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小川紗良、長編初監督作品にて「ひとりの女の子が人生を歩み出す瞬間を描きたかった」

  • 2021年5月31日
  • Walkerplus

6月25日(金)に公開される映画『海辺の金魚』は、新進気鋭の役者として活躍する小川紗良の長編初監督作品。NHK連続テレビ小説『まんぷく』や、本広克行監督の映画『ビューティフルドリーマー』などで役者としての幅を広げる一方、自主製作した3作品全てが映画祭で入選するなど、映像作家としても高い評価を得ている小川。

今回、監督・脚本・編集を手がけた『海辺の金魚』は、身寄りのない子どもたちの暮らす家を舞台に、そこで過ごせる最後の夏を迎えた18歳の主人公・花(小川未祐)が8歳の少女・晴海(花田琉愛)と出会い、少しずつ成長していく姿を描いた物語。完全オリジナルで挑んだ本作への想いを聞いた。

■その時期ならではの将来の不安や自分がやりたいことへの葛藤を魅力的に映したい
――『海辺の金魚』は小川さんの完全オリジナル脚本の長編映画。まずは、着想のきっかけから教えてください。

【小川紗良】今回、初めて長編を撮るにあたって、ひとりの女の子が自分の人生を歩み出す瞬間を描きたいなという思いが一番にありました。その後、どういう物語にしていこうかなと考えたときに、主演の小川未祐さんが当時18歳で、その時期ならではの将来の不安や自分がやりたいことへの葛藤を抱えている姿がとても魅力的で。そんな彼女の姿も重なって、施設で育った子が18歳でそこを出なければいけないというタイミングを描こうとなりました。

――小川さん自身の18歳のときの想いが反映されている部分もあるのでしょうか。

【小川紗良】そうですね。私も18歳のときは、将来何をやりたいかといろいろと考えていた時期でした。あと、この作品を撮ったのは2年前なんですが、当時はちょうど大学を卒業したばかりで。一人暮らしを始めて、自立しなくちゃと思うタイミングだったので、この作品にはそういった思いも重なっているような気がします。

■ロケ地である鹿児島県阿久根市の地元の子供たちが出演
――身寄りのない子どもたちが、すごく自然体だったのが印象的でした。

【小川紗良】子供たちの姿をイキイキと描きたいなというのも、作品を作る上で大切にしていたことなので、そう言っていただけるとうれしいです。事情があって親元から離れて暮らしているけど、決してかわいそうという視点では描きたくない。やっぱりそこにも普通の日常があって、楽しい瞬間も、喧嘩する瞬間もある。そういう日常の子供たちの姿に寄り添って描きたいなと思っていました。

――子供たちは皆さん、ロケ地である鹿児島県阿久根市でオーディションをされたんですよね。

【小川紗良】晴海役も含めて、みんな地元の子です。子役ではない地元の子供たちに出演してもらうというのは、結構チャレンジングなことでした。でも、阿久根市という場所に馴染んでいる子たちのありのままの姿は、地元の子供たちだからこそと撮れたものも多くて、すごく助けられました。

――ほとんど演技経験のない子供たちを映像に収めるのは、大変なことも多かったのではないでしょうか。

【小川紗良】最初は、私も子供たちとの関わり方が分からなくて大変でした。それまで日常で接することがなかったので探り探り(笑)。でも、最終的にはやっぱり子供といってもひとりの人間で、大人のことをすごくよく見ていることに気づいて。私たちが思う以上に賢い。だから、真摯に向き合うことが一番だなって。小手先だけでやろうとするとすぐに見破られちゃうので、ある意味、子供扱いせずにちゃんと向き合おうと心がけていました。

――主演の小川未祐さんも、そんな地元の子供たちと違和感なく馴染んでいました。

【小川紗良】周りの子供たちが自然体というより、もう“自然”なので、そのなかに役者さんがお芝居で入っていくのは、すごく難しいと思うんです。いかにお芝居をせずに子供たちのなかに馴染んでいくかというのは、彼女も悩みながらやってくれて。最終的には、晴海ちゃんとも仲良くなってくれたので、ふたりの信頼関係があったから、最後まで撮れたなという思いもあります。

