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「分かり合えない」人間関係のもどかしさを漫画に。自分の気持ちとの駆け引きを描いた作品に共感多数

  • 2021年11月23日
  • Walkerplus

「恋心に形があったら」シリーズなど、他者との分かり合えなさをテーマにした4コマや短編の漫画をTwitterで配信している黄身子さん(@mososetsunight)。日々の人間関係の中でモヤッと感じることを、最低限の文字とシンプルだけどふんわりかわいらしいテイストの絵で描く作品に、共感の声が多く届いているという。

今回は黄身子さんにインタビューし、漫画を描き始めたきっかけや反響が大きかった作品、また今後の目標などについて聞いてみた。

■ディスコミュニケーションを恋愛にたとえる
2016年から漫画やイラストをSNSで発表し始めた黄身子さん。2019年5月には原宿「Re:See」で個展を開催し、今は現代ビジネスやフリーペーパーのメトロポリターナなどで連載も手掛けている。

「もともと絵を描くことが好きで美大に進学したかったのですが、親に反対され、大学院でやっと美術を学べることになりました。ただ、自分が作りたいものや作れるものはアートではないのかもと気付きました。それなら、自分の好きなものを趣味として作ろうと思い、少女漫画が大好きだったので昔よく描いていた漫画を遊び感覚でまた描き始めました。当時はTwitterで漫画を投稿する人が増えてきている時期だったと思いますが、SNSで有名になりたいと思っていたわけではなく、発表する場があったら楽しいかな、くらいの軽い気持ちでした」

黄身子さんの作品で印象的なのが、恋わずらい系の話。人気シリーズの『恋心に形があったら』は、恋心をモノに例えたり、少ない台詞だけで乙女心を表現したり、現実から少しだけ離れている世界観だけれどとても分かりやすく、感情移入しやすい。「世のラブストーリーでは複数の人の関係性が描かれることがほとんどですが、自分ごととして捉えると自分自身の気持ちとの駆け引きの時間が圧倒的に多いと気付いて、人間関係未満の恋愛ストーリーを描きたいと思い始めたシリーズです。男性からも感想をいただくことがあって嬉しいです」と黄身子さん。

“恋”をテーマにした話はどのように考えているのか尋ねると、「よく自分の経験を描いているのですか?と聞かれたり、恋愛体質だと思われたりするのですが、私自身は恋愛がとても苦手で、経験もあまりないです。お話の多くは恋愛について考えて作っているのではなく、日常の場面で感じたディスコミュニケーションを恋愛にたとえています。経験がなかったり行動できない分、想像を膨らませることが得意なのかもしれないです」。

アーティスト作品からインスピレーションを受けることもあるそうで、好きな人から電話を待ち続ける少女の話『やくそく』は「Twitterを始めたばかりの頃、大好きなシンガーソングライターの吉澤嘉代子さんの作品から発想して描きました。ご本人に見ていただけたこともあって、たくさんの人に知っていただいたり、再制作版をアーティストブックに収録していただいたり、光栄すぎる思い出深い作品です」。

また、友人が出演していたのをきっかけに視聴したという映画「愛がなんだ」を見て描いたのは『ミス』。「複雑な人間関係を俯瞰して見つめ直すと、少し冷静になれたりするのではと思って考えたお話。初めて大きくバズった作品で嬉しかったです」と話す。

そのほか、キャラクターを通して読者に寄り添いたいという思いで描き続けている「失恋したりぼんちゃん」シリーズや、恋のために自分が犠牲になる選択をする人魚姫をモチーフにした「人魚ちゃん」など、人間関係のもどかしさや切なさを描いた作品をTwitterでは多数配信している。

■恋愛だけじゃなく、多様な人間関係に寄り添いたい
4コマ漫画を描き始めた頃は恋愛の話は少なく、描くとしても自分の変な考え方を笑ってほしいという気持ちだったという。

でも、「少し描いてみたら、共感してくれる人がたくさんいて驚きました。本当は少女漫画を描けるようになりたかったのですが、男性キャラクターに興味が持てなかったのと、普通のハッピーエンドみたいなものが自分にはうまくできないような気がして、お約束の展開に感情移入できなかったんです。だからドラマチックじゃなくても、普通は恋愛漫画に描かれないような人間関係のモヤッとした取るに足りないような部分とか、いわゆるラブストーリーに共感できない人の気持ちを描きたい。ただ、結果としていろいろな恋愛観を持つ人から共感をもらえて、誰かと分け合える気持ちだったんだと救われたところもあります」と想像を超える反響から、自分の気持ちにも普遍的な部分があると気付いた黄身子さん。

「4コマという小さな枠組みの中での表現の良さは、文字と絵の組み合わせで意味が生まれることだと思うので、必要な要素だけ入れて、文字情報に付属するだけの絵や、絵の繰り返しになるような言葉は使わないように気を付けながら、比喩的なモチーフや深読みできそうな仕掛けを入れるようにしています。あと、女の子のかわいさは絶対妥協しないように、納得いくまで調整します」

今後の目標については、「まずは本を出すこと!寝る前に心を落ち着かせるために読んでもらえるような本づくりを目指しています。今後は長編やキャラクター設定をする作品も頑張りたいし、アニメーションやイラストのお仕事にも挑戦したい。また最近は、恋愛感情の抱き方を含め多様性の大切さに少しずつ光が当たってきている中で、これまで男性の顔を描けなくてモノや動物に置き換えていたことも、もっと違うやり方があるかもしれないと思うようになりました。『きらきらしたラブストーリーの外にある物語』だけでなくもっと広い意味で、多種多様な人間関係は全部間違いじゃない、というメッセージを描いていきたいです」と語ってくれた。

「SNSで活動していてトラブルになることもほぼなく、フォロワーさんをはじめ、本当に素敵な方々に支えられていると感じているので、この場をお借りして感謝をお伝えしたいです。メッセージなど全てにお答えできず申し訳ないのですが、たまに立ち寄って心を休められる場所であるように、これまで以上に頑張りたいと思っているので、これからも見ていただけたら嬉しいです」と黄身子さん。

ちょっと心が疲れた時、人間関係で思うことがある時、黄身子さんの作品を読んで心の整理をしてみては。

取材・文=重藤歩美(ウォーカープラス編集部)

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