今どきのひと工夫も凝らしている。メニューはほぼドリンクのみだが、その中で、たっぷりとクリームを乗せたカフェオレとウインナーコーヒーは、“映える”一杯としても人気を集めている。

「若い世代向けにコーヒーに対するハードルを下げてもらうため、スイーツ寄りのメニューでお客さんの間口を広げようと考案したのがこの2種類。特にウインナーコーヒーは、最近、出している店も少なくなりましたが、大阪の老舗喫茶店で飲んでおいしいと思ったのがきっかけで、この形になりました。今は皆さんの生活リズムが速くなり、喫茶店でゆっくりする時間がないなかで、テイクアウトでちょっと贅沢したい時に飲んでもらえれば」と西田さん。

実は、コーヒーのメニューは、ネルドリップも選べるのだが、これも「飲んだことない人が多いので、“そんな淹れ方もあるんや”と、知ってもらう体験版みたいな感じ。店としてのこだわりは前に出しすぎず、普段コンビニなどでコーヒーを飲む方が、次のステップくらいの感覚で選んでもらえればうれしい」

カラフルなパッケージラベルや、手にしやすいカフェオレベースの小瓶など、デザインやビジュアルにもコーヒーへの興味を引く工夫を随所に凝らす。「和歌山で、豆の小売りがメインの新しい店はまだ少なく、前例がほぼないので手探りのところもあります。コロナ禍で他の店を見に行ったりはできませんでしたが、その分、自分で考えたオリジナルな店になったと思います。まずは地元に定着して焙煎量を増やしていきたい」という西田さん。地元のビーンズショップの先駆けとして、より手軽にコーヒーを楽しめる提案を続けるべく、今日も朝から煙突に煙が上がる。

■西田さんレコメンドのコーヒーショップは「珈琲もくれん」
次回、紹介するのは和歌山市の「珈琲もくれん」。
「和歌山の自家焙煎コーヒー店の先駆けで、地元のコーヒー好きが必ず通る登竜門的一軒。コーヒーにはまりだした頃によく行っていました。初めて訪ねると、コーヒー専門店独特の世界に入り込んだ感覚になりますね。若い世代にもファンが多く、個性的なロースターとして定着している姿は、店を続ける上での目標にもなっています」(西田さん)

【KAMIN COFFEE ROASTERのコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル 5キロ(直火式)
●抽出/ハンドドリップ(カリタ ウェーブドリッパー、ネル)
●焙煎度合い/浅煎り~深煎り
●テイクアウト/あり(410円~)
●豆の販売/ブレンド5種、シングルオリジン6~7種、100グラム648円〜

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治




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