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「売れ残りガチャ」追加分も3日で完売、コロナ禍でも心を掴む京都水族館の“企画力”

  • 2021年3月31日
  • Walkerplus

「何が入っているかわからない。でも、お得はお得です」こんなフレーズを掲げ、京都水族館が3月に販売した「売れ残りガチャ」が、SNSを中心に大きな話題を集めた。意味深な言葉が添えられた黒い箱の中身は、文字通り在庫として滞留したフチ系商品。何が入っているかわからないこの“ガチャ”は販売開始直後から飛ぶように売れ、急遽用意した追加分もわずか3日で完売するほどの人気を集めた。売れ残りを売れ筋に逆転した発想が生まれたわけや、消費サイクルが早いといわれる今、継続して来館者の心を掴む企画力の源とは。

■1箱500円、中身不明の「売れ残りガチャ」が話題に
「時間と集中力をかけてあなたはカタルシスを獲得するのだろうか。」「乳幼児のいるご家庭にオススメです。」「永遠の小学生たちへ。」「オオさんか、ショウサンのどちらか。」そんなコピーが記された黒い箱の写真を京都水族館がTwitterに投稿したのは3月1日。「強気で発注しすぎた…お客さまの声にお応えしたはず…ずっと見守ってきた愛着のある商品たちですが、この度500円で販売することにしました」という告知とともに売り出されたのが“大決算!売れ残りガチャ”だ。売れ残り商品、しかも何が入っているのかまったくわからない箱がミュージアムショップの一角を占める一種異様な光景にもかかわらず、返信では「買いに行きます」「ネット販売してください」と購入を希望する反響が寄せられた。

売れ行きも当初の予想をはるかに上回り、3月1日の販売開始から1日100個以上が売れ、全10種類計500個の売れ残りガチャは3月4日で完売。好評を受け、3月19日から1000個を追加で再販したところ、今度はわずか3日で完売となった。購入者の中には複数個をまとめて買う人も多くいたという。

■「何が入っているのか確かめたい」ガチャの魅力を活用

在庫商品を、一転して人気商品に生まれ変わらせた同企画。京都水族館広報担当の奥村亜紀さんによると、同企画の出発点は、いわゆる「年度末の決算セール」だったという。

「たくさん発注しすぎた商品や、売れ行きが思わしくない商品など、在庫を少しでも減らすことを目的に企画しました。昨年12月より、いつどのように売り出すか議論を重ね、一般的に広く行われている『年度末の決算セール』として販売すると意図が伝わりやすいのではないかと考え、実施時期を3月としました。また、ただ在庫品を安く販売するよりも、お客様に購入意欲を高めていただくため『ガチャ』というアイデアに至りました」

現在ではゲームのアイテム入手手段の代名詞ともなっているように、何が出てくるかわからないのが魅力の同企画。1箱500円の在庫処分企画であるにもかかわらず、メッセージが書かれた箱は今回のために特注したもの。「こだわって制作しましたので、安価な箱ではござません」(奥村さん)と、想像以上のコストをかけ、商品そのものではなく“ガチャという形式に価値を作り出した”ことが功を奏した。購入者側も中身の“ネタバレ”を避ける配慮を見せたことで、実際に来館して購入した人だけが答え合わせを楽しめる構図が維持されたことも追い風になった。

■「ウケ狙い」ではなく「親しんでほしい」という想いを伝える企画作り

京都水族館では今回の売れ残りガチャのほかにも、タクシーや鉄道会社とコラボし、車内に巨大オオサンショウウオぬいぐるみが同乗する「オオサンタクシー」「オオサントロッコ列車」や、ペンギンたちの関係性を克明に記した「ペンギン相関図」といった企画、スタッフ全員が身に着けた「オオサンショウウオポーチ」などがSNS上でたびたび話題を呼んでいる。いずれもユニークで「ウケる」ものばかりだが、奥村さんによればどの企画も“ユニークさ”や“面白さ”を重視しているわけではないのだという。

「大変ありがたいことに、SNSで話題にしていただく機会は多いと感じています。ただ、企画は『ウケること』を重視しているわけではなく、『近づくと、もっと好きになる』というコンセプトを大切に、京都水族館の想いをしっかりお伝えすることを考えて作っています。SNSの投稿もスタッフならではの視点で、いきものたちの瞬間の表情やそれぞれの個性などを紹介し、親しみを持っていただけるような投稿を心掛けており、京都水族館自体に愛着をもっていただきたいという想いから、いきものだけでなく、グッズや飲食メニュー、館内の装飾やバックヤードでの出来事なども幅広く発信しています」

■コロナ禍の癒やしとなった「#休園中の動物園水族館」

その言葉を裏付ける、とある取り組みがある。ハッシュタグ「#休園中の動物園水族館」だ。コロナ禍の緊急事態宣言を受け、昨年多くの施設が休園・休業を余儀なくされるなか、全国の水族館や動物園がこのハッシュタグをつけ、写真や動画、メッセージで休園中のいきものの様子をSNS上で発信した。このハッシュタグを発案したのが、京都水族館とその姉妹館であるすみだ水族館だった。

「コロナの影響で各館の休園・休館が決まっていくなか、たくさんの水族館や動物園がSNS上でいきものたちの様子を発信していたこともあり、共通のハッシュタグで盛り上げることができれば、たくさんの人に元気ないきものの様子を家でも楽しんでいただけるのではないかと考え、まずは、京都水族館とすみだ水族館の2館で『#休館中の水族館』を始めました。そして、日ごろから繋がりの深い近畿を中心とした水族館・動物園の数カ所に『休園中の動物園水族館』というタグでツイートし、いきもの情報を皆さんに発信していきませんか、とお声掛けをさせていただきました」

その結果、120を超える施設に広がった同ハッシュタグは、葛西臨海水族園や足立区生物園など、再び臨時休園となった施設で現在も活用され、1つのネット文化として定着している。

話題性や集客のためにSNSを活用するのが当たり前になった今、「どうバズるか」ではなく、あくまで親しみを持ってもらいたいという視点からの発信を目指す姿勢が、一過性で終わりがちなSNSにおいてユーザーからの注目や共感を呼ぶ下支えになっているといえるだろう。

今後の企画作りについて、奥村さんはこう話した。
「京都水族館が遠い存在、敷居の高い存在ではなく、人々の日常に身近に感じていただけるよう、これからもさまざまな企画や展示を通じて、楽しんでいただけたらうれしいです」

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