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TEAM NACS結成25周年ツアーの大阪初日ルポ!ナックスの初印象と北海道ウォーカーとのご縁

  • 2021年4月16日
  • Walkerplus

演劇ライター・はーこが不定期で配信するWEB連載「はーこのSTAGEプラス」Vol.90をお届け!

“日本一チケットが取れない演劇ユニット”の異名を持つ、TEAM NACS。森崎博之、安田 顕、戸次重幸、大泉洋、音尾琢真のメンバー5人で1996年に結成、今年で25周年を迎える。3年ぶりとなる彼らの舞台「マスターピース~傑作を君に~」が大阪で開幕、全国11か所を巡演するツアーがスタートした。

今回の脚本は、2013年の映画「桐島、部活やめるってよ」で日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞した喜安浩平。演出には俳優・脚本家・演出家と多才に活躍しているマギーが、15年の第15回公演「悪童」に続き2度目の登板だ。

■あらすじ
時代は昭和27年。真冬の熱海の温泉宿に、新作映画の脚本執筆のため泊まり込みで原稿と向き合うシナリオライターたちがいた。傑作に挑み奮闘する彼らだが、良いアイデアが浮かばず、気になることもいろいろあって原稿はなかなか進まない…。

■ネタバレ禁止の初日ルポ
初日の舞台を観た。昭和歌謡が流れる劇場内で、マスクをつけた観客が静かに待つ。女性客が多いが、カップルや仕事帰りの男性も。3年ぶりの芝居は、笑いあり、しっとりあり、ドタバタあり、しみじみあり。実力ある俳優5人が全身全霊を込めて熱演する舞台は、展開のおもしろさに吹き出しながらよく笑い、登場人物のセリフに込めた彼らの思いに触れて感動し、最後には温かな気持ちに包まれる。

しっかり者のリーダー・森崎、どんな役でも自分のものにしてしまう安田、安定感のある戸次、芯も笑いも取る大泉、とにかく達者な音尾。彼らの個性が際立つ役柄は観客の期待を裏切らず、わかりやすい物語の中にいくつもの大切なメッセージを届ける。

カーテンコール。観客の満足度は劇場に響くスタンディングオベーションに比例する。“ありがとう”の思いがあふれる拍手は、“芝居のテーマを、ナックスの思いを、受け取ったよ”という観客の返答でもある。フルキャパでオールスタンディング。舞台上でうれしく、驚き、胸詰まらせ、笑顔で受け止める5人。観客もマスクの下は全員が笑顔だっただろう。

そして5人の挨拶。「ウケないと覚悟して臨んだのに、あなたたちはよく笑うなぁ」と笑い、満員の客席を眺めながら「前回大阪に来た時は客席が半分でした」と大泉。「これだけのお客様の前でやれるのはどれだけ幸せなことか」(戸次)、「皆さんからいただいた拍手、すごく胸に届きました」(安田)、そしてリーダーの森崎は「ナックスは25周年を迎えました」とこれまで支えてくれたスタッフらみんなへのお礼を忘れない。また「25年間でこんなに不安な初日はなかった」と、コロナ禍で大変な中を劇場に来た観客たちを気遣いつつ大きな感謝を伝え、「パワーをありがとう!」と締めくくった。

■大阪公演のカーテンコールとは
基本的に大阪の観客の公演初日と千穐楽のカーテンコールは、一筋縄ではいかない。「本日の公演は終了いたしました」のアナウンスは無視。何度も何度も拍手で登場を催促し、舞台に並ぶ俳優たちの挨拶を2回ぐらい聞くまで、さらには役者に「もう帰れ!(笑)」と言われるまで一致団結して帰らない(苦笑)。

