色鮮やかで個性的なストールや鞄、ヘッドバンドを身に付け、カメラに向かって弾けるような笑顔を向けるのは、御年97歳の恵美子(えみこ)おばあちゃん。5年ほど前に″さをり織り″アーティストである孫の森千波さんの作品をまとってInstagramに登場した途端、世界中が注目する存在に。2016年にはGUCCIから声がかかり、2人でアートワークに参加。同年11月にはフォトブック「おばあちゃんはファッションモデル」(飛鳥新社)が出版された。
以降もファンが増え続け、今やInstagramのフォロワー数は4.5万人超え。一体なぜおばあちゃんをモデルに起用したのか、おばあちゃんの笑顔の源はなにか。「世界で一番大好きな人」と、恵美子おばあちゃんを慕う森さんに話を聞いた。
■″おめかし″をして、少しでも若返ってほしい！
兵庫県伊丹市で娘さんご夫婦と3人で暮らす恵美子おばあちゃん。森さんは「もっと近くで過ごしたい」という思いから、2015年に兵庫県西宮市からおばあちゃんの家の近所に引っ越したそう。
「小さいころからおばあちゃんが大好きで、毎週のように会っていました。今は朝、おばあちゃんを迎えに行って私の自宅兼工房で一緒に過ごし、夕方に家まで送っています。日中は私の隣で話をしたり本を読んだりしてゆっくりと過ごしています。″さをり織り″に使う糸を巻く手伝いをしてくれることもあるんですよ」
実はInstagramを始めるずっと前から、森さんの服を着たりネイルをしたり、2人が会う時はおばあちゃんに″おめかし″を楽しんでもらっていたそう。
「私の服は華やかなので、おばあちゃんは初めのうちは『恥ずかしい～』なんて言っていたのですが、気分が変ってなんだかうれしそうでした。おばあちゃんが笑顔になると私もうれしいので、会うたびにおめかしをして写真を撮っていました。作品のモデルをお願いしたのはその延長です。モデルになることで、たくさん笑って楽しんで、少しでも若返ってほしいという一心でした」
■Instagramのコメントが励みに！
「かわいい！」「こんなおばあちゃんになりたい」など、Instagramに寄せられるコメントも、恵美子おばあちゃんの笑顔と元気の源になっている。
「いただいたコメントはすべて、おばあちゃんに読んであげています。皆さんからコメントをいただくことがうれしくて『もっといいモデルになりたい』なんて、言っています」
時には、森さんの作品を身に付けたフォロワーのおばあさまの写真が届くことがあるのだとか。
「還暦や100歳のお祝いとして、私が作ったストールを贈ってくださったようです。おばあちゃんの笑顔が、いろいろな人に伝わったようで本当にうれしく幸せな気持ちになりました」
■元気と笑顔の秘訣はメンタルの強さ！？
恵美子おばあちゃんは大正11(1922)年、沖縄県国頭郡生まれ。35歳の時に夫が破傷風で急死し、女手一つで5人の娘を育てたそう。
「耳が少し遠くて腰が痛いこと以外、元気そのものだったのですがうっかり転んで骨折してしまい、今年の3月から7月まで入院しました。97歳で初めて手術を経験したのですが、術後には『もっとお願いします～』と言って、とても意欲的にリハビリに取り組んでいました。これには、『入院を機に寝たきりになる方が多いのに、すごい！』とリハビリ担当の方もびっくり。戦争などたくさんの困難を乗り越えてきたこともあり、メンタルが強いんだなぁ～と誇らしく思いました」
プライベートな出来事をあまりInstagramに書かない森さんだが、入院の一件は公開。
「皆さんからのコメントが、おばあちゃんの励みになるのであえて書きました。温かい応援のメッセージ、おばあちゃんに届いています。本当にありがとうございます」
■森さんが作る″さをり織り″とは？
普段着はとても地味だという恵美子おばあちゃん。Instagramでおばあちゃんをかわいく華やかにしてくれる″さをり織り″とは、どういうものだろうか。
「″さをり織り″は大阪発祥の織物で、はた織りの一つです。これといったルールがなくて素材や織り方、もちろん色味も自由で、個性や感性などの″差異を織る″ことから、名付けられたようです」
森さんの作品は色使いが美しく、素材も色も異なるさまざまな糸が編み込まれながらも、明るくポップにまとまっているのが特徴だ。
「趣味で作ったストールを巻いて歩いていたら、突然『そのストールを売ってください！』と声をかけられたことをきっかけに、受注生産をするようになりました。商品はすべて一点物で、お客様のリクエストに合わせて思いついたままに織っています」
InstagramのDMでオーダー可能。「冬をイメージしたストール」「桃をイメージしたヘッドバンド」など、イメージを伝えて注文する人が多いとのこと。
■SNSでおばあちゃんの元気と笑顔が連鎖
Instagramに掲載している写真は、ストールなどの作品に合わせて森さんが服やマニキュアなどを選び、おばあちゃんをコーディネートしているそう。
「お化粧をして作品を身に付け、華やかな服を着たおばあちゃんは、いきいきキラキラしています。おばあちゃんに楽しんでもらうつもりで始めたことが私の楽しみもになって、おばあちゃんの笑顔がフォロワーの皆さんにも伝わって、皆さんからのコメントで私たちが元気をいただいて…。もう、うれしい限りです！ これからも見守ってくださいね」
10月上旬に98歳の誕生日を迎える恵美子おばあちゃん。いつまでもお元気で、かわいい笑顔でたくさんの人にハッピーを運んでほしい。
取材・文＝吉田英子
