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尾上右近が語る京都・南座「三月花形歌舞伎」の見どころ「今回は見逃がしていただくわけにはいかない!」

  • 2021年3月9日
  • Walkerplus

演劇ライター・はーこが不定期で配信するWEB連載「はーこのSTAGEプラス」Vol.87をお届け!

尾上右近。今年、特に注目したい歌舞伎俳優の1人だ。2017年のスーパー歌舞伎Ⅱ「ワンピース」では、ケガで休演した市川猿之助の代役を見事に務め、ルフィを演じて注目された。本来の歌舞伎公演はもとより、一般的な演劇の舞台、ミュージカルのコンサート、さらにバラエティ番組にも出演とジャンルを超えて幅広く活躍中。また今後は、大河ドラマ「青天を衝け」に孝明天皇役で出演し、10月公開の「燃えよ剣」では映画初出演も。今回、その尾上右近らが主となる「三月花形歌舞伎」が南座で開幕となった。

「花形歌舞伎」は今まさに輝きを増し始めた役者たちが居並ぶ、ショーケースとも言える舞台だ。まっすぐなパワーとフレッシュなオーラが、歌舞伎の次代を担う確かな可能性を感じさせる。この公演を観ておけば、今後スターへの階段を上っていく注目株の成長ぶりが楽しめる。

出演はほかに中村壱太郎、中村米吉、中村橋之助ら。いまや歌舞伎界以外でも広く知られる片岡愛之助や尾上松也らが経て来た道を、また新たな世代が歩み始めている。歌舞伎通はもちろん、歌舞伎初心者にもおすすめの「三月花形歌舞伎」。この公演に向け、尾上右近が意気込みと見どころ、そして歌舞伎と自らの活動への思いを熱く語った。

■プログラム
一、 歌舞伎の魅力
二、 義経千本桜「吉野山」
三、 義経千本桜「川連法眼館(かわつらほうげんやかた)」

歌舞伎の3大名作のひとつとして人気の「義経千本桜」より「吉野山」と「川連法眼館」をAプロ・Bプロ役替りで上演。また出演俳優が日替わりで「歌舞伎の魅力」を解説。Aプロ・Bプロ、さらに奇数日偶数日で配役が変わる。いつ観るか…めっちゃ悩ましい。

■演目解説
「吉野山」
桜満開の奈良・吉野山。源義経を追って旅をする静御前。お供の忠信を見失った静御前が、義経から形身として預かった初音の鼓を打つと、どこからともなく忠信が姿を現し…。2人の道行を艶やかな舞踊で表現する1幕。

「川連法眼館」
川連法眼の館にかくまわれている源義経のもとに、家臣・忠信が訪ねて来るが、そのあとに静御前が忠信をお供に到着したとの知らせが。忠信が2人!?静御前のお供の忠信は、実は狐。初音の鼓の革に用いられた狐の子で、親を慕い人間に化けて静に付き添ってきたのだ。親子の情愛、狐と人間との慈愛を描いた心温まる物語。「義経千本桜」四段目の切り場(クライマックス)で、通称“四の切”と呼ばれる。

■右近、意気込みを語る
二代目尾上右近:1992年5月28日生まれ。清元宗家七代目清元延寿太夫の次男。母方祖父は昭和の映画スター鶴田浩二。2015年より自主公演「研の會」を主宰。18年、清元の浄瑠璃方の名跡、七代目清元栄寿太夫を襲名。歌舞伎俳優と二筋の道を行き、踊りも定評のある多才。

「初めて自分が主となって務めさせていただく、古典の歌舞伎の演目です。自分の役者人生において、とても意味深い公演になることは確信しております。今は踏ん張り時、とずっと思い続けてやってきたなかで、まさにそのような公演の機会に恵まれました。やっとここまで来たかと思うと同時に、まだまだこれからだという気持ちもあり。ここまで来たのは先輩方、お客様、本当に皆様のおかげで。これからこの公演を経てどういう役者になっていくのかは、自分自身の踏ん張りようによって決まる。それを胸に刻んで真摯に向き合い、そして楽しく、ワクワクとした童心を忘れずに一生懸命務めさせていただきたいと思います」