が、昨年からはこの状況が変わった。コロナ禍のためカーテンコールは1回と要請されている。なので、今は我慢。その代わり、自分の思いを舞台上に届けたい衝動は、芝居終わりのいち早いスタンディング、声の代わりに全身で贈る全力拍手と全力手振りで表現する。それは、舞台に並んだ俳優たちが感動する姿を見て取れるほどに、だ。あぁ、生の舞台はやっぱりいいなぁ、と感じる瞬間。今、声を封じられた大阪人の“精一杯”が劇場に満ち、コロナ禍ならではの新たな感動の共有を生んでいる。

■劇場を出る時
劇場を出る時は、規制退場、分散退場が行われる。密を避けるために、アナウンスに従い席のエリアごとに退場するのだ。だから、客席が明るくなっても席に座って順番を待つ。今回は整然と、非常にスムーズだった。帰り道、歩きながら弾むような女子の会話が聞こえた。「おもしろかった!」「でしょ!ナックスは女でも男でも、子供から大人まで楽しめんねん!」。この言葉が、掛け値なしのナックス公演の魅力を語っている。

■ナックス、北海道から全国へ
北海学園大学演劇研究会出身で、北海道を拠点に舞台活動をスタートしたTEAM NACS。96年の初演を皮切りに公演を重ねるたびに話題を呼び、集客数を伸ばしていった。04年、第10回公演「LOOSER~失い続けてしまうアルバム」で、東京へ初の地方公演。“東京”へ“地方”公演。これは東京以外の“地方”にとって「どや!」的な響きがある。大阪へは翌年、初の全国ツアー(11都市)となる第11回「COMPOSER~響き続ける旋律の調べ」で初登場することに。

■ウォーカーとナックス、私的裏話
2004年、初来阪するナックスの公演が気になり、調べようとしていた。「連絡先は?」「北海道でしょう」。で、関西から赴任した北海道ウォーカーの編集長に連絡してナックスの地元人気を聞き、事務所オフィスキューに電話。その後、当時の編集担当者が「北海道ウォーカーの2005年お正月号で9ページで紹介されてます」とFAXを送ってくれた。2000年に創刊した北海道ウォーカー(現在は休刊)は、創刊以降ずっとナックスの記事を掲載。「COMPOSER~響き続ける旋律の調べ」のパンフレットには、北海道ウォーカーの広告も掲載されている。

■大阪初演のこと
2005年6月、会場は梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ。女子で満席だった。「こんなに人気があるんだ」が初印象。客席の雰囲気はどこかキャピキャピしていて、開演するや否や「洋ちゃ~ん!」の声。引いた。「ん?これはファンクラブイベントか?」。が、芝居が始まって唸った。メンバー全員、芝居がうまい。しかも一丸となって演劇に向かう真摯な姿勢が見てとれ、久しぶりに心地よい新鮮な感覚を覚えた。素直に感動させる舞台に、最後はほとんどの観客が泣いていた。それ以降、映画でも舞台でもベートーヴェンを扱った作品を何作か観て来たが、私の中でこの時の感動を超えるベートーヴェンものはまだ、ない。

■ファンへの愛
舞台に感動し「ナックス、できる」。そう思った関西初演から16年、それぞれがキャリアを積んで実力を磨き、全国区の人気に。その間、メンバーが個々に出演する作品で何度か取材の機会を得た。その折にみんなが口にすること。「僕らをここまで支えてきてくれたのはファンの方たち。彼らのおかげで今があるので、一番大事にしたい人たちです」。だからこそ、今や3年に1度となった5人が揃うナックスの公演は特別であり、何より彼らが大切にしている舞台なのだ。ずっと観続けてきたファンも、新しいファンも、コロナ禍で万全の対策をしつつ客席に座る。その愛に応えるべく、芝居の終わりに万雷の拍手で迎えられる最高傑作の舞台を目指して、6月の札幌公演まで57公演を駆け抜ける。コロナに負けず、無事に大千穐楽が迎えられることを心より祈る。

取材・文=高橋晴代

※新型コロナウイルス(COVID-19)感染症拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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