――ポスタービジュアルの「いい子じゃなくても、抱きしめて。」というコピーもですが、劇中でも “いい子”というセリフが印象的に使われていますね。

【小川紗良】“いい子”というキーワードは、かなり最初のころから頭のなかにありました。一見、褒め言葉なんですけど、使いようや受け取り手によっては呪いになってしまうこともある。子供、特に女の子にかかった呪縛のようなものを、この作品のなかで解いていけたらいいなというのは、制作するうえでひとつ大きな手掛かりでもありました。

――女性は特に、母親と娘の関係性には独特なものがあると思うので、男性と女性では観たあとの感じ方が変わりそうです。

【小川紗良】そうですね。全然違うだろうなと思います。これまでの試写でも、女性の方にそう言っていただくことが多いですし、受け止め方の違いなども含めて、公開後、皆さんの感想が楽しみです。

■脚本、監督、編集だけでなくノベライズ版の小説も執筆
――今回は脚本、監督、編集に加えてノベライズとなる小説も執筆。公開に先駆けて、6月上旬に発売となります。

【小川紗良】小説は映画を撮り終わったあとに書いたんですけど、映画とは違う展開の部分や映画のあと、その先のことまで書いています。かなり違うというか、オリジナルとして映画とは別に楽しんでいただけるのかなと思います。

――女優業、監督業、そして執筆業と小川さんにはさまざまな一面がありますが、それぞれスイッチをどう切り替えてるのでしょうか。

【小川紗良】切り替えというか、私のなかでは“もの作り”という大きな意味で全てが繋がっている感じです。もちろんやることは全然違うんですけど、基本的に何かを作って表現することが好きなので。そういう意味では全てが繋がって影響を及ぼし合っていますね。

――そうなると日々、忙しく過ごされているのかなとも思うのですが、小川さんがホッとする瞬間ってどんな時間ですか?

【小川紗良】ホッとする時間、結構いっぱいありますよ(笑)。意外と気楽に過ごしていますから(笑)。最近、お香を始めたんです。映画の公開記念でお香立てをいただいたので、それをきっかけに始めてみたら、すごく落ち着くなあって。香りってやっぱりすごく癒やし効果がありますね。仕事で地方に行ったときなど、その土地のお香を買ったりしています。最近は、香りを楽しむ時間がすごくホッとする時間ですね。

■便利じゃないからこそ出会える豊かさや経験が映画の魅力
――コロナ禍では映画館がクローズするなどの状況もありましたが、改めて小川さんが思う映画の魅力を教えてください。

【小川紗良】今、いろんな情報があふれていて、簡単にエンタメに触れられると思うんですけど、そのなかでも"映画館で映画を観る時間"というのはすごく贅沢な時間。暗闇のなかで、いろんなことを遮断して、その作品だけに没頭する。私のなかでは自分をリセットしたり、ちょっと一息ついたり。そういう憩いの時間です。わざわざ映画館に行って、時間を拘束されると思う方もいて、決して便利なものではないけど、だからこそ出会える豊かさや経験があると思います。

――今回は小説にも挑戦されていますが、小川さんが今後、さらに挑戦したいことはありますか?

【小川紗良】今回、小説を書いてみて改めて気づいたんですけど、こうやってひとりで言葉と向き合うことで、広がっていく作品の世界もあるんですよね。なので、今回は映画が先でしたけど、今度は小説を書いて、それを映画にしていきたい。いつかできたらいいなと考えています。書きたいテーマも構想はあるんですけど、それはまだ秘密です(笑)。今後楽しみにしていてもらえたら。

――では、最後に改めて作品の見どころをお願いします。

【小川紗良】『海辺の金魚』は、怒涛の展開や目新しい仕掛けがあるような作品ではないですが、だからこそじっくりと日常に寄り添った、小さな世界のなかの豊かさみたいなものが見出せる作品になっていると思います。鹿児島阿久根市で撮った自然あふれる映像で、なかなか旅行に出られない今、少し遠くに想いを馳せられる作品にもなりました。子供たちの日常も心和む要素になっているのかなと思いますので、ぜひ映画館で観ていただけたらうれしいです。

取材・文=yoshimi 構成・取材協力=野木原晃一

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