■右近が語る中村壱太郎
「壱太郎さんは僕が大変お世話になっている近しい先輩でもあり、お互いがいるから頑張れるという同志のような戦友のような親友のような心の友です。もう精神的恋人状態(笑)。今回、恋人ではないですけど、Aプロでは静と忠信というペアを組ませていただきます。自分たちの思いがやっと伝えられる公演だと壱太郎さんとは分かち合っていて、一緒に楽しみたいと思っています。ただ、一緒に出られてうれしいと思う一方、気合いも入って戦う壱太郎さんの姿を、いち歌舞伎ファンとして客席から観たいと思う自分もいるんですよね。その分、お客様には僕の分も客席から壱太郎さんを応援して背中を押してパワーを送ってあげてほしいなと(笑)」

初代中村壱太郎:1990年8月3日生まれ。四代目中村鴈治郎の長男で、上方歌舞伎のDNAを継ぐ貴重な女方。右近より2歳年上で、今回の公演の最年長。女方として着実にキャリアを積み、成長著しい。新作や企画公演など、立役の人気俳優から相手役へのリクエストも多い。

■右近が語る中村米吉
「米吉君は、人を喜ばせたり楽しませたり華やかな気持ちにさせることに長けている俳優さんだと思う。僕とガッツリ同世代で、小さいときからお互いにどういう経験を経て来たかを見つめ合って来た人。歌舞伎をやっていくうえで、まだまだ勉強不足で不安な気持ちや自信のなさが内在していることを確認し合っているんですけど、彼の舞台度胸には僕自身とても見習うところがあるなと。今回も彼なりの華やかな静御前でお客様に喜んでいただけるだろうと僕自身も楽しみにしています。そして何より、彼はおしゃべりが上手。『歌舞伎の魅力』の解説では、4人の中で彼が一番、歌舞伎の魅力をお伝えできるんじゃないかな。素の自分で舞台に出たときに彼のおしゃべりは力を発揮するし、その舞台度胸も功を奏すると思うので。私も負けるわけにはいかないですけど(笑)」

五代目中村米吉:1993年3月8日生まれ。五代目中村歌六の長男。右近とは幼馴染みで同級生。南座では2015年の「三月花形歌舞伎」、昨年12月の「吉例顔見世興行」で共演。父は立役だが、本人はタレ目がチャームポイント?の超可愛い女方。その姿と声は本物の女子、完全に顔負け。

■右近が語る中村橋之助
「橋之助さんは、お芝居が好きで芝居心があり、歌舞伎の匂いをとても自分のなかで大事にしていると、いつも舞台を観ていて思います。今回は彼と狐忠信を役替りで演じます。彼は去年巡業で上演予定だった『四の切』がコロナ禍で中止となり、今回再チャレンジという形で挑まれるお役で、僕は初役。歌舞伎でダブルキャストのときはだいたい指導いただく方や踏襲する型が違ったりするんですけど、今回はお互いに(尾上)菊五郎のおじさまにご指導いただくので、型が同じものを2人の若手がやることになります。でも、同じ型をやってもそれぞれの個性や芸が違うので、お客様に伝わるものも違うということを感じていただけるんじゃないかな。僕より下の年代でガッチリ立役という人が意外と少ないなかで、立役の王道を歩んでいる彼が、中性的な狐忠信のお役を勤めると特別な魅力が出て来ると思うので、そこが見どころのひとつだと思います」

四代目中村橋之助:1995年12月26日生まれ。父・八代目中村芝翫、母・三田寛子の長男。歌舞伎では若手ながら立役で既に存在感を見せ始め、今年1月には「ポーの一族」でミュージカル初出演も。今回、弟の三代目中村福之助と四代目中村歌之助も出演する。

