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選手の活躍を後押しする会場の装飾を担当したDNP、困難を極めた全49会場の「クオリティーコントロール」その舞台裏を聞いた

  • 2021年12月17日
  • Walkerplus

東京2020オリンピック・パラリンピックを支えたパートナー企業の“知られざる裏側”を紹介する『THE BACKGROUND』に、印刷・情報技術を基盤に、包装、建材、エレクトロニクス、エネルギー分野、ライフサイエンス分野にも進出する業界最大手の大日本印刷株式会社(以下、DNP)が登場。東京2020オリンピック・パラリンピックで大会ルック全般を手がけた秋元達彦氏に、大会の“装飾”に関わる驚きのプロジェクトについて聞いた。

■大会延期によってスケジュール調整は困難を極めた

DNPが手掛けた大会ルックとは、「一言で言いますと、オリパラを盛り上げる、選手が精いっぱい力を出せる会場の装飾です」と秋元氏は説明する。我々がテレビなどを通じて目にした赤・青・緑などのデザインの大会ルックだ。「東京2020オリンピック・パラリンピックの気運醸成を図るため、会場全体に装飾幕を取り付けました。競技会場は全部で42会場、非競技会場であるホテルや選手村が7会場、全部で49会場の装飾を担当しました」。約7000種類のアイテムを約2万点製造。15万平方メートルという気の遠くなる物量で、東京ドーム3.25個分の分量だ。

製作作業は東京2020オリンピック・パラリンピックの延期で伸びたが、2020年の9月には開会式のスケジュールから逆算し、各所との調整作業を開始した。単に装飾を製造して納品するだけでなく、会場の施工も行なうため、場所によっては数カ月かかってしまう。しかもリハーサルを想定して予定を組むも、それが延期になるなどゴールが見えにくかった。

「ご存じのようにリハーサルでは変更が少なくなかった。私は新国立競技場を担当していたので開会式のメンバーとはいつも話をし、開会式のプランが変わると、いろいろなものが変わることを確認していました。しかもセレモニーは非常に秘匿性が高い。なので、リハーサル中は会場の中に入ってはダメということで工事もできないわけです。その苦労はありました」と秋元氏は舞台裏を明かした。

“知られざる苦労”としては装飾の色味も課題だった。コアグラフィックスというものがあり、「藍」「紅」「桜」「藤」「松葉」の5色が基本。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を印象付け、多くの人々の記憶に残る重要なエレメントだ。「素材によって見え方が変わってはいけないので全部のパターンを用意するのですが、出力の機械によって若干変わってしまうことがあるんです。なにしろ15万平方メートルもあるので、いろいろな機械を使うなかで、どう合わせていくか色調の管理が大切でした。また、会場で色が違いましたというわけにもいかず、全会場のクオリティーコントロールは大変でした」と秋元氏は述懐した。

■立ち返ったのは、コミュニケーションを密にするという“基本の基”

全会場に大会装飾を設置するために、100人以上の社員が参加。「会場全体に関わった延べ人数だと協力会社も含め、かなりの人数でした」と秋元氏。49会場を一度に動かす一大プロジェクトだが、前例のない規模感だけにトライ&エラーで進めるほかなかったという。

「今回の東京2020オリンピック・パラリンピックにおける一番の難しさは、ひとつの会場にかかる人数の多さです。たくさんの企業が関わっていて、しかもそれぞれのゴールが違います。弊社は会場の装飾を担当しましたが、その会場を作る会社があり、そこに電気を引く会社があって、電子機器を置く会社がある。ボランティアをまとめる会社もあり、時間がないなかでみんなで協力して作っていくのですが、そこでいろいろな課題が見つかりました」(秋元氏)

たとえば、ケーブルを通す際に装飾が邪魔になる、といったことが起きたという。「コロナ禍の影響で関係者全員でミーティングはできません。プラン通りに進まないことが全ての会場で起きていて、細かな調整が各所で必要になりました」と現場の苦労を明かす。

では、その問題をどう解決したのか?

「立ち返ったのは、コミュニケーションを密にやっていくという“基本の基”です。どの会場でも似たような問題が起こるので、Teams(Microsoft Teams)で全部の会場をチェックできるよう管理をして、同じ問題を繰り返さないようにミーティングを重ねました。結局、対話しかないんです」

また、会場装飾を作るだけではなく、昨今どの企業も推進するSDGs(持続可能な開発目標)についても、DNPは2016年のパートナーシップ契約締結時より当然視野に入れて活動していたという。「施工してメンテナンスを行ない、最後は撤去しますが、サステナブルの理念があり、廃棄・リサイクルまで管理する必要があります。初期の段階からリサイクルのアイデアを考えていました」と秋元氏。

たとえば素材の指定について、有機化合物の一種であるホルムアルデヒドの含有量などの配慮は、早期からスタートしていたという。「それと会場内を装飾するにあたって消防法をクリアするため、防炎の素材である必要もあります。万が一、火災が起きた時に大きな問題にならないような素材を選定したり、下地に木材を組む時はFSC認証(森林認証制度)の木材などを使ったりもしました」と補足する。

■東京2020大会で得た知見は次に伝えるべきレガシーとなった

さらに、リサイクルについても東京2020大会ならではの課題もあった。「大会で使用する資材はその辺にボンと置けません。セキュリティーも含め、東京ドーム3.25個分の資材を扱うキャパシティーはそうそうないので、あの量をどう管理してどう捌いていくのか、どうセキュリティーを担保するのか、それが最大のキモでした。今回は無観客となりましたが、有観客の場合、装飾を持ち帰ってしまうケースも想定していました」(秋元氏)

大会は終わり、今はリサイクルのプロジェクトを進めている段階だが、ここで得た知見は次に伝えるべき大きなレガシーになったと秋元氏は言う。「大きな問題もなくDNPとしてやり切った結果、経験値は上がったと思います。全部で15万平方メートル分のアイテムをどう作っていくかという部分は、マネジメントのシステムを構築して実践できましたし、49会場のクオリティコントロールのやり方も含めて、そのノウハウは社内のレガシーとして伝えていきたいです」と秋元氏は未来を見据えている。

なお、DNP情報イノベーション事業部の上松桃子氏によれば、今回の経験を元にアスリートの支援と感謝を伝えるWEBサービス『CHEER-FULL STADIUM(チアフルスタジアム)チアスタ!』を始動させているとのこと。「これはアスリートとサポーターをつないで、コミュニケーションでエンゲージメントをはかるだけでなく、デジタル応援幕でギフティング支援が可能になるものです。新しい応援文化を作りたいという想いで作りました」(上松氏)。DNPのスポーツ産業を盛り上げる挑戦は、今始まったばかりだ。

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