■右近、演目への思い
「Aプロの『四の切』は、本興行のお役を菊五郎のおじさまに教えていただくのは今回が初めてなので、気合が入ります。音羽屋の自分が、音羽屋ゆかりの演目、音羽屋ゆかりの型で本興行で大役にチャレンジできるというのはひとしおの思いがあります。『吉野山』に関しては、踊りは全段全曲通して藤間御宗家の振付でさせていただき、忠信の引っ込みは猿之助さんのお許しをいただいて、澤瀉屋(おもだかや)型で花道を狐六法で引っ込む。Bプロの『四の切』の義経は、巡業のとき初めて(中村)梅玉のおじさまに教えていただいた大切なお役。解説は昨年10月に御園座で初めてさせてもらって、自分がワクワクした気持ちを伝えることが重要だと感じました。僕はAプロ、Bプロ、両方を見ていただきたい。どちらもお客様の心に爪あとを残しちゃうぞ、という思いでやります」
※澤瀉屋の瀉の字は「ワかんむり」

■右近、本気!
「今回の若手公演は僕以外皆さん、お父様が歌舞伎俳優。自分の父は歌舞伎俳優じゃないということを考えたときに、自分が信じた道を突き進んで行こうと。こうやって進んでいく中から自分にしかないモデルがきっとできると信じています。今回も、いろいろミックスしながら自分なりの形を模索して、自主公演ではない公演で”僕はこんなふうになりたい”と初めて提示できるかなと思います。やれてうれしい、そしてやるからには責任がある。そのふたつの気持ちが同居している心の在り方は、この4人の中では誰にも負けないんじゃないかな。いつも本気ですけど、今回は見逃がしていただくわけにはいかない!」

■右近、感動させる
「古典の型を踏襲する、残ってきたものを自分が継承し、残す。これにプラス、現代に生きている自分が古典をやることによって、現代にしかない新たな感動をどこかで伝えなきゃと思う気持ちが、最も古典に対する敬意なんじゃないかなと、すごく思います。そしてお客様はきっとそれを見抜いてくれる、受け止めてくれる。それはテレパシーだと思うんですよ。言葉じゃなくて、思いとか念じるとか、そういう気持ちで挑んでいれば、きっと人の心は動く、感動させられる。中国故事で“正直動山鬼”という言葉があって。心が正しく素直であれば山の神をも感動させる、という意味なんですって。この言葉、僕大好きで。きっと動く、きっと人の心は通じる。自分の心が正しければまっすぐ届く。そういう思いで歌舞伎をやりたいです。今回は、最もその感動を伝えられるチャンスだと思っています」

■右近、その根っこにあるもの
「歌舞伎の外の世界に一歩出てみると、自分がいるそのときそのときの瞬間が自分の居場所になるので、居場所を定めずにあっち行ったりこっち行ったりすることによって、自分自身がどう考えているかというのが試されますね。猛省の連続だったりするんです。でも、なんとか自分で踏ん張って周りに導いてもらって、ゴールにたどり着くことができたかなっていうところで歌舞伎に戻ったときの新鮮さといったら!大きなバックグラウンドである歌舞伎というものの重要性や素晴らしい部分、ありがたみを強く感じます。だから、ひとつの所にとどまらず、これからも発展させていきたい」

「どの場所でも、うまくいったときもうまくいかなかったときも、根本にあるのは“人に喜んでほしい”ってこと。自分でも、人を喜ばせようと思っている気持ちがプログラミングされている性格で非常にラッキーだなって思います。それがなかったら、毎回見失ってつらい思いをするのかもしれないし、自分がやってることが知らず知らず人に対して失礼になっていったりするかもしれないし。“人に喜んでもらいたい”という気持ちにウソがないことが、僕のひとつの軸なんじゃないかなって思います」

取材・文=演劇ライター・はーこ

※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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